鏡の精霊と灰の魔法使いの邂逅譚

日村透

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番外・後日談

精霊のまたたび草 (1)

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 鏡と鏡を自由に行き来できるようになっても、悠真は滅多にその力を使うことはなかった。
 そこに『鏡』さえあればどこまでも行ける便利な能力だが、あまり遠くに行って万一のことがあった時、オスカーの助けが遅くなってしまう。

(それにどこかへ出かける時は、オスカーと一緒に行きたいしね)

 悠真は腰のベルトにしゃらりと揺れるチャームを見下ろし、『にこにこ』というより『にまにま』と笑んだ。
 オスカーはその様子に照れたような気まずそうな空気を漂わせつつ、何ともいえない複雑な表情をすぐに隠した。そしてしゃがんだ翼竜の《ラディウス》に悠真を乗せ、その後ろにひらりと飛び乗り、軽く手綱を振る。
 黒い使役霊は音もなく飛び立ち、レムレスの館はあっという間に遠ざかった。

 悠真が鏡の移動をあまり使わない理由が、もうひとつあった。
 空の旅に勝るものはないということ。
 広い森を見渡しながら、頬に風を受けて進む。この素晴らしさは何とも比べようがなかった。

「最高……! 気持ちいい!」
「寒くないか?」
「全然!」

 季節は秋。やっと涼しくなり始めた頃だ。
 少し前に二人で王子達に会い、最近の様子を尋ねたところ、あちらはさほど大きな混乱もなく安定した状況が続いているらしい。大変なことがあったけれど、大勢の魔法使いの暗躍もあり、膿を一掃できたおかげでまつりごとが快適になったそうだ。
 すべてがいい方向に進んでおり、王子達は悠真とオスカーのおかげだと感謝してくれた。

 そんな大層なことなど何もしていない、と悠真は思う。
 自分は単に、友達を助けたかっただけ。
 むしろ悠真のような特殊な存在に、今もずっと自由を与えてくれていて、こちらこそ感謝したいという気持ちなのだった。



 今日はオスカーとデートの日。
 「きみらは大半がデート日じゃないか!」とリアムには揶揄からかわれ、悠真もどうかと思わなくもないけれど、やめるという選択肢はなかった。
 つまり正しくは、「今日も」デートの日である。
 行き先は同じこともあれば違うこともあった。今回は久々に水鏡の泉でお昼を食べようという話になり、上空から不可視の膜を通り抜けて泉のほとりに舞い降りてみれば、そこの季節は秋真っ盛りだった。
 この泉の周辺だけ『外』と季節が違っている不思議な空間なのだが、今回はそこまでズレていないようだ。

「珍しいな。こういうこともあるか」

 季節が一致している時期にここを訪れたことは滅多にないらしく、オスカーも驚いている。

「外と変わらんのなら、ここでなくともよかったか?」
「そんなことはないよ。だって、ここにしかない植物なんかもたくさんあるし、慣れた場所でもたまにこういうことがあると面白いね」

 悠真が楽しそうに言うので、オスカーはホッとしたようだ。

 ある意味、このやり取りは何かのフラグだったのか。
 悠真は、すっかり慣れたつもりの世界でも、まだまだ知らないことがあるんだなと思い知ることになる。




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 読んでくださってありがとうございます!
 今回短めですが多分(2)話までになると思います(そして次回*付きです)。

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