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喚び招く
65. 賑やかに打ち合わせ
しおりを挟む「殿下はこれに関して、自分の口から説明することができないんだ。だから私が代わって話すよ」
リアムが唇にいつもの笑みを乗せるのを見て、ジュール王子はやや安堵した様子だった。
結果として彼らに緊張を強いる結果になってしまい、悠真は少しばかり落ち込んだ。
「私が戻ってから話すと言ったのは、彼らを正式な『関係者』として迎えるためかな?」
「はい。……リアムさんがいたらできると思って。ごめんなさい」
「とんでもない、むしろ我々が配慮に礼を言うべきだね。その通り、私は彼らをこの秘密の共有者に加えることができる。そうしたら殿下も彼らに堂々と話すことができるようになるよ。それにユウマくんが先に言ってくれて助かった。もし最初に私やオスカーが説明していたら、彼らはこの先ずっと話の信憑性を疑い続けたろうからね」
皮肉はなく、ごく自然にリアムは近衛達を見た。図星だったのか、近衛達の表情が苦いものに変わる。
敵意があったわけではない。ただ、彼らにとってリアム達は何日経過しても得体の知れない存在のままであり、警戒心がどうしてもなくならなかったのだ。
もしオスカーやリアムが先に話し手となっていれば、善良で優しい悠真が彼らのために口裏を合わせているのではないかと、頭の片隅に疑いが残ったままだったろう。
「ユウマくんの言った通りだ。かつて《灰の魔法使いレムレス》は、国王とそれに連なる血族に血の誓約をさせた。二度と我々を奴隷にできないようにね。この記憶は血に受け継がれ、王家とそれに準ずる血の者は誰に説明されずとも、物心つく頃には思い出すようになっている。補足するならば、禁を破った場合に全精霊から見放される人間の範囲は、魔導塔以外のフォレスティア王国民すべてだ。それから―――……」
「国王の血が謀略によって絶えることも、禁に抵触する。誓約の儀式を行ったのは国王一人だが、約束を守らねばならない人間はフォルティス王家の臣民全員だ」
悠真やリアムでは言いにくいであろうことを、オスカーがきっぱりと続けた。
「つまり……陛下が即位される前、欲深い臣下が王子達の派閥を勝手に作り、双方を争わせたのは……」
「滅亡を招きかねない、最悪の愚行だった」
喘ぐようにジスランが呟き、オスカーはあっさり肯定した。
「しかもそれ、まだ終わってないんだよ、ジスラン」
「ユウマ様……?」
「今も王宮には、その続きをやろうとする人達が何人も残っていて、カリタス伯はその人達に『兵器』を与えたんだ。多分のっぴきならない状況になってから、知らなかった、こんなことになるとは思わなかったんだ、なんてぼやき始めるんだろうね。ううん、既にもうぼやいているかもしれない。きっと『どうしてこんなことになったんだろう』なんて迷う素振りをしながら、そのたびに自分に言い訳をして、何度でも協力し続ける。―――止めないと、止まらないよあの人は」
自分の過ちを認めることも、自分の行動にブレーキをかけることもできない。
誰かに強引にでも教えてもらわなければ、永遠に学ぶことはないだろう。
「そうだな。強制的にでも、止めなければならない。その段階に入ってしまった」
「つまり今回私が連れてきたのは、それを実行するための戦力だよ」
「なっ!?」
「こらこら隊長殿、驚くんじゃありませんよ。あちらさんが我々に先制攻撃を仕掛けてきたんだ。まさか第二撃の準備が完了するまで、大人しく待っていてやれとでも言う気かい?」
「しかし……!」
「やめろ、パッシオ」
「殿下?」
ジュール王子は冷静だった。一瞬激昂しかけていた近衛隊長は、遥か年下の王子の落ち着きに、恥じ入って口を閉ざす。
「勘違いをするな、パッシオ。攻撃を受けたのはユウマだ。禁を犯したのも奴らだ。我々がするべきことは、レムレスやヴェリタスへの助力であり、考えるべきは奴らの断罪だ」
「殿下……」
「それにヴェリタスは戦力と言ったが、具体的な戦い方をまだ聞いていないだろう」
その通りだ。近衛達はつい純粋な武力同士での激突を連想してしまったが、ここに集っているのは魔法使いだった。
「おそらく、我らには想像もつかぬやり方がある。そうだろう?」
「合格です。いやあ、本当に成長してしまいましたねぇ殿下。ついこないだまで、こーんな小っさくて小生意気なガ……お子様だったのになあ」
「その話はやめろ」
急にじじくさい昔話が始まりそうになり、慌ててジュール王子が止めた。
そんな場合ではないのに、悠真はつい笑いそうになってしまった。
広い食堂で、おのおのが自由に椅子に座り、客人の魔法使い達も口を挟まずにくつろいでいる。
彼らの代表として話すのはもっぱらリアムだが、たまにボソリと突っ込みを食らっていた。
(……手、すっかり放しそびれちゃったな)
オスカーの指は、悠真の指にしっかりと絡んだままだ。
たまに客人達から視線を感じて恥ずかしいのだが、この会議が終わるまでは放してもらえそうにない予感がしている。
「つまり彼らは戦力ではあるが、何も凄惨な戦の再現をしようというのではない」
「そうそ。騎士だからそういう頭になりがちなんだろうけれど、決めつけるのは早計だよ」
「肝に銘じておく……」
双方向からチクリと刺され、近衛隊長は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「だが、武力も必要な場面は出てくるだろう?」
「ええ。厳密に『武力』とは断定できかねますが、父の隠し玉がほかにもあると想定しておくべきでしょう。そうでなくとも、破れかぶれになって無茶をするかもしれません」
「お仲間さんの私兵が襲ってくる可能性だってあるしねぇ。金で雇われたごろつきとか。今回はすぐ動ける面子だけ来てもらったけれど、接近戦も得手なのは三割弱ぐらいだよ」
「充分だ。ユウマは……」
「オスカーと一緒に行く」
「いや、しかし」
「絶対、オスカーと行く。それから、絶対絶対ミシェルをぶん殴る! オスカーもあのコドモオジサンぶん殴ってスッキリしなよ!」
悠真の剣幕にオスカーはきょとんとして、滅多にない友人の間抜け面にリアムは「ぶふっ」と吹いた。
それを皮切りに、完全に面白がったリアムの揶揄い声と、揶揄いに殺気で返すオスカーの声、真面目に軌道修正を試みる王子とジスランの声が食堂内に響き続けた。
ちなみに王子達がリアムに苦情を述べた直後は、「そうだ」「その通りだ」「ぐうの音も出ない正論だ」などといった合いの手がボソリ、ボソ、と挟まれている。
声はボソボソしていても、やたらテンポはいい。
(あれ? ……なんか気難しそうな人達っぽかったけど、案外お喋りできそう?)
真面目な打ち合わせをしているつもりだったのに、いつの間にか違う何かにすり替わっていた。
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