鏡の精霊と灰の魔法使いの邂逅譚

日村透

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番外・後日談『巻き戻り令息の脱・悪役計画』からの出張編

異世界からの来訪者 (1)

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 読みに来てくださってありがとうございます!!

 ※「巻き戻り令息の脱・悪役計画」の主人公達が登場しております。
 ※ そちらを未読の方はご注意くださいませ!

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 増長した臣下によるフォレスティア王国王家への謀反のあと、国と魔導塔が連携して動いたことにより、世の中は早々に落ち着きを取り戻した。
 あの日から月日が経ち、火のせつに入る頃。魔導伯オスカー=レムレスが筆頭のリアム=ヴェリタスを呼び出し、挨拶もそこそこに始めたのは、実に不穏な話だった。

「残党が悪魔召喚に手を出そうとしている可能性がある」
「……カリタス家の秘術か何かかい?」
「いや、違う。以前潰したあの家だ」
「ああ、あの……」

 魔法の大家でありながら、精霊の愛し子であるオスカーとリアムよりも重宝されないことにいじけ、こちらも反逆を企てて潰された家だ。
 その家の魔法書や歴史書はすべて魔導塔の所有となっていたが、それらの管理をオスカーが任され、細かく調べ直している間に、彼はふと違和感を覚えた。
 何がどうとは説明できない違和感に、これは何かあると確信が強まり、彼の伴侶にも協力を頼んで、違和感の場所を探ってもらった。

「強力な精霊言語で封印された上に、目くらましもかけられている歴史書があった。その中に、あの家がかつて、異界からの悪魔召喚に成功したくだりが書かれていてな」
「穏やかではないねぇ……」
「しかも、召喚の術式が書かれていたであろうページがすべて切り取られていた。当時の当主は、自分達の手には負えないと、カリタス家にそれの管理をたくしたらしい」
「ええっ!? ―――きみの家に?」
「祖父の蔵書にはなかった。あれを外に出した者がいるとすれば、ロベール=カリタスだ」

 リアムは顔をしかめた。あの男、余計な置き土産を遺してくれたものだ……。
 魔導塔の魔法使い達へ、最悪の禁術が行使される可能性を速やかに伝え、二人は情報収集を行い、およそ一ヶ月後。
 とある廃墟で、怪しげな黒装束を身に纏った集団が、何やら恐ろしげなことをしているとの一報が入った。

 月が昇り、闇の帳が辺りを覆い隠す時間、オスカーとリアムは仲間の魔法使い数名を連れてその場所に駆けつけたのだが……。



   □  □  □



 その魔法陣の中央にいるのは、白い子猫だった。
 片手に乗るような、本当に小さな子猫である。
 術師達はみな、「え?」という顔を見合わせていた。

「失敗、した……?」
「し、失敗、だと? 何故だ?」
「術式は、正しく発動したはず……?」

 必要量の魔力を確保するため、苦労してかき集めた大量の魔石。
 書に書かれていた手順に従い、正しい季節、正しい日数、正しい時間帯に呪文を唱え続けた。
 なのに、出現したのは、愛くるしい子猫。
 何故、子猫?
 もっと巨大で、おどろおどろしい、この世の恐怖が現われるはずだったのに。
 残党の術師達が、これにどう反応すればいいか困惑で目を見合わせる中、一歩遅れて広場に踏み込んだ者がいた。
 オスカーとリアムだ。

「……間に合わなかったか。
「あぁ、最悪だね……素人があんなものび出すものじゃないっていうのに」

 舌打ちするオスカーに、リアムも警戒を強めた。
 彼らは見た目の愛くるしさには騙されない。あれが本物だと、彼らにはわかる。
 しかも……。

「大物だ……」
「どうするんだい、あれ……。このままお帰り願うのって無理そうかなぁ……?」

 二人の会話を聞きながら、魔法使い達も臨戦態勢を取るが―――


「なん……なんっってことしてくれやがったんだ、おまえらぁぁ~ッッ!!」


 甲高い子供のような声が響き渡った。

「ひいっ!?」
「うわああッ!?」

 広場の各所に設置していた松明の炎が爆発的にふくれあがり、子猫の背後に巨大な影が出現した。
 あのような小さな生き物の影としては、不自然なほどに黒く巨大な影だ。
 素人術師達は悲鳴をあげて後退り、オスカーとリアムは防御結界を張って構えを取る。
 凄まじい魔の波動……。これは、暴れ出すか?
 しかし。


「―――もぉうっ! もうっ、もうっ、なんてことしてくれんだよっ! あいつらまでこっちの世界に来ちゃったじゃんっ! あっ、しかも気配が追えない!? あいつらどのへんにいるんだ!? ああああ、もおおうッッ!!」


 恐ろしい魔の波動を振り撒きながら、子猫はうろうろ、鼻をヒクヒクさせては、あちこちを見上げて何かを探している。
 何やら、様子がおかしい。異界の悪魔とやらは、魂を捧げることでどのような願いも叶えてくれるという存在だったはず。
 この術式が封印されたのは、その大悪魔が願いを叶えて異界に戻る直前、契約者以外の魂までをも大量に刈り取ってしまったことが原因だった。
 具体的な姿かたちは記されていなかったが、それは魔法使い達にはどうでもいい。小さなものが弱いとは限らないことを、彼らはよく知っている。
 しかしどうにも、あの子猫は、自分を召喚した者どもに興味を示す様子がない……。

「くそっ、しかもこれ、契約しないと出らんない術じゃん!? だるッ!! 捜しに行けないじゃんッ!!」

 捜しに行く? 何をだ?
 やがて子猫は、怪訝そうに様子を見守る魔法使い達のほうに顔を向けた。

「ん? ―――っあぁ~っ!? おまえ、レムレスじゃん!? なんでここにいんの!?」
「……オスカー、きみの知り合いだったのかい?」
「知らん」
「ちょうどよかった! なぁレムレス、ここで会ったのも何かの縁だ、悪いけど僕をちょちょいと出してくれない!? おまえできるだろ!? 出してくれたらいいコトあるよ、お願い~?」

 子猫は後ろ足でちょこんと座り、可愛らしく小首を傾げて「みゅ~?」とおねだりした。
 果たしてオスカーの答えは。

「断る」



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