遺世界パラボリック

文字の大きさ
5 / 25
Alea jacta est

5話

しおりを挟む
 そしてそれは黒髪にとっての同意できる不満点でもあった。

「一理あるな。さっさと殺せと思っていた」

 だがそのいつ殺されるか、という恐怖をじわじわと味わうこと。それ自体に意味がある。ありがとう、という想いと、国民に対しての申し訳なさ。その板挟み。

「でしょ? だから先進国首脳会議で秘密裏に決定されたんですよ。死刑囚は送っちゃおう、そんで世界的な利益にしちゃおうって。そんでもって、お金持ちがたんまり溜め込んでるお金を巻き上げて、経済動かしちゃおうって」

 そんな、お菓子会社で冬の新商品はなにしよっか、と出し合う意見くらい軽い口調の受付。その規模をデカくデカくデカーくしただけ、とIQ低めに落とし込む。

 そろそろこの受付という女の適当さ、ネジのハズレ具合にも黒髪はストレスを感じだす。

「くだらん。なんだ送っちゃおう、って。もうちょっとまともな——」

「今から行く場所、ちなみにすごい昔から研究は進んでいたんですよ。ひと言で言って『人類の認識など到底及ばない場所』です。ノストラダムスにニコラ・テスラ、アインシュタインあたりはどうやら勘づいていたみたい、ってのが我々の見解でして。すごいですねー」

 他にもいるが、ネームバリューで言うとその人達はトップ。さすがの受付も敬意を払っている。予言した人、すごいもの作った人、ベロ出してる人、というのがそれまでの彼女の描いていた像だったのだから。

 不自然で横暴。そんなもの、ニュースでもやっていなければ本にもインターネットにもなかった、はず。もちろん全てを黒髪は網羅しているわけではない。だが、首脳会議の内容概要など、いくらでも調べることができる。

「なぜそんなものが公表されていない? もしそれが本当に存在するなら、世界中の科学者が泣いて喜ぶだろう、今研究しているものなど放り捨ててな」

 そしてドカッ、と強く座り直す。ここでの議論など無意味。殺すなら早く殺せ。抵抗はしない。心臓の鼓動も穏やか。最後に見た景色は転がった見知らぬ男。それでいい。

 その寄った眉が「こいつマジでなんなの。ありえないんだけど」というのを代弁しつつも、気を取り直した受付は冷静に……死刑囚風情が、やっぱムカつくわ。いや、落ち着いて落ち着いて。

「その辺についてもまだまだ説明しなきゃいけないところなんですが……そろそろ時間です。それはまたおいおい、ということで」

「時間?」

 イスに座って足をプラプラさせながらつまらなそうにしていた女性が、ようやく顔を上げた。贅沢は言えないけど、もっと座席のクッションいいものにして欲しかったな、なんて思いながら。

 この女性に対しては受付は機嫌がいい。とてもタイプ。仕草、容姿、口調、残虐さ、死刑になった経緯。

「今までは『そこ』に突入するための関所、みたいなものだったんですよ。皆さんが起きたあたりから実は。はい……もういいかな、それでは到着です」

 特になにか目に見えた違いがあるわけでもないが。とりあえずこれでやっとこいつらから解放される。でも女性だけは勿体無いなぁ。そんな葛藤を抱えつつ。

「……」

 腕を組み、静かに黒髪はその時を待つ。なにが起きるか、にも興味はない。流されて流されて。その金持ち共の手の上で果てるまでダンス。それでいい。それがいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...