気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜

はぶさん

文字の大きさ
69 / 170

第十八話:仔竜とエネルギー貯蔵の話 (1/3)

しおりを挟む

ドッペルゲンガーの若者が、世界の「仕組み」を学ぶための旅に出てから、数日が過ぎた。森の木々は、最後の輝きとばかりに、赤や黄色の葉を燃やし、店の中にも、ひらり、ひらりと枯れ葉が舞い込んでくるようになった。秋の終わり。**冬の足音**が、もうすぐそこまで聞こえてきている。

「さて、そろそろ根菜のシチューでも仕込むかねぇ」

俺、仏田武(ぶつだたけし)こと**ぶっさん**が、そんなことを考えながら厨房に立っていた、冷たい風が吹く日のことだった。
**カランコロン**、と、まるで重い荷物を引きずるような、弱々しいドアの音がした。

見ると、そこに、小さな子供が立っていた。
年の頃は、人間の子供で言えば10歳くらいだろうか。その頭には、生まれたばかりの子鹿のような、小さな角が二本生えている。背中には、まだ飛ぶには心許ない、蝙蝠のような翼。そして、その瞳は、深い森の湖の色をしていた。**竜族の子供、仔竜**だ。

だが、その姿は、伝説に語られるような力強さとは程遠かった。彼は、ひどく疲れ果てた様子で、その場にへたり込みそうになるのを、必死にこらえている。

「いらっしゃい。坊主、大丈夫かい?ずいぶんと、しんどそうじゃねえか」

俺が声をかけると、仔竜はゆっくりと顔を上げた。その瞳には、深い不安と、どうしようもない恐怖の色が浮かんでいる。

《あ、あの……。ここが、どんな悩みも解決してくれるっていう、食堂……?》

脳内に響いてきたのは、今にも消えてしまいそうな、か細い声だった。

「ああ、そうだ。まあ、座りな。何か、温かいもんでも淹れてやるから」

俺が促すと、仔竜は、ふらふらとした足取りでカウンターの席に腰掛けた。

《もうすぐ、僕たち竜族にとって、初めての**『大いなる眠り』…冬眠の季節**がやってくるんだ…。長老たちは、『春には必ず目が覚める』って言うけど、僕は怖いんだ》

彼は、自分の小さな手を、ぎゅっと握りしめた。

《だって、最近いくら食べても、ちっとも力が湧いてこないんだ。お腹はいっぱいになるのに、すぐにまたお腹が空いて、体が冷たくなる。このまま眠りについたら、長い冬の間、**僕の命の火が消えちゃって、二度と目が覚めない**んじゃないかって……》

なるほど。初めての冬眠への恐怖と、それを裏付ける、深刻なエネルギー不足か。
俺は、彼の体を、じっくりと観察する。痩せているわけではない。だが、その体に蓄えられているエネルギーの「質」が、ひどく悪いように見えた。

「坊主、最近、何食ってるんだ?草か?それとも、脂の少ない、普通の肉か?」

《え…うん。森の草とか、捕まえやすい小動物とか…。どうして、それを?」

「あんたのその不調は、食う量が足りねえんじゃねえ。冬を越すための、**エネルギーの『質』が、圧倒的に足りてねえ**んだよ」

俺は、不安げな仔竜の頭を、優しく撫でた。

「いいかい。冬眠ってのはな、ただ眠るだけじゃねえ。春までの長い間、何も食わずに生き延びるための、究極の省エネモードなんだ。そのためには、体に、**最高の『薪』を、ぎゅうぎゅうに詰め込んでおかなきゃならねえ**。その薪ってのが、カロリーの高い、**良質な脂肪**なんだよ」

俺の説明に、仔竜は、きょとんとしていた。

「君の体に必要なのは、量じゃない、質なんだ。よし、任せとけ」

俺はニヤリと笑うと、初めての冬に怯える小さな勇者に、力強く宣言した。

「今日は、君の体に、**春まで燃え続ける、最高の薪**を、腹一杯くべてやる!」

---
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

処理中です...