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幕間:絶叫姫と、初めての子守唄
しおりを挟むわたくしの歌は、呪いでした。
胸に溢れるのは、春の訪れを喜ぶ、優しい旋律。眠れぬ仔リスの枕辺で、そっと歌ってあげたい、穏やかな子守唄。
なのに、この喉から迸るのは、いつだって、世界を切り裂き、命を怯えさせる、**絶叫の奔流**。
そのジレンマに、魂はとうに引き裂かれ、いつしか、歌うことさえも諦めて、ただ、己の喉を掻きむしり、声なき嗚咽を漏らすだけの日々を送っておりました。
そんな、絶望の淵にいたわたくしの前に現れたのが、あの、三人の、小さな料理人さんたちでした。
彼らに導かれ、辿り着いたお店の主…ぶっさん様は、わたくしの呪いを、ただの一言で、希望へと変えてくださいました。
「あんたの喉は、世界最高の楽器だ。だが、その楽器の、音量を調整する『ツマミ』が、**ぶっ壊れちまってるだけ**なんだよ」と。
呪いではなく、故障。その、あまりにも優しい真実に、わたくしの凍てついていた心に、ほんの少しだけ、温かい光が差し込んだような気がしました。
そして、厨房で始まったのは、調理というより、もはや、わたくしの魂を**調律**するための、神聖な演奏会でした。
ゴル様の刻む、大地の力強いリズム。ザック様の奏でる、流麗で優しいメロディー。そして、リル様の紡ぐ、全てを包み込む、温かいハーモニー。
絶叫でも、嗚咽でもない。それは、わたくしが生まれて初めて聴く、**『安らぎ』という名の、音楽**でした。
やがて、わたくしの前に、一つの、温かい奇跡が差し出されました。
「癒やしの豚汁」。
一口、口に運ぶ。
ああ、なんと、温かく、そして、優しい音色がすることか…。
それは、わたくしの神経の弦を、一本、また一本と、優しく、優しく、緩めていく、**聖なる調律師**そのものでした。
そして、奇跡は、本当に起きたのです。
わたくしは、ずっと歌いたかった、あのメロディーを、そっと、ハミングしてみました。
**「ん………♪」**
それは、世界で一番、ささやかな音でした。
でも、その音は、何も壊さなかった。
涙が、溢れて止まりませんでした。
わたくしは、続ける。おぼつかない、しかし、心の底からのメロディーを。
それは、わたくしが、ずっと歌いたかった、眠れぬ仔リスのための、**世界で一番、優しい子守唄**でした。
あなた方が与えてくれた、この優しい声で、わたくしは、この、美しき春の森を、歌で満たしていきましょう。
もう、この森の夜が、悲劇の絶叫に怯えることはありません。
代わりに、どこからか、風に乗って聞こえてくる、穏やかで、優しい子守唄に、全ての命が、安らかな眠りにつくのですから。
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