人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖

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第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる

第186話 ウインド騎士団をより強く

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 王都アーリアの脇。
 元要塞都市のギリダートは、現兵士訓練所のギリダートとして生まれ変わっている。 
 そこで訓練をしていたウインド騎士団。
 彼らの模擬戦闘を遠目で見守っていたのが、レベッカとデュランダルだった。

 「デュラ。どうだ?」

 レベッカは、体は正面にして顔だけを隣にいる人物に向けた。

 「ええ。まあまあ良いんじゃないでしょうか」

 彼女と同じようにして戦場を見ていたデュランダルは、奥歯にものが挟まったような言い方をした。

 「その言い方・・・不満があったか」
 「いえ」
 「そうか?」

 ウインド騎士団と、アーリア王国兵の合同訓練。
 部隊運用の訓練をしていた。
 デュランダルが監督官として模擬試合を見てくれて、今はダンがアイス軍との戦いをしていた。

 「じゃあ、デュラ。何点なんだ。今のは?」
 「そうですね。70ですね」
 「及第点ってことか」
 「そうです。今のはウインド騎士団の強さが出ていない。アイスにしてやられ過ぎですね」
 「なるほど」

 反省点のある戦い。
 レベッカもそのように感じていた。
 個人としては抜群に強いが、こと団体になると難しい局面が来る。
 ダンが率いているウインド騎士団は、他の隊長たちを外していた。
 戦争経験が豊富である彼らを鍛えるよりも、経験の少ないダンを成長させる事。
 それが全体にも好影響があると思ったのだ。

 「父にも、期待されているからな。どうにかして、戦場の経験値を稼がないとな。戦争が無い分、難しい所だな」

 レベッカは自身の成長と、騎士団としての成長を考えていたのである。
 
 「デュラ。どうしたらいいと思う?」
 「そうですね。俺なら、もう少し座学を取り入れた方が良いと思いますよ。ダンもいい動きをしていますが、それでも、彼の指示が上手く通っていない部分がある。あれでは、手足となる部下ではないですからね」
 「座学か・・・私の所には、そういうのが得意そうな者がいないな」

 リティ、ランディ、ルカ。
 三人とも、指揮について口で人に丁寧に教えるほどの指導者なのかと言われると、そうではないと思う。
 特に団体での動きに関して、口頭で説明するのは難しいかもしれない。

 「デュラ。やってくれるか?」
 「俺ですか。俺も苦手ですね。どっちかという俺は実践派なんでね。それこそ、今戦ったアイスに頼んだらどうですか」
 「アイスに?」
 「ええ。アイスならばうまく指導するでしょう。それかミシェルが一番良いでしょうが」
 「ミシェルか・・・」

 ミシェルは駄目。
 レベッカは、ゼファー軍を倒したいので、手の内をバラしたくないという考えを持っていた。
 何も味方なのにと思うのはフュンだけである。
 
 「出来ないな。彼女の教えは大切だが、ここは頼れない。アイスにお願いするしかないかな」
 「わかりました。それじゃあ、アイスを呼びますか」
 「お願いする。デュラ頼んだ」
 「はい。待っててください」

 デュランダルがアイスを呼び出している間。
 ダンがこちらにやってきた。

 「申し訳ありません。負けました」
 「いい。気にするな。私も敗れていただろう」
 「はい」
 「にしても個人の武だけでは、勝てんな。難しい」
 「はい」
  
 レベッカは、失敗には厳しくない。
 戦って負ける事は悔しいが、戦わずにいる事の方が苛立つタイプなので、挑戦し続けている限りは、機嫌がいいのである。

 この段階のウインド騎士団の実力は、三大軍の最下層で、他の王国軍の中では上位の実力を持っている。
 ただし、アーリア王国の大将クラスが、王国軍を指揮すると非常に厳しい。
 たとえば、デュランダル、アイス、ドリュース、ブルー、アスターネなどなど。
 二大国英雄戦争を戦い抜いた面子と、今に成長してきた者たちでは経験の差があったのだ。

 それでもフュンが、ワルベント大陸の戦いをウインド騎士団に任せるのには理由がある。
 それは個々人の戦いが強いからだ。
 市街地戦をしようとしているのは、皆が知っている事。
 そこで、一度に戦うにも小部隊が基本となり。
 多くて五十人ほどだと言われていて、その少数であれば、大将が率いる王国軍よりも、ウインド騎士団の方が強い可能性が出てくるのだ。
 
 それで、その戦いの想定では、少数。
 でも、もしかしたら大規模になった場合に後れを取る可能性が出てくるかもしれないから、レベッカは、この団体での強さを発揮するために指揮命令の訓練に励んでいた。


 ◇

 「レベッカ様。何でしょうか」
 「アイス。座学をお願いしたい。いいかな」
 「座学?」
 「うん。騎士団の連中は戦術について深く理解していないようだからな・・・」

 素が見え隠れするレベッカは返事の仕方が子供の頃に戻っていた。

 「いえ。それはないと思いますよ」
 「え?」
 「先程のは、動きの癖の問題であります。騎士団としての考えも画一されていて、問題のあるような動きじゃないと思います」
 「そうか」

 実際に戦ったアイスの意見はデュランダルとは違う意見だった。
 貴重な意見だと思ったレベッカは指摘された事を頭に入れていく事にした。
 
 「あれらは帝国の動きです。ですから、私はそれを封鎖する事など簡単なのですよ」
 「なるほど。じゃ、動きを読まれたから負けたのか」
 「そうですね。どちらかというと私の先読みです。動き方の種類で、私が先回りして行動を起こしたから、ダンが後手に回っただけです。それにダンは帝国の動きは苦手かもしれませんね」
 「じゃあ、動き自体は悪くないのか」
 「そうです。だから座学を加えても、成長はないかと。デュラのような感覚が必要になると思いますよ」

 戦いは感覚が大事になる時が来る。
 頭で考えた結果が正しいとは限らない場面が来るのだ。

 「戦場の感覚か」
 「そうです。彼は大将格の中では感覚と理性の部分のバランスが一番いいですから。でも、座学でカバーできる部分が一つだけあります」
 「なに? 一つあるのか。どんなのだ?」
 「王国の戦術です。私たちのような帝国の動きじゃない。王国の動きを理解すれば、面白い形になると思いますよ。融合した軍になるかと、たとえば」

 アイスは面白い発言をした。
 ゼファー軍。
 ここはウォーカー隊出身のゼファーが率いているために基礎部分がウォーカー隊に近い戦術。
 次にロベルトの戦士。
 ここは太陽の戦士が基準なので、動きはそちらの動き方である。
 それで、アーリア王国軍。
 結局二か国の動き方が基準になってしまっている。
 それはイーナミア式とガルナズン式である。
 そこで。
 
 「レベッカ様は、双方の技術を取り込めばいいのではないかと進言します」
 「ん? 両方か」
 「はい。レベッカ様はガルナズンの動きは学んでいます。それとウォーカー隊もです。それに幼い頃から太陽の戦士たちも見ていますからね。全てを学んでいます。ですが、イーナミアの方の知識がありません。理解するほど何回も戦ってもいませんしね。だから、ここを学ぶと爆発的に成長するかと」
 「・・・なるほど・・・でもどうやって学ぶ? 誰から学べばいい?」
 「はい。私がこちらに適任者を連れて来ましょう。学ぶ気があるのならば、お連れします」
 「頼む。アイス、助かるよ」
 「いえ。レベッカ様の為です。応援していますよ。騎士団にはリティ様もいますしね」
 「ありがとう」

 アイスは、レベッカの為に動き出してくれたのであった。
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