人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖

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第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる

第203話 集いし次世代の子らよ

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 三日目。
 決勝戦の日。

 招待された子供たちが、フュンの元にやってきた。
 ここには、王、王妃。そして側近たち。
 王国の重要人物たちしかいない部屋であるから、子供たちはとても緊張していた。
 ガチガチの動きで、手と足が一緒になっている子もいたのだ。

 そんな子供たちを見て、フュンは可愛い子たちだなと笑顔で出迎えていた。

 「みなさん、緊張しすぎですよ。顔が強張っています。笑顔笑顔。にっ!」

 そんな事を言われても、ここでは笑えませんよ。
 子供たちは『へへへ』くらいの苦笑いになっていた。

 「駄目ですよ。みなさん。うん。ほら、ルライアさんみたいに笑いましょう。ね」
 「はい。フュン様・・・お久しぶりです」

 受け答えがおかしいルライアを見て。
 『ルライアこそガチガチですよ。どこも笑顔じゃないじゃん』
 子供たちはそんな感想を持ってフュンを見ていた。

 時間が少し経っても子供たちの顔は強張ったまま。
 でも王の顔は笑顔のままである。

 「ルライアさん。大きくなりましたね。こんなに小さかったのにね。お父さんとは、仲良くしてますか」
 「はい」
 「ええ。やっぱりルライアさんは、反抗期がなかったんですね。そうだ。今日はね。ライノンは運営の方にいますからね。ごめんなさいね。ここに来られないです」 
 「い、いえ。お仕事ですから・・・」

 仕方ないですよ。
 という前にフュンが続きを話す。

 「そうですか。でも安心して、僕がいますからね。あなたのお父さんのかわりをしますよ」
 「・・・は、はい!」

 ルライアは久しぶりのフュンに緊張しているが、また会えて嬉しいと思っている。
 フュンは最初の雑談を終え、一人一人に挨拶を始めた。

 「それでは、まず。アイン。頑張りましたね」
 「あ、はい。アーリア王」
 「ん。ここではそれでいくのですね」
 「もちろんです。学生の身分ですので」
 「いいでしょう。まあ、僕は父としても言いますけど、よく頑張りました。二つも満点です。偉いですね」
 「あ、ありがとうございます」

 線を引いたとしても、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
 アインの顔は綻んでいた。

 「次にルライアさん。やっぱり輸送関連は強いですね。昔から変わらず大好きですか?」
 「はい」
 「うんうん。君も変わらない。このままでいてくださいね」
 「はい」

 大好きな人から褒められた。
 ルライアの気持ちは天国へと旅立つ勢いで上昇していた。

 「次にキリさん」
 「・・はい」
 「よくやりました。君もこのままいきましょう。あなたの経済に対する考え。とても立派ですよ。もっともっと柔軟に考えていってね。ドンドン発言していいですからね」
 「ありがとうございます」

 キリも頭を下げると同時に喜んでいた。
 ニヤニヤしている顔を下に置いた。

 「次はガイア君ですね。お久しぶりですね」
 「はい。お久しぶりです・・・・・・王様だぁ」
 「ええ。王様ですよ」
 「あ・・・女神様もいる!」
 「女神?」

 マイペース神ガイアは、ゆったりとシルヴィアを指差した。
 目の前の自分ではなく、後ろで席に座るシルヴィアを指したのでフュンは振り向く。
 するとシルヴィアもこっちを見て、話を振られるとは思わずにいたので、驚いた顔をしていた。

 「え、私ですか?」
 「・・・わ! わは、これ見せたい」
 「ん?」

 ガイアは背負っているリュックから像を取り出した。
 シルヴィアに近づいていく。

 「わ。これ作った。女神様を参考にした」
 「女神様?」
 「王妃様! 女神様!」

 ガイアはシルヴィアのそばに行ってから、像を右手に持って、左手でシルヴィアの顔を指差した。
 失礼だけど、失礼に感じないのは、少年の心が純真だからである。

 「私がですか」
 「うん。わ。王妃様、女神様だと思ってる」
 「・・そ、そうですか」
 「はい。女神様。あげる」
 「ど、どうも」

 とても美しい像を渡されたシルヴィアは、像をまじまじと見つめた。
 像の姿形が美しく、顔も綺麗に整っていて、ちょっと美化され過ぎかもしれませんと思った。
 それと、変わった点がひとつ。
 片翼の天使のように見えるのだ。
 翼が一個しかない。

 「翼が一個なのは?」
 「像の腕。無くしたくない。だから翼を取った。女神様の像」
 「そうですか。私の為に、腕をですね。せめてこれでは両腕であって欲しいと」
 「うん」
 「優しい子ですね。あなたは」
 「ううん。女神様。わ。作りたいものを作った」
 「ふっ」

 純朴な少年だなとシルヴィアは笑う。
 仲良く会話しているので、フュンは続きを話す。

 「次に君が、兵士訓練満点の子ですね。デルトア君ですね」
 「・・・・(はい)」
 「え? 声が。あれ?」
 「・・・・(デルトアです)」

 口が動いているのに、声が聞こえない。
 耳が良いはずのフュンでも聞こえないのだ。
 彼を理解するには、読唇術が必要となるので、目を凝らさないといけない。

 「う~す。遅れたぁ。大将、久しぶり」
 「あ。フィアーナ」
 
 ここで運よく、フィアーナが遅れてやってきた。
 サナリアから駆けつけてくれて、シガーの代理で来たのだった。
 それで、たまたまだが彼女が彼を知る人物である。
  
 「お! デルじゃないか」
 「・・・・(お師匠、お久しぶりです)」

 声が聞こえないのに、フィアーナには彼の言いたい事が分かる。

 「おう! 久しぶり。そうか。そうか。ここに来てたのか。ってなんでここに来てんだ? あれ、ここって貴賓席だって聞いたんだが。一般人は入れない特別室だって・・・あれ?」
 
 案内人の人に紹介された時は、そのような形だったのに、フィアーナにとってはここに子供がいるのが不思議だった。

 「フィアーナ。ここにいる子たちは成績優秀者のご褒美で、ここに来ています。各教科のどれかで満点を取った子です」
 「ほう。そうか。デルがなんかで満点取ったのか」
 「はい」

 フュンも頷いているけど、デルトアも頷く。

 「なにで?」
 「主には武器です。加点を取りまくりましてね。兵士訓練という試験で、満点でした」
 「ほう。そうか」
 「というよりも、フィアーナ。知り合いなんですか」
 「知り合いも何もこいつ。ロイマンところの村の子だからな」
 「ロイマンの!? フーナ村ですか」
 「おう」

 フュンは、この子がサナリア出身とは聞いていたが、まさかのフーナ村の出であるとは知らなかった。

 「こいつ。冬前の成績が、あんまり良くなかったみたいだからな。どうなんだ。最初良くなかっただろ」
 「そうなんですかね。僕は学校の事はあんまり詳しくは・・・」

 と言っているが、実際は知っている。
 彼が唯一この満点者たちの中で、免除制度無しで学校に通っているのだ。
 通常の授業料を支払っている。
 つまり、入学当初は普通の成績の子であったのだ。

 「そうか。大将は知らねえのか。こいつさ、冬にあたしのところにロイマンと一緒に来てよ。稽古つけてくれって言って来たから、バシバシ鍛えてやったぜ。そしたらまあまあ伸びるから、面白くなって、シガーとシュガにも付き合ってもらったのよ。そんでこいつ。あたしってよりもシュガ寄りだからな。武器の扱いがすげえぞ」

 弓のフィアーナ。斧のシガー。
 この二人よりもシュガ寄り。
 ということは、武器に得手不得手の偏りがない男だという意味で発言していた。

 「それでさ。強くなってねえのかな。あたしらの基準だと結構いい感じに育てたけど。まあ、王都基準を知らんからな。まだまだなのかもな。田舎基準は駄目なのかな」
 「なるほど。それで、この子が・・・」

 全くのノーマークから、デルトアはこのステージまで上ってきた。
 デルトアは、努力で上位に食い込んできた戦士なのだ。
 
 「デルトア君。頑張りました。偉いですね」
 「・・・・(ありがとうございます)」
 「????」

 声がこちらまで届いてこない。
 この不思議な感覚の子を理解するまでは時間が掛かるだろう。

 そして最後にフュンは愛弟子に挨拶をする。

 「ユーナ」
 「はい」
 「よくここまできましたね。よく出来ました」
 「王様。ありがとうございます」
 「今日はそんなに緊張しないで。リラックスしてくださいね」
 「・・・はい」
 
 フュン以外に、名だたる人たちがそばにいるので、ユーナリアは体まで強張ったままだった。
 ガチガチの動きでお辞儀をした。

 「あなた。この子を知っているのですか」
 
 シルヴィアがガイアを列に戻して、フュンの元に来た。

 「ん?」
 「その子を知っているような口ぶりだったもので」
 「ユーナをですか」
 「ええ。その子だけ愛称で呼んでいますよ」
 「そうですね。この子は僕の弟子のような子です。この子が了承しているかが、わからないので、ここは曖昧ですね」
 「弟子!?」「で、弟子!?!!?」

 シルヴィアも驚いているが、言われた張本人のユーナリアも驚いている。

 「ええ。僕としては、似たような道を歩むだろうね。君を応援していますからね」
 「・・・似たような道・・・ですか?」

 ユーナリアが真っ直ぐフュンを見る。

 「はい。奴隷からの大逆転を目指す。世の中への反逆ですね」
 「反逆・・・私が・・・」
 「僕も、人質からここまで来ました。なら、奴隷からだって、どこまでも登ってもいいでしょう。ユーナ。元奴隷であることを、これからは気にしないでください。そして、僕もですけど。これからは元人質を気にしないようにしますよ・・・出来たらですけどね!」

 フュンがユーナの頭に右手を置くと。

 「はい。わかりました。王様。気にしないようにします」

 彼女は決意を示し、顔が引き締まった。

 「ええ。一緒に頑張りましょうね」
 
 君と僕は同じ道を・・・。
 生徒と王でも同じ人間だよ。
 だから一緒に頑張ろう。
 フュンの心からの優しい応援であった。


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