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7 ロドニーside
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ベイモント侯爵家の次男でもある俺は、幼い頃から剣術に打ち込み、今は王太子殿下の側近として仕えている。
王太子殿下と私の妹のカサンドラが婚約をし、二人の交流の場に同席することもあり、王太子殿下とも気心のしれた友人のような、そんな関係を築けていた。
そして妹の侍女をしているガーラント子爵家の長女でもあるアシュリーは、母親同士が友人という事もあり、子供の頃に何度か会った事はある。しかし、俺も学園に通うようになる頃からはそれも無く、交流という交流はなかった。それくらいの記憶しかなかった。
それだけを聞くと、コネで侍女にでもなったのかと思ってしまうが、よくよく聞くと学園での成績も優秀で、侍女としてもあっという間に将来、王宮でも筆頭の地位まで上り詰めるのでは?と言われるほどの実力があるらしい。
そんな話を聞いてしまうと、王太子殿下と妹の交流の時、つい視線が向いてしまうのは仕方ないことだろう。
だが、感情を表に出すこともなく、淡々と仕事をこなしている姿は私でも尊敬の念を抱くほどだった。さすがに鉄の女と呼ばれていることはある。
表情を顔に出さないというのは騎士も同じだ。だから、ある程度の感情の機微には敏感だと思ってはいたのだが、彼女――アシュリー――に関しては、正直お手上げだった。それほど、感情のコントロールが上手いのだろうと思ったほどだ。
そして数年が過ぎた頃、王太子殿下とカサンドラから、夜会でアシュリーのエスコートをするようにと言われたのだ。
アシュリーのエスコート?確か、彼女には婚約者がいたはずだが、その彼のエスコートは受けないのだろうか。
そう考えたら、殿下が事の経緯を説明し始めた。そして私はその話を聞いて、憤りを隠せなかった。
その瞬間には、もうエスコートの話を了承していたのだ。
当日、アシュリーをエスコートする為に彼女を迎えに行ったのだが、いつも大人しい感じのドレス姿しか見せていなかった彼女なのに、この日の着飾ったアシュリー嬢の姿は人に知られたくないと思ってしまうほど、隠しておきたいと思わせるほどの美しさがあったのだ。
だが、中身はいつもの通りの彼女で、婚約者が不貞しているのかを確認するために夜会の会場へと私と一緒に乗り込んだという訳なのだが。
そしてその会場で、彼女の婚約者のエドウィン・タウナーが、噂通り女性と親しげに寄り添い、その女性を恋人だと明言しているのだから開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
そしてあの男は彼女を目の前にして『私には婚約者がいない』と言ったのだ。
それを聞いたアシュリーは会場を出て行ってしまい、私も慌てて追いかけた。そして追い付き捕まえた彼女は鉄の女などという姿とは全く違う、か弱い女性の姿そのままに、アイスブルーの瞳は涙が浮かんでいた。
いつもの鉄の女ではなく、守ってやりたいと思わせるほどの弱々しい姿を晒し、私はそっと彼女を腕の中に閉じ込め、震える肩を安心できるようにしっかりと抱き込んだ。
そして泣いている彼女を自身の胸に押し付けるようにしてその頭を撫でた。
そして『あんな男、アシュリーには勿体無い!こっちから捨ててしまえ!アシュリーにはもっとふさわしい男がいるから』そう元気付けるつもりでそう言ったのだが…いや、少しはまあ…なぁ…
んんっ……だが、彼女は私の言葉を聞いてどう解釈をしたのか、『ロドニー様、ありがとうございますっ!私、もう決めました!アレ、私にはいらないので、もう捨てます』と、瞳をキラキラと笑顔を浮かべているではないか。
どうやら涙も止まったようだが、部屋まで送ると言ったにも関わらずアシュリーは断った。
だが、誰が見ても泣いたのがわかる顔をさせたまま、一人で帰らせるわけには行かない。途中で誰かに会ったらどうするんだ?
だから俺は『そんな顔の君を一人で帰らせるわけには行かない』と、しっかりと手を握って部屋の前まで送り届けた。
しかし、あの別れ際の彼女の顔は、ダメだろう。
仕事モードではない彼女があんなに綺麗なのは予想外だった。
あの男もこんなにも素敵な女性を手放したことを後悔してどん底にでも落ちるがいい!!
王太子殿下と私の妹のカサンドラが婚約をし、二人の交流の場に同席することもあり、王太子殿下とも気心のしれた友人のような、そんな関係を築けていた。
そして妹の侍女をしているガーラント子爵家の長女でもあるアシュリーは、母親同士が友人という事もあり、子供の頃に何度か会った事はある。しかし、俺も学園に通うようになる頃からはそれも無く、交流という交流はなかった。それくらいの記憶しかなかった。
それだけを聞くと、コネで侍女にでもなったのかと思ってしまうが、よくよく聞くと学園での成績も優秀で、侍女としてもあっという間に将来、王宮でも筆頭の地位まで上り詰めるのでは?と言われるほどの実力があるらしい。
そんな話を聞いてしまうと、王太子殿下と妹の交流の時、つい視線が向いてしまうのは仕方ないことだろう。
だが、感情を表に出すこともなく、淡々と仕事をこなしている姿は私でも尊敬の念を抱くほどだった。さすがに鉄の女と呼ばれていることはある。
表情を顔に出さないというのは騎士も同じだ。だから、ある程度の感情の機微には敏感だと思ってはいたのだが、彼女――アシュリー――に関しては、正直お手上げだった。それほど、感情のコントロールが上手いのだろうと思ったほどだ。
そして数年が過ぎた頃、王太子殿下とカサンドラから、夜会でアシュリーのエスコートをするようにと言われたのだ。
アシュリーのエスコート?確か、彼女には婚約者がいたはずだが、その彼のエスコートは受けないのだろうか。
そう考えたら、殿下が事の経緯を説明し始めた。そして私はその話を聞いて、憤りを隠せなかった。
その瞬間には、もうエスコートの話を了承していたのだ。
当日、アシュリーをエスコートする為に彼女を迎えに行ったのだが、いつも大人しい感じのドレス姿しか見せていなかった彼女なのに、この日の着飾ったアシュリー嬢の姿は人に知られたくないと思ってしまうほど、隠しておきたいと思わせるほどの美しさがあったのだ。
だが、中身はいつもの通りの彼女で、婚約者が不貞しているのかを確認するために夜会の会場へと私と一緒に乗り込んだという訳なのだが。
そしてその会場で、彼女の婚約者のエドウィン・タウナーが、噂通り女性と親しげに寄り添い、その女性を恋人だと明言しているのだから開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
そしてあの男は彼女を目の前にして『私には婚約者がいない』と言ったのだ。
それを聞いたアシュリーは会場を出て行ってしまい、私も慌てて追いかけた。そして追い付き捕まえた彼女は鉄の女などという姿とは全く違う、か弱い女性の姿そのままに、アイスブルーの瞳は涙が浮かんでいた。
いつもの鉄の女ではなく、守ってやりたいと思わせるほどの弱々しい姿を晒し、私はそっと彼女を腕の中に閉じ込め、震える肩を安心できるようにしっかりと抱き込んだ。
そして泣いている彼女を自身の胸に押し付けるようにしてその頭を撫でた。
そして『あんな男、アシュリーには勿体無い!こっちから捨ててしまえ!アシュリーにはもっとふさわしい男がいるから』そう元気付けるつもりでそう言ったのだが…いや、少しはまあ…なぁ…
んんっ……だが、彼女は私の言葉を聞いてどう解釈をしたのか、『ロドニー様、ありがとうございますっ!私、もう決めました!アレ、私にはいらないので、もう捨てます』と、瞳をキラキラと笑顔を浮かべているではないか。
どうやら涙も止まったようだが、部屋まで送ると言ったにも関わらずアシュリーは断った。
だが、誰が見ても泣いたのがわかる顔をさせたまま、一人で帰らせるわけには行かない。途中で誰かに会ったらどうするんだ?
だから俺は『そんな顔の君を一人で帰らせるわけには行かない』と、しっかりと手を握って部屋の前まで送り届けた。
しかし、あの別れ際の彼女の顔は、ダメだろう。
仕事モードではない彼女があんなに綺麗なのは予想外だった。
あの男もこんなにも素敵な女性を手放したことを後悔してどん底にでも落ちるがいい!!
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