【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜

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22 必死な男

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 驚きましたが、食べる手は止めないようにします。
 しかし記憶とは一体…とりあえず、話を聞いてみましょう。


「実は、国境に行って、休日だったんだけどガラの悪い男に絡まれてた令嬢を助けて、その時に頭を殴られたんだ。それで、次の日まで目が覚めなかったらしくて。目が覚めた時には記憶がなんだかごちゃごちゃで、混乱してたんだ。その時に助けたのがミランダで、彼女が世話をしてくれて…」

「それで?恋人との馴れ初めを教えてくれるのですか?」


 何なんでしょうね?そんなこと私に話して何になるのでしょうか。


「そうじゃなくて、記憶が曖昧な時に彼女が「自分が恋人だ」って言ったのを信じたんだ。俺は悪くないだろう!」

「俺は悪くない…ですか?それは国境へ行ってからどれくらい経ってからの事ですか?」

「…3年目だったかな」


 ほう。3年目ですか?あなた、バカですか?バカなんですか?いいえ、バカ確定ですね。
 3年目ということは、もう手紙の返事もない頃ですわよね?
 他の事はしっかりと覚えているという事は、その頃にはもう私の存在などその頭の中にはなかったのでしょう。だから記憶が曖昧になって自分が恋人だと言われても違和感もなく受け入れたってことですわよね。


「3年目ですか?その頃でしたら、エドウィン様からの手紙も届いていない頃ですから、記憶が曖昧以前に、もう私の事は覚えていなかったということですわね」

「え…いや…そうじゃなくて」


 自分が言った事が墓穴を掘ったことに気が付いたのでしょう。顔色が悪くなっていますわ。
 さて、私はグラタンも食べ終わった事ですし、こんなバカをおいてさっさと帰って本でも読みましょうか?


「では、私は食事も終わりましたし、タウナー伯爵令息様と話すこともございませんので失礼しますわ。ではごきげんよう」


 そう言い残し、さっさと店と出ました。折角のお休みでしたのに最悪ですわ。
 それにしても、私が休みの時に町に出ると、どういうわけか会う確率が高いのですが、どうしてでしょう。誰か私の情報を流しているのでしょうか?それはそれで困りますわね。



 店を出て、次はどこへ行こうかと辺りを見回して、一緒に働いている同僚へのお土産として甘味でも買っていこうと考えて、いつも行く菓子店へと向かいました。
 幸いにも、店は今いる通りを進めばあるので、私はそこまでの店の店先に並ぶ商品を見ながら、いくつ買っていこうかと考えていましたのに、邪魔が入りました。



「待ってくれ!アシュリー!!」


 後方からエドウィン様が私を呼んでいる声が聞こえますが…

 無視してもよろしいですか?もう面倒なんですけど。



「アシュリー!頼むから俺の気持ちを受け止めて欲しいんだ!」


 俺の気持ちとはなんでしょうね。

 記憶が曖昧だった時に騙されて、本当は私の事を好きだとか言い出したですか?
 だからやり直そうとか言ったですか?

 本当に都合の良い方向にしか考えられない頭をお持ちなのですね。


「タウナー伯爵令息様!いい加減にしていただけませんか?もう婚約は白紙にしましたよね?名前で呼ばないでいただけませんか?」

「一から、もう一度最初から初めていこう。なぁ、アシュリー!」


 ……頭にウジ湧いてるん??


「いいかげんにしてください!やり直すつもりがあるなら婚約を白紙になどしません。それを白紙にしたという事は、あなたとのことは全てなかったことにしたいという意味です!」

「そんな…アシュリー。俺は…アシュリーのことが……」


 なんだかショックを受けたような顔をしていますが、なぜあなたがそんな顔をするのでしょうね?
 あの夜会で、あなたがと一緒にいる姿を目にした私の方がそんな顔をしてもいいと思いますけど。


「トレイル伯爵令嬢とお幸せに」


 笑顔を浮かべてそうエドウィン様に言いましたが、顔色が更に悪くなりましたわね。

 どうして?





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