元ラノベオタクの転生勇者はチートスキルを使わない

辻谷戒斗

文字の大きさ
6 / 36

第六話 初陣、そして決意

しおりを挟む
 ……とは言ったものの……どうするべきか……
 まだスキルを全部試していないしな……
 試したスキルもあるけど、ここで《我竜転生》を使うと大きくなりすぎて戦いにくい。
 人狼共を蹴散らす前に集落の家々を蹴散らしてしまう。
 ここは試してないスキルで戦うしかないな……
 俺の予想だと、というか言葉通りの意味なら、《一騎当千》は身体能力を上げて、《二刀聖剣》は二本の聖剣を扱えるようになるのだろう。
 ……よし、まずは《一騎当千》からだ。
 あくまで俺の予想の話だが、身体能力がどれくらい上がるのか知りたい。
 いざとなれば《空間転移》で離れればいい。
 ……《一騎当千》……使用。
 ……お?おおお?おおおお!な、なんかめっちゃ体が軽くなった気がする!
 凄まじい高揚感が全身を駆り立てる。
 今なら何だってできるぞ!!多分!!

「ヒャハハハ!!死ネええええ!!」

 人間より一回りも二回りも巨大から大ぶりで振り上げられた鉤爪は、俺が見上げるほどの高さにある。
 だが、遅すぎる……!

「お前が死ぬんだよおおおお!!」

「なっ!はや――」

 体を腰で九十度折りたたみ、奴の懐に潜り込む。
 自分が手ぶらであることなど念頭にない。
 ただ、目の前のコイツラを、殺す。

「ぶっっっっ飛べええええ!!」

 俺が一瞬前の人狼のように肩を引き絞るように振り、全力で放った拳は、対象のみぞおちを信じられないほどに抉った。

「グアアアア!!」

 殴られた人狼の体はみぞおちから血を吹き出し、くの字に折り曲がった体勢のままで広場を突っ切って広場外縁部の家の石壁に衝突、さらにそれでも人狼は飛び続け、その先の家三軒分を突き破り、ようやく止まった。

「な……キ、キサマ!!何をした!!」

 ……俺もさっぱり分かりません……
 いやどう考えても吹っ飛びすぎじゃね?
 瓦礫がものすごい積み上がってるし、絶対死んだよね、あれ。
 っていうかグロ!!
 四肢が飛び散ってやがる!!
 オェ……吐き気が……ウップ……

「き、貴様アア、オレの、オレの弟を、よくもやってくれたなぁ!!」

「待て!!迂闊に近づくな!!あれは恐らく奴のスキルだ!!《身体強化》や《一点集中》などの身体能力を上げるタイプかインパクトを強くするようなスキルなのだろう!!しかし、強すぎるぞ!!これまで何人もの強い人間と戦ってきたがここまでのスキルは見たこともないし聞いたこともない!!」

 ……ああ……やっぱりチートだったんだ……
 しかし今は関係ない。
 こいつらを倒さないといけない。
 チートスキルがなければ俺は弱い。
 自分の力だけで戦いたいのは山々だが、今の俺にはそんな力はない。
 ……この戦いが終わったら、自分を鍛えられるところを探そう。
 そうじゃないとチートスキルに頼りっぱなしになる。
 心のどこか奥底で理性を保った自分が言う。

「……同時に攻めるぞ……少しでもスキができたら逃すな」

「……分かってんよ……一人で戦っても敵わねぇことぐらい……」

 ……一気に来るつもりか……なら、《二刀聖剣》が適任か。
 正直扱えるかどうか分からないが、《一騎当千》使用中の今なら使える気がする。
 そもそも、二つのスキルを同時に使えるのかを試すのも兼ねて……
 《二刀聖剣》使用……!

「おお!出た出た!剣二本!」

 いかにも聖剣ですって感じの剣だな、キンキラしてて……
 でもこれで、二つのスキルを同時に使えることが分かった。
 ……ことごとくチートだな……マジで。
 これ以上のスキル同時使用は可能なのだろうか。
 ……まぁ、それはいつか試すとして……
 今はこれでなんとかなりそうだ。

「な!?何だその剣は!?物質を、作り出したのか」

「んなもん分かるわけねぇだろうが!あいつのスキルはあいつにしか分かんねぇ!たとえ相手が誰であろうと、戦うしかねぇんだよ!俺達は!」

「……そうだ……その通りだ。我々は戦うしかない……進み続ける他ないのだ!あの方が!私達が!望む世界のために!」

「それによぉ!この村の住人ぐらい殺さねぇと楽しくねぇもんなぁ!」

「フハハ!そうだな!それが我々にとって、この世界での唯一の娯楽なのだからな!」

 ……この世界での唯一の娯楽……?
 ……俺はこの世界に転生してきたばかりで、この世界の状況なんて、あの自称神が言ってたこと以外は知らない。
 それでも。たとえどんな世界だったとしても。
 人を楽しんで殺すという行為は許されないんじゃないのか!?
 お前らが何を望み、何を目指しているのかは俺には分からない。
 でも俺は、あの光景を見た瞬間、許されないと思ったんだ。
 だから、俺はお前らを止める。
 お前らに、どんな理由があったとしても!

「行くぞオラァ!殺れるもんなら殺ってみろよぉ!」

「我等が望む世界のために!我等が求める娯楽のために!貴様を殺す!」

「来い!返り討ちにしてやる!」

 思い出せ!
 あの伝説的ラノベ主人公の二刀流を!
 今の俺ならできる!……気がする!

「うおおおお!!スター◯ースト・スト◯ーム!!」

「ば、馬鹿な!このような剣技、見たことがない!」

「スゲェ……スゲェスゲェ!もっと戦おう!殺し合おう!」

「もう!終わりだああああ!!」

 最後の一太刀が入る。
 相手はもう……確実に死んでいる……。
 スキルを両方とも解除して死んだ奴らを見る。
 ……俺が、殺したんだ……たとえそいつらが許されないことをしていたとしても、この事実は変わらない。
 ……これから、背負って生きていこう……
 そして、もう一つ言わなければいけないことがある。
 ……パクってすいませんでした!調子乗りました!許してください!何でもしますから!
 ……まぁ、それは置いておいて、この戦いで確信したことがいくつかある。
 まず初めに、戦ったこいつらを従えているものがいるということ。
 そいつが恐らく魔王だろう。
 次に、魔王が何かを目標にしていること。
 俺はこれを阻止しなきゃいけない。
 最後に、チートはやっぱりチートだったこと。
 このまま進んでも、面白くないのは目に見えている。
 それにあんなグロいの、もう二度と見たくない。
 でも、魔王も倒さないといけない。
 だから俺は決めた。
 俺はチートスキルを使わずに魔王を倒す!
 自分を鍛え上げて、自分の力だけで勝つ!
 もう二度と!チートスキルは使わない!
 今この場に、誓をたてる!

「俺は!!絶対に!!チートスキルを使わねええええ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...