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第一章 入学編
入学編第十三話 対話
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ミリアよりも先にウィーンズ商会の本店から家に帰ってきたラノハは、いつも剣の鍛錬をしているスパルド家の家の敷地内にある訓練場で先程買ってきた模擬剣を早速振っていた。
ラノハは実践を意識した動きで、流れるように二本の模擬剣を扱う。
その動きは、剣技ではなくまるで一つの舞を舞い踊っているようなものであった。
それほどまでに、洗練とされた動きだったのである。
しばらくして、ラノハがその動きをやめた。
するとラノハの背後からパチパチパチと手を叩く音が響いた。
ラノハがその音の方に振り向くと、そこには手を叩いているミリアがいた。
「……ミリア。帰ってきてたのか」
「うん。ついさっきね。それにしても、すごかったよ。さっきの剣技。本当に無駄な動きが無くて、綺麗だった」
「そ、そうか……」
ラノハはミリアのこの言葉を聞いて、ミリアから少しだけ目をそらした。
ミリアはそんなラノハに向かって頭を下げた。
「後、ごめんね?あの時怒っちゃって」
「いや、気にしてない」
「そっか。でもごめんね」
「……ああ。分かったよ」
ラノハの返事に満足したミリアは、少し笑って言葉を続けた。
「今日、どうだった?」
「……どうだったって言われてもな……」
「気分転換的なことは、できたかな?」
「……お前……」
そう。ミリアがラノハをデート……もとい、外出に誘った理由はこれのためである。
思い悩んでいたラノハを、少しでもリラックスさせようとするミリアの計らいであった。
「ラノハがいろんなことで悩んでるのは分かるよ。それに、私はラノハが悩んでる全てのことを分かるわけじゃない。私はラノハじゃないから、ラノハが思ってることとかは、話してくれないと分からないの。だから、一人でどうしても分からないことがあれば、相談してほしい。私じゃなくてもいいから、一人で抱え込まないで」
「……俺は……」
ミリアのこの真剣な言葉を聞いて、ラノハは目線を下に向け、両手に持っていた今日買ったばかりの二本の模擬剣を、二本とも、地面に落としてしまった。
ラノハは決して、相談しないということに意地を張っているわけではない。ただ、ラノハの中にある何かが、ラノハの口を閉ざしてしまっていた。
そんなラノハを知ってか知らずか、ミリアはラノハに向かって言葉を綴った。
「……焦らなくていいよ。ラノハの中で整理ができてから話してくれたらいい。私はいつでも、いつになっても、ラノハのことを待ってるから。いつでも来てくれていいよ。でも、これだけは忘れないで。ラノハは一人じゃない。一人じゃないから。私は今も、これからも、ずっとラノハのそばにいるよ」
ミリアはそう言って、黒く光る石が付いたとても綺麗な指輪を取り出した。
この黒く光る石が付いた指輪は、ラノハが先に帰った後、ミリアが買ったものである。ラノハを先に帰らした理由はトイレだけではなく、指輪を買うという目的もあったのだ。
そしてその指輪を、ラノハの左手の薬指にはめる。
「……もう一サイズ小さくても良かったかな?でも、これが私の気持ちだから」
ミリアはそう言って、ニコリと笑った。
だが、ラノハはそんなミリアを呆然と見つめることしかせず、一言も声を発さない。
どれだけ待ってもなんの反応も示さないラノハを見て、ミリアはこう言った。
「……返事も、待ってるからね。じゃあ、先に家の中に戻るから」
ミリアはそう言って、訓練場から去っていった。
しかし、ミリアが去った後も、ラノハはその場から一歩も動くことができずに立ち尽くした。
そしてラノハは、メイドが昼食のために呼びに来るまでそのまま動くことはなかったのであった。
ラノハは実践を意識した動きで、流れるように二本の模擬剣を扱う。
その動きは、剣技ではなくまるで一つの舞を舞い踊っているようなものであった。
それほどまでに、洗練とされた動きだったのである。
しばらくして、ラノハがその動きをやめた。
するとラノハの背後からパチパチパチと手を叩く音が響いた。
ラノハがその音の方に振り向くと、そこには手を叩いているミリアがいた。
「……ミリア。帰ってきてたのか」
「うん。ついさっきね。それにしても、すごかったよ。さっきの剣技。本当に無駄な動きが無くて、綺麗だった」
「そ、そうか……」
ラノハはミリアのこの言葉を聞いて、ミリアから少しだけ目をそらした。
ミリアはそんなラノハに向かって頭を下げた。
「後、ごめんね?あの時怒っちゃって」
「いや、気にしてない」
「そっか。でもごめんね」
「……ああ。分かったよ」
ラノハの返事に満足したミリアは、少し笑って言葉を続けた。
「今日、どうだった?」
「……どうだったって言われてもな……」
「気分転換的なことは、できたかな?」
「……お前……」
そう。ミリアがラノハをデート……もとい、外出に誘った理由はこれのためである。
思い悩んでいたラノハを、少しでもリラックスさせようとするミリアの計らいであった。
「ラノハがいろんなことで悩んでるのは分かるよ。それに、私はラノハが悩んでる全てのことを分かるわけじゃない。私はラノハじゃないから、ラノハが思ってることとかは、話してくれないと分からないの。だから、一人でどうしても分からないことがあれば、相談してほしい。私じゃなくてもいいから、一人で抱え込まないで」
「……俺は……」
ミリアのこの真剣な言葉を聞いて、ラノハは目線を下に向け、両手に持っていた今日買ったばかりの二本の模擬剣を、二本とも、地面に落としてしまった。
ラノハは決して、相談しないということに意地を張っているわけではない。ただ、ラノハの中にある何かが、ラノハの口を閉ざしてしまっていた。
そんなラノハを知ってか知らずか、ミリアはラノハに向かって言葉を綴った。
「……焦らなくていいよ。ラノハの中で整理ができてから話してくれたらいい。私はいつでも、いつになっても、ラノハのことを待ってるから。いつでも来てくれていいよ。でも、これだけは忘れないで。ラノハは一人じゃない。一人じゃないから。私は今も、これからも、ずっとラノハのそばにいるよ」
ミリアはそう言って、黒く光る石が付いたとても綺麗な指輪を取り出した。
この黒く光る石が付いた指輪は、ラノハが先に帰った後、ミリアが買ったものである。ラノハを先に帰らした理由はトイレだけではなく、指輪を買うという目的もあったのだ。
そしてその指輪を、ラノハの左手の薬指にはめる。
「……もう一サイズ小さくても良かったかな?でも、これが私の気持ちだから」
ミリアはそう言って、ニコリと笑った。
だが、ラノハはそんなミリアを呆然と見つめることしかせず、一言も声を発さない。
どれだけ待ってもなんの反応も示さないラノハを見て、ミリアはこう言った。
「……返事も、待ってるからね。じゃあ、先に家の中に戻るから」
ミリアはそう言って、訓練場から去っていった。
しかし、ミリアが去った後も、ラノハはその場から一歩も動くことができずに立ち尽くした。
そしてラノハは、メイドが昼食のために呼びに来るまでそのまま動くことはなかったのであった。
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