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────8話*この手を離さないで
3・苦情係と皇
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****♡Side・副社長(皇)
苦情係は唯野の命で動いている。彼の一存で。
それに塩田が従うのは、筋が通っている場合に限るだろう。だから今回のことに関して彼が従ったことが不思議に思えていた。
どうして自分の味方をしてくれるのか。
自分は彼に酷いことをしたというのに。
ずっと唯野に守られてきたことを知った。
だが、自分はその理由を知らずにいる。
言えない理由があるのはなんとなく察してはいたし、踏み込んではいけないと思っていた。
そして塩田が先日恋人の電車とデートに出かけたのは、彼なりの配慮だと思っていたが、そうではないことを知る。
結局自分は何も分かっていないし、何も知らないのだ。
きっと知ろうと思えば知ることはできたはずなのに。
それでも塩田は一緒に戦おうといってくれる。
どうやって立ち向かうかも分からないが、その言葉が心強かった。
「今、社内は二派に分裂しているらしい。呉崎派と皇派」
情事の後二人でシャワーを浴び、皇はベッドに寝転がる。塩田は髪をタオルで拭きながらベッドに腰かけるとスマホを見つめながらそう発した。
皇は派閥など作った覚えはない。気怠い身体を何とか動かしながら、彼の背中を撫でる。
「誰からの情報なんだ? それは」
「課長だね。でも情報元は秘書室長」
秘書室長と言えば株原一の情報通。確か最近は屋上で板井と一緒にいるところをよく見かける。
──板井が彼女に接触しているのは知っていたが、あれは唯野さん関係だろう。
苦情係はたった四人の部署。
その何が凄いのかと言えば、多岐に渡る部署の手伝いをしていることだ。その中でも礼儀正しく低姿勢の板井は各部署から評判がいい。
蔭では唯野の忠犬などと呼ばれてはいるが。
それ以前に唯野自体がかなり評判が良い。彼は苦情係立ち上げに伴い、いろんな部署を回されたという経緯がある。元は営業部。人当たりも良く見目も良いことから人気があった。
──初めから苦情係は、唯野さんにしか上司は務まらなかったということだ。
社長は確実にあの人の素質を見抜いていた。人望も。
皇は営業部時代より唯野のことを信頼し慕っている。彼が塩田にしたことについては信じられないと言うのが正直な感想だった。
真面目で誠実な人という印象が強かったためだ。そして平和を好み、人当たりの良い人でもある。
──逆を返せば、自分勝手になって全てを投げ出しても良いくらい塩田が欲しかったのだろう。
その気持ちは皇にも理解できる。
しかし彼にとって一番必要なのは板井だった。そういうことなのだろう。
「課長曰く、社内が二分している状況は社長にとっても嬉しくはないだろうと、さ」
言ってスマホの画面を皇に向ける。
唯野のメッセージはそこで終わっていた。つまりその状況と理由だけで皇が全てを理解できると思っているということだ。
「で?」
塩田は”どうするんだ?”とでも言うように皇に回答を求める。
「どう切り出すかは、板井にも意見を求めたいところだが」
「ん」
塩田はタオルを椅子に掛けるとベッドに乗り上げて仰向けに寝転んだ。そして手を組み目を閉じる。
「苦情係は俺の直属の課だ。そしてたった四人で何ができると……は社長は思っていない」
立ち上げたばかりの頃こそ嫌味を言っていた呉崎だが、あれは単に唯野へのパワハラであり嫌がらせでしかない。何故なら苦情係の三人の新人は社長である呉崎が自ら株原にスカウトしたのだから。
つまり、卑怯な手ではあるが苦情係を人質に取るしか打開策はないと思われた。
「ま、それでダメなら辞表出して会社立ち上げればいい。皇にならついていくやつ、いくらでもいるだろ」
塩田の言葉を聞きながら皇は目を閉じる。
「塩田は?」
「クビになったら雇ってくれるんだろ」
彼の言葉に驚いて瞼をあげるとチラリとこちらに視線を向けた彼の瞳とかち合う。
「ああ。喜んで」
一呼吸の後、皇は言って微笑んだのだった。
苦情係は唯野の命で動いている。彼の一存で。
それに塩田が従うのは、筋が通っている場合に限るだろう。だから今回のことに関して彼が従ったことが不思議に思えていた。
どうして自分の味方をしてくれるのか。
自分は彼に酷いことをしたというのに。
ずっと唯野に守られてきたことを知った。
だが、自分はその理由を知らずにいる。
言えない理由があるのはなんとなく察してはいたし、踏み込んではいけないと思っていた。
そして塩田が先日恋人の電車とデートに出かけたのは、彼なりの配慮だと思っていたが、そうではないことを知る。
結局自分は何も分かっていないし、何も知らないのだ。
きっと知ろうと思えば知ることはできたはずなのに。
それでも塩田は一緒に戦おうといってくれる。
どうやって立ち向かうかも分からないが、その言葉が心強かった。
「今、社内は二派に分裂しているらしい。呉崎派と皇派」
情事の後二人でシャワーを浴び、皇はベッドに寝転がる。塩田は髪をタオルで拭きながらベッドに腰かけるとスマホを見つめながらそう発した。
皇は派閥など作った覚えはない。気怠い身体を何とか動かしながら、彼の背中を撫でる。
「誰からの情報なんだ? それは」
「課長だね。でも情報元は秘書室長」
秘書室長と言えば株原一の情報通。確か最近は屋上で板井と一緒にいるところをよく見かける。
──板井が彼女に接触しているのは知っていたが、あれは唯野さん関係だろう。
苦情係はたった四人の部署。
その何が凄いのかと言えば、多岐に渡る部署の手伝いをしていることだ。その中でも礼儀正しく低姿勢の板井は各部署から評判がいい。
蔭では唯野の忠犬などと呼ばれてはいるが。
それ以前に唯野自体がかなり評判が良い。彼は苦情係立ち上げに伴い、いろんな部署を回されたという経緯がある。元は営業部。人当たりも良く見目も良いことから人気があった。
──初めから苦情係は、唯野さんにしか上司は務まらなかったということだ。
社長は確実にあの人の素質を見抜いていた。人望も。
皇は営業部時代より唯野のことを信頼し慕っている。彼が塩田にしたことについては信じられないと言うのが正直な感想だった。
真面目で誠実な人という印象が強かったためだ。そして平和を好み、人当たりの良い人でもある。
──逆を返せば、自分勝手になって全てを投げ出しても良いくらい塩田が欲しかったのだろう。
その気持ちは皇にも理解できる。
しかし彼にとって一番必要なのは板井だった。そういうことなのだろう。
「課長曰く、社内が二分している状況は社長にとっても嬉しくはないだろうと、さ」
言ってスマホの画面を皇に向ける。
唯野のメッセージはそこで終わっていた。つまりその状況と理由だけで皇が全てを理解できると思っているということだ。
「で?」
塩田は”どうするんだ?”とでも言うように皇に回答を求める。
「どう切り出すかは、板井にも意見を求めたいところだが」
「ん」
塩田はタオルを椅子に掛けるとベッドに乗り上げて仰向けに寝転んだ。そして手を組み目を閉じる。
「苦情係は俺の直属の課だ。そしてたった四人で何ができると……は社長は思っていない」
立ち上げたばかりの頃こそ嫌味を言っていた呉崎だが、あれは単に唯野へのパワハラであり嫌がらせでしかない。何故なら苦情係の三人の新人は社長である呉崎が自ら株原にスカウトしたのだから。
つまり、卑怯な手ではあるが苦情係を人質に取るしか打開策はないと思われた。
「ま、それでダメなら辞表出して会社立ち上げればいい。皇にならついていくやつ、いくらでもいるだろ」
塩田の言葉を聞きながら皇は目を閉じる。
「塩田は?」
「クビになったら雇ってくれるんだろ」
彼の言葉に驚いて瞼をあげるとチラリとこちらに視線を向けた彼の瞳とかち合う。
「ああ。喜んで」
一呼吸の後、皇は言って微笑んだのだった。
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