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01. 最重要なことは……

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ほとほとと冷たい何かが降ってくる。
鼻先にあたったそれのあまりの冷たさに驚いて跳ね起きると、視界一面をまっ白な雪景色が覆った。
とてつもない寒さに、生まれたての子鹿のようにぶるぶると震える。
暖がとれる安全な場所に行きたい、その一心で足を動かす。

靴は履かなくても大丈夫!
そもそも靴がないし、あってもこの黒ウサギの姿じゃ履けないからね……

まばらに存在する白い帽子をかぶった木々を通り越し、凍てついた小川を渡る。
白い大地に小さな足跡だけを残して、灰色の空の下を黙々と歩く。
その間も、雪はほとほとと降り続けた。

ここはどこだろう?
というか、人間が黒ウサギになって自宅から雪原にワープするなんて異世界小説みたい。
……異世界なのかなここは。
まあ、そんなことより何より死活問題なのは……

寒さと飢えに体力はどんどん奪われていき、手足の感覚もなくなってくる。
もう動けない……ぼふっと雪の上に倒れる。

ごめんね、父さん、母さん、私……

あなたたちが辟易するほど毎月贈ってよこしたシフォンケーキ、すごーく微妙な味だから今まで全部ご近所さんや知り合いにあげちゃってたけど……こんなことになるならいやでも人生の記念に、一切れくらい食べておけばよかった!!

そこで私の意識は何度目かの闇に包まれた。


『起きろ……』

冷たい声が頭の中に響きびっくりして目が覚めた。
私はふかふかなソファーに横たわっていた。
どうやら大きな涙型の窓からさんさんと光が差し込む木の洞のような部屋の中に移動したようだ。
まったく身に覚えがないが。

『騒がないだけ、マシだな』

「誰?」

どうにでもなれという気持ちで聞く。

『外に出ろ、話はそれからだ』

窓から入ってきた風が毛を揺らす。
こっちだよねと不安になりながらも部屋を出ると螺旋状の木の階段が目の前にあった。
階段の途中の壁にはいくつかのドアがみえる。
まるで一本の大木の中をくりぬいてそこを家にしたみたいだ。というか、実際そうなのかもしれない。

とことこと階段をひたすら下りていく。

長っ!長いし急だよ、この階段!!
謎の声さん、腹を空かせ、疲れ果てたウサギになんたる仕打ち!!

とか、脳内で文句を垂れ流してる間に一番下まで下りきり、出入り口と思われる丸いドアの前に立つ。

あのー、すみません謎の声さん、私どうやってこのドア開ければいいんでしょう?

ウサギの手では届きませんよ?

『ドアの右隅にウサギの手でも届く小さなドアがあるはずだ。そこから出ろ。』

はーい、おっ、これかな、よっと。

外に出ると、そこには森が広がっていた。

いやー、空気がおいしい。

でもね、それよりも……

『キュー(お腹減ったー)』

情けない声が出る。

『第一声がそれか』

ハッと声のした方をみると、美青年がこちらを見下ろしていた。
蒼い髪に青空の瞳をしたその青年は不機嫌そうな顔をしている。

『俺はつい先ほど、神の命令でお前の契約精霊となったものだ。
俺のことはお前の好きなように呼べ。
何か質問があったら十秒以内にしろ。』

えっ十秒!!ってカウントしてる!!

ああもう、なら聞くことは一つ!!

「キューキュー(黒ウサギでもお菓子作りはできるようになりますか)?」
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