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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」

33(413歳)「4ヶ月後の城塞都市風景(1/2)」

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前回の短話(4歳の冬)と今回(4歳の秋)で時系列が逆転しておりますが、前回の短話は番外編だということでご理解くださいませ。m(_ _)m



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 そして4ヵ月の月日が流れた……漫画の最終回とかじゃなくて、実際に流れたよ!

 季節は秋。
 ロンダキルア領城塞都市は、かつてないほどに賑わっていた(パパン談)。いや、私はこの街をまだ数年しか見てないからね……。

 孤児院増設工事は完了し、浮浪者のうち約9割の人たちがやり遂げた。
 最後まで残った男性陣のうち十数名は建築ギルドの正ギルド員になれた。ギルマス奮発してくれたね!

 ギルド員になれなかった男性陣へは、予定通り安アパートの一室と、農民スタートキットもしくは冒険者スタートキットを提供し、農民を選んだ人へは【土魔法】と【グロウ】でスタートダッシュを提供。冒険者を選んだ人へは魔の森入口あたりでのゴブリン・オーク上位種狩り特訓でレベル30くらいまで上げてあげた。
 ホントは200まで上げたいんだけど、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】のことを私のおりチーム並びに従魔のみなさん以外に教えるのは、さすがにリスキー過ぎるので……。

 最後まで残った女性陣は全員、同じく完成したアルフォートさんとこの製紙・製本工場に就職。
 半月ほど前から、魔法教本と聖書の量産が始まっている。

 魔法教本・聖書セットはバカ売れ!

 そりゃそうだ。
 今まで何百万ゼニスもして、とても手が出なかった本が1冊1万ゼニスだよ!?
 1ヵ月くらい生活を切り詰めれば捻出できるお金で買えるんだもの。

 そして初級でも魔法が使えるようになれば、生活の端々でめちゃくちゃ便利になる。
 ちょっとした量の水のために、重たい井戸汲みをしなくてよくなる。
 火起こしが超簡単になる。
 夜も高価なロウソクがなくたって明るい環境で生活できる。

 ……まぁ逆に、その所為せいで傾く産業もある。
 今言ったロウソクとか、油とか、雑用メインの冒険者とか、他にもいろいろ。

 そういった『私の所為で職を失った人、収入が減った人』については、各ギルドもしくは領主代行パパンに苦情が入ったらすぐに私に連絡が来るよう、事前に根回ししている。
 で、私が立ち上げた、もしくは立ち上げ予定の新産業へごあんなーいってわけだ。

 街の中央広場や中央通り周辺は既存の店舗や工房に押さえらえちゃってて手に入れられなかったけど、ちょっと外れたところでは何ヵ所も土地を買って、新産業の工房が稼働している。

 例えばデスキラービー蜂蜜の蜂蜜酒ミード工房や蜂蜜漬け工房。

 蜂蜜漬けの方で大ヒットしたのはやっぱり『はちみつレモン』! 長持ちする上にジュースにすると超美味しいと大評判!

『蜂蜜梅干し』も『すっぱいのに甘い、クセになる味』と評判。

 蜂蜜漬けではないんだけど、ジンジャー入り蜂蜜飴も好評だね! ちょっと肌寒くなってきた今日この頃、体が温まるんだ。

 肉の蜂蜜漬けも流行らせたいんだけど、これ以上の蜂蜜を要求すると、デスキラービーたちが過労死しちゃうからね……。

 テンサイ蒸留酒はトニさんが従士業そっちのけでがんばり、大繁盛している。
 おかげで夜の街では酔っ払いが増え、治安が悪化してるのは悩みの種だけど……パパンからは『魔法を覚えた軍人どものいい訓練になるから気にするな』と言われているから気にしないでおこう。

 あ、ちなみに蒸留酒はあっても蒸留器はないよ! だって私にせよトニさんにせよ、【アイテムボックス】で酒精を抽出しちゃうからね!

 街の既存のお酒屋さんが店先のトニさんに、『いったいぜんたい、どうやって強い酒を造ってるんだ?』って問い詰めたことがあったらしくって、トニさんに『魔法っす』って答えられて頭を抱えたそうな。


    ◇  ◆  ◇  ◆


 さて、今日も今日とて街の見回り。
 何しろ私がテコ入れしたり管理してる店舗や工房が多いから。

 お気に入りの膝丈トレンチスカート姿で中央通りを歩く。
 さすがにスカート姿で【飛翔】はしない。私にだって最低限の恥じらいというものはあるのだよ。

 チビは非番だ。私付きとはいっても、たまには親兄弟と過ごす時間や、遊ぶ時間も必要だもの。

 ちなみに今歩いている道! いつぞやザルツさんの馬を驚かせてしまった『ローマ街道』に置換済だ!
 パパンに公示を出してもらって、区画ごとに通行止めをして置き換えていったんだけど、野次馬のみなさんは私の魔法の実演に大興奮だったよ。

 さて、磁器屋さんの前を通りかかると、今日も今日とてお客さんでごった返していた。
 その隣の本屋さんも大盛況なので、この一角はいつもカオスな状態だ。

 スカートに注意しつつ【浮遊】してカウンターを覗いてみると、店長の娘さんが涙目になって応対してた。

「――あ! アリス様ぁ~~~!!」

 ありゃ、気づかれた。

「手伝ってくださいぃ~~~~」

 しょうがないなぁ~のび○くんは!
 ま、大流行させた私の責任もあるしね!


    ◇  ◆  ◇  ◆


【闘気】全開で接客したよ。
 私の『目にも止まらないはずなのにメチャクチャ丁寧な梱包作業』に、お客さんたちは大喜びだった。
 磁器の方にも【闘気】をまとわせてるからね。万が一にも傷ひとつつけないさ!

 で、小一時間ほど客を捌いていると、ようやく波が引いた。

「すみませんアリス様、ちょっと工房の方を見てこなくちゃならなくて……店番、お願いできますか?」

「いいですよ。――あっ! 『あの方』は先週からまだいらっしゃってないですよね?」

「はい、まだお見えになっていません。もしいらっしゃったら、『例のブツ』をお渡しください」

 私と何やら不穏な会話を交わした娘さんは、奥へ引っ込む。
 カウンターの引き出しには今日の売り上げが入ったままなんだけど……いやぁ、信頼されたもんだね。

 そんで私がカウンターでぼけーっとしていると、背の高い男性が店に入ってきて、

「モウカリマッカ?」

 私に対して摩訶不思議な挨拶をしてきた。

「ボチボチデンナ!」

 私も応える。

 この男性こそ『あの方』ことヘンデル・フォン・ライゼンタール男爵様。
【瞬間移動】が使える稀有な魔法使いで、戦時には物資や人員の補給任務に就く後方支援の軍人さんになるが、平時では行商人をやっている。
 商人といっても【瞬間移動】でひとっ飛びなんだけどね!

 ……ん? ってことは飛商人? まぁいいや。

 そしてこの謎挨拶は、100年前から続く、商人同士の由緒正しい挨拶なんだとか。まぁ間違いなく、先代勇者が面白がって広めたんだろうなぁ……。

「新作はありますか?」

 ライゼンタール男爵様は商品棚をくまなく調査し、すでに見たことのあるもの以外は置いていないことを確認した上で、私に聞いてきた。

 この方、この店の常連さんなんだよね。

「ふっふっふっ……男爵様のために隠しておいたとっておきの新作があります」

「おおっ!?」

 引き出しから『例のブツ』を取り出し、

「どうですこのカップ! この真っ白な磁器の上に可愛らしいフェンリルちゃんのイラスト! 薄っすら青く輝く毛並み! そしてはっきりと黄金に輝く瞳!
 魔石の練り込ませ具合によって、ひとつのカップの中で輝き度合いを変化させるという、店長さんの野心あふれる自信作です!」

「す、素晴らしいですな! 言い値で買いましょう! これだけの代物だ。上級貴族相手にオークションを開けば、価格は青天井になるでしょう!」

「お金の話は中でしましょう。新作のシュークリームもお出ししますよ」

「『しゅーくりーむ』? また新たなお菓子を開発したのですな? いやぁ、今後ともよしなに頼みますぞアリスさん!」

「こちらこそ!」

 そう、私とライゼンタール男爵様は『共犯者』。
 私が城塞都市で新しいものを生み出し、男爵様がそれを王都や各都に運んで流行させる。
 私も儲かる、男爵様も儲かる。ウィン・ウィンな関係だ。

 もちろん、私が生み出す数々の新商品を手に入れるべく私にすり寄る商人さんは多いのだけれど、私はライゼンタール男爵様を一番に贔屓している。
 だって男爵様は、店長さんが白磁を売り出してすぐの時期からその美しさに目をつけ、大量購入して王都で流行させてくれた恩人だからね。男爵だけあって貴族の間でも顔が広いんだ。
 あと、【瞬間移動】持ちの流通速度はマジ便利!

「店長さーん、ライゼンタール男爵様がいらっしゃいましたー! お姉ちゃん、店番交代お願いしまーす」

「はーい! これはこれは男爵様、よくいらっしゃいました」

 奥から娘さんが出てくる。

 え? 数百歳のクセに、十代相手に『お姉ちゃん』はないんじゃないかって?
 見た目は4歳児なんだから、いいんだよ!





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追記回数:4,649回  通算年数:413年  レベル:600

次回も城塞都市改革の成果発表会(回)です。
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