「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」
38(414歳)「リアル王子様にきゅ、求婚された!」
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「しっかしどうすっかなー……親父が国王陛下へお伝えする気がないんじゃあな」
ここはおなじみ、砦のパパンとママンの寝室。
あの賑やかな会談の後、貴族らしく高級宿に入り、美味しいはずだけどあまり味のしなかった夕食を食べ、宿の部屋に入り、そこからここへ【瞬間移動】したのだ。
内緒話をするには、ここが一番安心できるからね。
ちなみに3バカトリオたちは宿に置いてきた。
都会の、それも高級宿の料理に舌鼓を打ってたよ。
「とはいっても、お伝えしないわけにはいきませんでしょう?」
私を膝の上に乗せて、ママン。
先ほどの会談で私が傷ついたと思っているのだろうか……さっきから離してくれない。
「だよなぁ……手紙を送って、内々に謁見を申し込むか」
「――へ? 謁見させてもらえるんですか!?」
ちょっとびっくりした。
一介の騎士爵がそうそう謁見なんてしてもらえるもんなの?
パパンがにやりと笑う。
「そりゃ父さんは近衛騎士団長の座を断って、逆に気に入られた男だからな。陛下とは仲良しなんだぞ?」
「『陛下の御身だけでなく、王国全てを守るためにこの力を振るいたい』という言葉は、今でも吟遊詩人が歌う演目の定番なのよ」
うっとり顔のママンと、どや顔のパパン。仲いいねぇ。
この世界に厨二病という概念はないけれど、パパンにはそのけがあるっぽい。英雄願望っていうのかな。まぁ実際英雄なんだけど。
でもパパン、それ実際は窮屈そうな仕事をしたくなかっただけでしょ?
「俺は手紙を書きに書斎へ行くが、お前はどうする?」
「私はアリスちゃんをお風呂に入れてきます。アリスちゃん、今日は一緒に寝ましょうね」
「はいっ」
◇ ◆ ◇ ◆
領都の西側の城門を出れば、そこはもう隣の領になるそうだ。
西側の城壁が東側ほど立派じゃなかったのが印象的だったね!
城塞都市を守るつもりはないのかな、辺境伯様は?
王都を含む国王陛下の直轄地に入るまでには、3つの領が挟まっている。
もちろん他にも領はたくさんあるんだけど、わざわざ回り道までして挨拶する必要はないのだそうだ。
3つの領の領主様にもご挨拶に伺ったけど、いずれも軍務閥ということで、パパンに非常に友好的――というか英雄パパンを崇拝している感じだった。
パパンが城塞都市で風竜を討伐した時の話なんか、子供のように目をキラキラさせて聞いていたよ。
城塞都市で魔法が大流行していることもご存じで、領主様やその子弟から指導を求められたので、僭越ながら手ほどきさせて頂いた。
あのアロー系魔法の射的場で冒険者さんにやったみたいにね!
で、各領の冒険者ギルドで伝説の魔獣の死体を金に換え、その金で豪遊した。貴族の義務ってやつだね! 城塞都市では見られない果物とか珍しい食べ物を買いあさったよ。
あ、各領主さんにはあらかじめ、地竜だのグリフォンだのを数体納入することは伝えた上でだよ。
どの領主さんも、非常に希少な素材が手に入ると喜んでたよ。
そんな感じで、10日間の旅は良好そのものだった。
……まるで、何かが起こる前触れであるかのごとく。
◇ ◆ ◇ ◆
『ピロピロピロッ!!』
「むぉっ!?」
11日目、王国直轄領に入った日の昼下がり。
先行して偵察してもらっていた従魔から緊急通報!
そして目の前に【瞬間移動】で現れるブルーバード。
【瞬間移動】を会得した優秀な子たちを連れて来てるんだよ!
ブルーバードからは『ヤバい、マジヤバい』という強い思念を感じるも、具体的な内容までは不明。
「お父様、ちょっと様子を見てきます!」
「父さんも一緒に行こう」
「はい! じゃあお願い!」
ブルーバードにお願いすると、ブルーバードが私たちごと現場へ【瞬間移動】!
◇ ◆ ◇ ◆
「「な、ななな……」」
転移先は広大な森の上空。
即座に広範囲【探査】し、何がヤバいのか分かった。
魔物の集団暴走。
数百匹もの魔物たちが、異常に興奮して戦い合ったり共食いし合ってる。
もっと詳しく【探査】――
「!? お父様、数十人の人間を発見! 襲われてます! 助けていい案件ですよね!?」
「もちろんだ! 俺も行く!」
良かった。さすがにスタンピードは自然淘汰案件ではないらしい。
「はい! 【瞬間移動】!」
現場の上空へ転移。
森を貫く細い道で、3台の馬車がオーガ数十体に襲われていた!
とっさに【探査】! ヤバイヤバイヤバイ、死にかけの人が8名!
「【エリア・エクストラ・ヒール】!」
とりま重傷者を上空から治癒する。もちろん、【魔力操作】LV10の私がオーガ相手に誤治癒なんてしない。
改めて眼下を確認すると、いかにも貴族な箱馬車1台と、ドラ○エ風な幌つき荷馬車が2台。
貴族馬車を守るように騎士風の剣士十数名が取り囲んでおり、それを取り囲むようにオーガが数十体。リーダ数体、ジェネラルもいる!
騎士たちとオーガは乱戦を繰り広げている。
「ジークフリート・フォン・ロンダキルアだ!! 加勢する!!」
私より先に、パパンが地面に降り立って名乗りを上げる。無名の私が乱入するより、有名なパパンが入った方が相手が安心するからね。
こういう事態に遭遇した時の手順は打ち合わせ済なのさ。
続いて私も降り立つ。
「あとこれはウチの娘だ! さっきの治癒は娘の魔法! それに強いぞ!」
この緊急事態に、なんとも間の抜けた親バカ発言だけど……まぁこれも打ち合わせ通り。
そうしないと、私が暴れられないからね。
さぁて、それでは【思考加速】100倍! 【闘気】全開! からのぉ【アイテムボックス】から抜剣!!
私とパパンは、騎士たちと組み合っていないオーガを選び、首を撫で斬りにしていく。後ろの方で指揮というか督戦してたジェネラルとリーダーも瞬殺。
数秒後にはオーガは半減。
当座の危機は乗り越え、死者が出る恐れはなくなった。
その頃になると、ようやく事態が飲み込めてきたのか、騎士たちの間から『王国の守護者様だ!!』『助かるぞ! このまま押し切れ!!』みたいな声が上がり始めた。
あとは流れで。
私は騎士さんたちの回復に専念。
ほどなくしてオーガたちは全滅した。
◇ ◆ ◇ ◆
「いやぁ助かったぞ!」
血塗れでボロボロの鎧をまとった、随分と若い騎士さんのひとりが、私たちに話しかけてきた。
「こうして会うのは2度目だな、王国の守護者よ!」
「……はぁ?」
パパンが『誰こいつ?』って感じて騎士さんを見てるけど、その顔がみるみる青くなって、
「こっ、これは失礼致しました! 殿下!」
急に跪いた。
デンカ? 殿下……殿下ってことは、
「王子様ぁ!?」
この人さっきまで、騎士たちに交じってフツーにオーガたちと斬り結んでたぞ!?
しかしそう言われてみると、鎧は装飾多めできらびやかだし、お顔立ちには気品がある……というか超絶イケメン。
正直、タイプだ。
お歳は十代半ばか?
思い出せアリス、スキル【おもいだす】発動!
パパンの『王族講座I』によると、この王国の王子様は2人。
第一王子様――王太子殿下はもうちょい年上のはずだから、この方は第二王子様だ。
確かお名前は――沸点? じゃなかったフェッテン様だ。
「こらアリス! お前も早く跪け!」
あわわ、そうだった!
慌てて私も跪き、顔を伏せるが、
「よい。顔をよく見せてくれないか?」
言われて恐る恐る顔を上げると、至近距離に王子様。
……や、ヤバイ、喪女歴数百飛んで31年にこの距離はキツい!!
「ウワサには聞いていたが、本当に強いんだな! その歳で得物にまで【闘気】を載せるとは」
かく言う王子様も、オーガと戦う時は【闘気】を使っていた。
【闘気】使いはすべからく達人。さっきまでは『強い人って、いるところにはいるもんだなぁ』とか思ってたけど、まさか王子様だったとは!
王子様が私の手を取り、立ち上がらせる。
そして逆に王子様が跪き、流れるような所作で、
手の甲にキ、キ、キ、
キスされた!!!!!!
「麗しき命の恩人よ、改めて、そなたの口から名前を聞かせてほしい」
私は泡を吹いて気絶した。
◇ ◆ ◇ ◆
「……クゼーション】! 【リラクゼーション】! おいアリス、起きろ!」
「――――はっ!?」
パパンの声で覚醒する。
はぁ~……びっくりした。なんだ夢かぁ。
そりゃこの私が王子様に手にキスされるなんて、あるわけないじゃん!
パパンの膝枕から起き上がると、
「……だ、大丈夫か?」
目の前には心配そうな顔の王子様!!
「ぎゃあ!」
「おまっ、殿下に向かってなんてことを――」
「あっはっはっ! 面白い娘だな」
「あわ、あわわわ……」
なんとか立ち上がり、カーテシーで挨拶しようとして、スカート姿でないことに気づき、慌てて男性用の礼をする。
「お初に御目にかかります、アリス・フォン・ロンダキルアと申します。フェッテン殿下におかれましては、ご機嫌うるわしゅっ!?」
極めつけに舌まで噛んだ。……恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「ううぅ……【ヒール】――ん?」
顔を上げる。
恥ずかしさは一旦忘れて、【闘気】全開。思考は戦闘モードに。
「気づいたか。次の御一行が来たらしいな」
パパンが立ち上がる。
【探査】すると、オーク数十体がこちらに向かって来ているところだった。
「防護結界を頼めるか?」
「はい! ダブル【防護結界】!」
私たちと殿下と馬車と騎士さんたちを包み込む形で結界を展開。
ほどなくして、森の中からオークの集団が飛び出してきて、結界に激突した。
結界の外のことなので声も音も聞こえないが、オークたちが物凄い形相で結界をがつがつ殴ってる。
「はぁ~……ちょっと森ごと片付けてきますね」
「ああ。父さんはここを守っているよ」
私の結界がびくともしないことなどパパンは百も承知だけど、王子様を安心させるためにポーズを取るのも大事な仕事だ。
「ジークフリート、そなた何を言っているんだ? ま、まさか娘ひとりに魔物全てを任せるつもりか!? 確かに先ほどの戦い振りは見事だったが……」
「はい。言うのが遅くなりましたが、娘は私より強いのです……剣の腕以外では」
あはは。パパン、剣の腕について律義に付け足してるよ。
そりゃ【片手剣術】LV10のパパンには敵いませんって。
とりま結界外まで【瞬間移動】し、オークたちの首を【首狩りアイテムボックス】。
あんぐりと口を開けている王子様に一礼してから、掃討作戦開始だ!
◇ ◆ ◇ ◆
「【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】!
ええいめんどくせぇ新技【森ごとアイテムボックス】!」
◇ ◆ ◇ ◆
小一時間後、
「終わりました~」
元の場所に戻り、ダブル【防護結界】を解除する。
「お疲れさん」
労ってくるパパンと、
「「「「「「「「「な、ななな……」」」」」」」」」
呆然とした様子の王子様&騎士さんたち。
王子様はいち早く再起動し、目を閉じた。
王子様の方から魔力がそよそよとなびいてくる。【闘気】で魔物の気配を探ってるんだね。
「本当に、1体の気配すらない……は、はははっ、素晴らしい! 本当に、本当に強いんだな!
アリス! アリス・フォン・ロンダキルア!」
王子様が再び、私の前で跪いた。目線が合う。
剣ダコだらけの大きな手に、私の手がすっぽり包み込まれ、
「結婚してくれ! 絶対に幸せにしてみせる!」
そこから先の記憶はない。
*******************************************
追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
次回、定番医療チート発動!
ここはおなじみ、砦のパパンとママンの寝室。
あの賑やかな会談の後、貴族らしく高級宿に入り、美味しいはずだけどあまり味のしなかった夕食を食べ、宿の部屋に入り、そこからここへ【瞬間移動】したのだ。
内緒話をするには、ここが一番安心できるからね。
ちなみに3バカトリオたちは宿に置いてきた。
都会の、それも高級宿の料理に舌鼓を打ってたよ。
「とはいっても、お伝えしないわけにはいきませんでしょう?」
私を膝の上に乗せて、ママン。
先ほどの会談で私が傷ついたと思っているのだろうか……さっきから離してくれない。
「だよなぁ……手紙を送って、内々に謁見を申し込むか」
「――へ? 謁見させてもらえるんですか!?」
ちょっとびっくりした。
一介の騎士爵がそうそう謁見なんてしてもらえるもんなの?
パパンがにやりと笑う。
「そりゃ父さんは近衛騎士団長の座を断って、逆に気に入られた男だからな。陛下とは仲良しなんだぞ?」
「『陛下の御身だけでなく、王国全てを守るためにこの力を振るいたい』という言葉は、今でも吟遊詩人が歌う演目の定番なのよ」
うっとり顔のママンと、どや顔のパパン。仲いいねぇ。
この世界に厨二病という概念はないけれど、パパンにはそのけがあるっぽい。英雄願望っていうのかな。まぁ実際英雄なんだけど。
でもパパン、それ実際は窮屈そうな仕事をしたくなかっただけでしょ?
「俺は手紙を書きに書斎へ行くが、お前はどうする?」
「私はアリスちゃんをお風呂に入れてきます。アリスちゃん、今日は一緒に寝ましょうね」
「はいっ」
◇ ◆ ◇ ◆
領都の西側の城門を出れば、そこはもう隣の領になるそうだ。
西側の城壁が東側ほど立派じゃなかったのが印象的だったね!
城塞都市を守るつもりはないのかな、辺境伯様は?
王都を含む国王陛下の直轄地に入るまでには、3つの領が挟まっている。
もちろん他にも領はたくさんあるんだけど、わざわざ回り道までして挨拶する必要はないのだそうだ。
3つの領の領主様にもご挨拶に伺ったけど、いずれも軍務閥ということで、パパンに非常に友好的――というか英雄パパンを崇拝している感じだった。
パパンが城塞都市で風竜を討伐した時の話なんか、子供のように目をキラキラさせて聞いていたよ。
城塞都市で魔法が大流行していることもご存じで、領主様やその子弟から指導を求められたので、僭越ながら手ほどきさせて頂いた。
あのアロー系魔法の射的場で冒険者さんにやったみたいにね!
で、各領の冒険者ギルドで伝説の魔獣の死体を金に換え、その金で豪遊した。貴族の義務ってやつだね! 城塞都市では見られない果物とか珍しい食べ物を買いあさったよ。
あ、各領主さんにはあらかじめ、地竜だのグリフォンだのを数体納入することは伝えた上でだよ。
どの領主さんも、非常に希少な素材が手に入ると喜んでたよ。
そんな感じで、10日間の旅は良好そのものだった。
……まるで、何かが起こる前触れであるかのごとく。
◇ ◆ ◇ ◆
『ピロピロピロッ!!』
「むぉっ!?」
11日目、王国直轄領に入った日の昼下がり。
先行して偵察してもらっていた従魔から緊急通報!
そして目の前に【瞬間移動】で現れるブルーバード。
【瞬間移動】を会得した優秀な子たちを連れて来てるんだよ!
ブルーバードからは『ヤバい、マジヤバい』という強い思念を感じるも、具体的な内容までは不明。
「お父様、ちょっと様子を見てきます!」
「父さんも一緒に行こう」
「はい! じゃあお願い!」
ブルーバードにお願いすると、ブルーバードが私たちごと現場へ【瞬間移動】!
◇ ◆ ◇ ◆
「「な、ななな……」」
転移先は広大な森の上空。
即座に広範囲【探査】し、何がヤバいのか分かった。
魔物の集団暴走。
数百匹もの魔物たちが、異常に興奮して戦い合ったり共食いし合ってる。
もっと詳しく【探査】――
「!? お父様、数十人の人間を発見! 襲われてます! 助けていい案件ですよね!?」
「もちろんだ! 俺も行く!」
良かった。さすがにスタンピードは自然淘汰案件ではないらしい。
「はい! 【瞬間移動】!」
現場の上空へ転移。
森を貫く細い道で、3台の馬車がオーガ数十体に襲われていた!
とっさに【探査】! ヤバイヤバイヤバイ、死にかけの人が8名!
「【エリア・エクストラ・ヒール】!」
とりま重傷者を上空から治癒する。もちろん、【魔力操作】LV10の私がオーガ相手に誤治癒なんてしない。
改めて眼下を確認すると、いかにも貴族な箱馬車1台と、ドラ○エ風な幌つき荷馬車が2台。
貴族馬車を守るように騎士風の剣士十数名が取り囲んでおり、それを取り囲むようにオーガが数十体。リーダ数体、ジェネラルもいる!
騎士たちとオーガは乱戦を繰り広げている。
「ジークフリート・フォン・ロンダキルアだ!! 加勢する!!」
私より先に、パパンが地面に降り立って名乗りを上げる。無名の私が乱入するより、有名なパパンが入った方が相手が安心するからね。
こういう事態に遭遇した時の手順は打ち合わせ済なのさ。
続いて私も降り立つ。
「あとこれはウチの娘だ! さっきの治癒は娘の魔法! それに強いぞ!」
この緊急事態に、なんとも間の抜けた親バカ発言だけど……まぁこれも打ち合わせ通り。
そうしないと、私が暴れられないからね。
さぁて、それでは【思考加速】100倍! 【闘気】全開! からのぉ【アイテムボックス】から抜剣!!
私とパパンは、騎士たちと組み合っていないオーガを選び、首を撫で斬りにしていく。後ろの方で指揮というか督戦してたジェネラルとリーダーも瞬殺。
数秒後にはオーガは半減。
当座の危機は乗り越え、死者が出る恐れはなくなった。
その頃になると、ようやく事態が飲み込めてきたのか、騎士たちの間から『王国の守護者様だ!!』『助かるぞ! このまま押し切れ!!』みたいな声が上がり始めた。
あとは流れで。
私は騎士さんたちの回復に専念。
ほどなくしてオーガたちは全滅した。
◇ ◆ ◇ ◆
「いやぁ助かったぞ!」
血塗れでボロボロの鎧をまとった、随分と若い騎士さんのひとりが、私たちに話しかけてきた。
「こうして会うのは2度目だな、王国の守護者よ!」
「……はぁ?」
パパンが『誰こいつ?』って感じて騎士さんを見てるけど、その顔がみるみる青くなって、
「こっ、これは失礼致しました! 殿下!」
急に跪いた。
デンカ? 殿下……殿下ってことは、
「王子様ぁ!?」
この人さっきまで、騎士たちに交じってフツーにオーガたちと斬り結んでたぞ!?
しかしそう言われてみると、鎧は装飾多めできらびやかだし、お顔立ちには気品がある……というか超絶イケメン。
正直、タイプだ。
お歳は十代半ばか?
思い出せアリス、スキル【おもいだす】発動!
パパンの『王族講座I』によると、この王国の王子様は2人。
第一王子様――王太子殿下はもうちょい年上のはずだから、この方は第二王子様だ。
確かお名前は――沸点? じゃなかったフェッテン様だ。
「こらアリス! お前も早く跪け!」
あわわ、そうだった!
慌てて私も跪き、顔を伏せるが、
「よい。顔をよく見せてくれないか?」
言われて恐る恐る顔を上げると、至近距離に王子様。
……や、ヤバイ、喪女歴数百飛んで31年にこの距離はキツい!!
「ウワサには聞いていたが、本当に強いんだな! その歳で得物にまで【闘気】を載せるとは」
かく言う王子様も、オーガと戦う時は【闘気】を使っていた。
【闘気】使いはすべからく達人。さっきまでは『強い人って、いるところにはいるもんだなぁ』とか思ってたけど、まさか王子様だったとは!
王子様が私の手を取り、立ち上がらせる。
そして逆に王子様が跪き、流れるような所作で、
手の甲にキ、キ、キ、
キスされた!!!!!!
「麗しき命の恩人よ、改めて、そなたの口から名前を聞かせてほしい」
私は泡を吹いて気絶した。
◇ ◆ ◇ ◆
「……クゼーション】! 【リラクゼーション】! おいアリス、起きろ!」
「――――はっ!?」
パパンの声で覚醒する。
はぁ~……びっくりした。なんだ夢かぁ。
そりゃこの私が王子様に手にキスされるなんて、あるわけないじゃん!
パパンの膝枕から起き上がると、
「……だ、大丈夫か?」
目の前には心配そうな顔の王子様!!
「ぎゃあ!」
「おまっ、殿下に向かってなんてことを――」
「あっはっはっ! 面白い娘だな」
「あわ、あわわわ……」
なんとか立ち上がり、カーテシーで挨拶しようとして、スカート姿でないことに気づき、慌てて男性用の礼をする。
「お初に御目にかかります、アリス・フォン・ロンダキルアと申します。フェッテン殿下におかれましては、ご機嫌うるわしゅっ!?」
極めつけに舌まで噛んだ。……恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「ううぅ……【ヒール】――ん?」
顔を上げる。
恥ずかしさは一旦忘れて、【闘気】全開。思考は戦闘モードに。
「気づいたか。次の御一行が来たらしいな」
パパンが立ち上がる。
【探査】すると、オーク数十体がこちらに向かって来ているところだった。
「防護結界を頼めるか?」
「はい! ダブル【防護結界】!」
私たちと殿下と馬車と騎士さんたちを包み込む形で結界を展開。
ほどなくして、森の中からオークの集団が飛び出してきて、結界に激突した。
結界の外のことなので声も音も聞こえないが、オークたちが物凄い形相で結界をがつがつ殴ってる。
「はぁ~……ちょっと森ごと片付けてきますね」
「ああ。父さんはここを守っているよ」
私の結界がびくともしないことなどパパンは百も承知だけど、王子様を安心させるためにポーズを取るのも大事な仕事だ。
「ジークフリート、そなた何を言っているんだ? ま、まさか娘ひとりに魔物全てを任せるつもりか!? 確かに先ほどの戦い振りは見事だったが……」
「はい。言うのが遅くなりましたが、娘は私より強いのです……剣の腕以外では」
あはは。パパン、剣の腕について律義に付け足してるよ。
そりゃ【片手剣術】LV10のパパンには敵いませんって。
とりま結界外まで【瞬間移動】し、オークたちの首を【首狩りアイテムボックス】。
あんぐりと口を開けている王子様に一礼してから、掃討作戦開始だ!
◇ ◆ ◇ ◆
「【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】! 【首狩りアイテムボックス】!
【探査】! 【瞬間移動】!
ええいめんどくせぇ新技【森ごとアイテムボックス】!」
◇ ◆ ◇ ◆
小一時間後、
「終わりました~」
元の場所に戻り、ダブル【防護結界】を解除する。
「お疲れさん」
労ってくるパパンと、
「「「「「「「「「な、ななな……」」」」」」」」」
呆然とした様子の王子様&騎士さんたち。
王子様はいち早く再起動し、目を閉じた。
王子様の方から魔力がそよそよとなびいてくる。【闘気】で魔物の気配を探ってるんだね。
「本当に、1体の気配すらない……は、はははっ、素晴らしい! 本当に、本当に強いんだな!
アリス! アリス・フォン・ロンダキルア!」
王子様が再び、私の前で跪いた。目線が合う。
剣ダコだらけの大きな手に、私の手がすっぽり包み込まれ、
「結婚してくれ! 絶対に幸せにしてみせる!」
そこから先の記憶はない。
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追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
次回、定番医療チート発動!
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それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
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