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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」

42(414歳)「国王陛下相手にアリスちゃん劇場開催!」

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「まずはアリスが考案した、馬に装着する武具、あぶみでございます。【アイテムボックス】を使ってもよろしいでしょうか?」

 アリスちゃん劇場の口火はパパンが切った。

「よいよい。そなたら3人とも、儂の前での全ての魔法の行使は自由とする」

「ありがとうございます。では【アイテムボックス】!」

 取り出した鞍と鐙のセットを陛下と私たち家族の間にあるテーブルの上に置く。

「馬がいた方がイメージしやすいので、馬の模型を作ってもよろしいでしょうか?」

「作る? ……まぁ、好きにやってくれて構わんよ」

「ではアリス」

 パパンからの指示。まぁこういうモノ造り系は私の方が得意だからね。

「はい! 巨大【アースボール】をこねてこねて……」

 10秒ほどで、目の前に立派な馬の像が出来上がる。もちろん床に置いたよ。

「な、ななな……いや、【魔力操作】レベル10と【土魔法】レベル6があれば当然か……」

 しげしげと馬を眺める陛下。

「しかしこれだけ精工だと、良い値で……」

 あ、顔は見ないで! 顔の造形は苦手なんです!

「…………うむ。まぁ、今は鐙とやらの話だな」

 優しみあふれる陛下が話をそらしてくれた。

 パパンが馬に鞍を装着する。続けて鞍に鞍革と鐙を装着する。
 最初にパパンに作って見せた時は、面倒だったから【土魔法】製の鎖で代用したけど、『鞍革』という名前の通り、鞍と鐙をつなぐ部品は本来革製だ。
 本日は、ちゃんと革製のものを作ってきた……実際に作ってくれたのは城塞都市の職人さんだけど。

「失礼致します」

 パパンが馬に乗る。

「鐙はこのように馬上での足場となり、踏ん張りが利くようになります。馬上で立ち上がることすら可能になり、敵の騎馬兵を上から叩くことが可能になります」

「な、な、な……なんてことだ……なぜ今まで、誰も思いつかなかった!?」

「事実、【馬術】レベル2しかない私でも、鐙があれば早駆けしても振り落とされません」

 私の捕捉に、

「「「素晴らしい!!」」」

 陛下とフェッテン殿下と宰相様の声がハモった。

 乗馬はねぇ……この数ヵ月の間に練習させらえたんだけど、私の運動神経(の無さ)をナメちゃいけない。
1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】なしではLV2が限界だった。そしてお馬さんを部屋の中に入れて何年も付き合わせるのも忍びない。
 まぁ私の戦闘スタイルは【瞬間移動】と【飛翔】を駆使した立体起動。
 馬はまぁ、典礼の時や指揮の時なんかに最低限乗れればいいやってことでパパンからお許し頂いた。

「ただ、騎兵が簡単に育つとなると、別の問題が……」

 お? 馬から降りたパパンが何か言ってる。騎兵が量産できることのどこに問題が?
 けど逆に、陛下たちは『あー……』って感じの顔になってる。
 ママンは無反応。いつもの『3歩後ろを歩くモード』だ。

 ん? 分かってないの私だけ?

「まぁ、制度改革の素案がまとまってから普及させるとしよう」

 制度改革?

「陛下……見ての通り、娘には少し足りていないところがございます」

 なぁっ!? パパンなんてこと言うの!?

「本人の意図しないところで陛下にご迷惑をおかけすることもあるやもしれませんが、何卒ご容赦ください」

「あっはっはっ! まぁ良かれと思ってやっておることなのじゃろう? 周りが支えてやれば良い」

「ありがたく存じます」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「次に、アリスの結界魔法【聖域】により、作物を魔王国からの呪いから守れたこと、そして作物の育成を良くする改良肥料についてです」

「聖女殿しか使えないと言われている聖級魔法【聖域】が使える!? ひゃ、百年持つだと!? ――灰と特製肥料を混ぜたら成長が2倍!?」

「実は陛下、【鑑定】で調べて得た知識なのですが、輪栽式農業といって――」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「次に、魔物の死体や海水から作った塩についてです。そして、城塞都市の塩事情について」

「【アイテムボックス】で塩を作る!? いくらでも!? 純度100%!? 
 いやしかし、そんなことをすれば相場が大暴落しかねない。この件については検討が必要じゃな……。
 とはいえ、ロンダキルア辺境伯の塩の独占は目に余る。城塞都市まで十分な量の塩が行き渡るようにさせるか、それが無理なら王命で製塩利権を一部開放させ、そなたらが魔法で作った塩を放出できるようにしよう。少し時間をくれ。
 して、その純度100%の塩、見せてもらうことはできるかの?」

「こちらに」

「なんという白さじゃ!」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「次に、アリスが魔の森で【従魔テイム】し、訓練している魔物の数々のことです」

「あぁ、フェンリルの話は聞いてお――数百体の群れ!?
 ブルーバード偵察部隊による魔の森警戒網!?
 デスキラービーの蜂蜜と【発酵】魔法で蜂蜜酒(ミード)が作り放題!? 蜂蜜漬けで冬の食卓事情が大幅改善!?
 蜘蛛の特殊個体に作らせた新しいデザインの衣服が大流行!?」

「こちら、セーラー服とナース服になります……」

「「「なんと面妖な……」」」

「コラコラコラコラアリスちゃん! 流行してるのはそっちじゃなくてこっちでしょう!」

 ママンからの訂正が入り、ママンが『失礼致します』と断ってから【アイテムボックス】からマーメイドラインのドレスを取り出した。

「おお、このドレスか! ライゼンタール男爵が定期的に持ってくるカタログを、妻たちや娘たちが血眼になって見ておるわ」

 ちぇっ……陛下のお墨付きがもらえれば、流行らせられると思ったんだけど。
 流行は作れる!

 っていうか私の共犯者こと飛商人のライゼンタール男爵様は陛下とも懇意のようだ。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「こちら、城塞都市で一家に一冊普及している魔法教本です」

 この本、私たちが魔の森での数百年でいろいろ研究した魔法の応用編も追記している。

 私からは主に、野宿に役立つ空間魔法系。
 ダブル【防護結界】を張って、壁に換気扇を取り付けて【風魔法】を【付与エンチャント】することで安全快適に暮らす方法とかね。

 そして一番多く追記した人が――

「うむ。これは儂も持っておる。【グロウ】と【発酵】に関する記述が妙に多く、ほとんどテンサイ酒造り本になっておるのはなぜなのじゃ?」

「「「あ、あはは……」」」

 笑ってごまかす私たち一家。
 そう、酒職人トニさんの仕業だ。

 トニさんには『秘匿しないの? 儲かるのに』って言ったんだけど、『せっかくの研究成果を、広く知らしめたいじゃないっすか!』というキラキラした瞳に負けた。

 トニさんは商人ではなく研究者なのだ。
 金銭欲より名声欲が先に立つ。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「次に、鉄筋コンクリートです」

 パパンに目で促され、陛下の前で、以前建築ギルドマスターに実演して見せた『ミニチュアなんちゃって鉄筋コンクリート』を作って見せる。

「本当はこの内部の筋は鉄製なのですが、鉄を魔法で作り出すことができないので……」

「ほう? それほど魔法が使えるのに、鉄生成魔法が使えないじゃと? ……あぁ、鉄生成は聖級じゃったか」

 おおっ、鉄生成魔法は聖級か! なら覚えられるな!

「陛下、先ほど申し上げた娘の戦力強化のための要望事項とはまさにそのことで、娘に聖級と、できれば神級魔法を覚える機会を頂戴したいのです」

「直ちに宮廷筆頭魔法使いを家庭教師につけさせよう!
 神級魔法については至急、禁書庫を調査させる。もちろんアリスも禁書庫も自由に出入りして構わん。許可証を用意する」

「ありがとうございます! それで、この鉄筋コンクリートを使った建築方法に『ラーメン構造』というものがありまして――」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「こちら、方位磁石です。この針が常に北を向いております」

「な、なんと! これがあれば森の開拓や沖合での漁が随分と安全になるな! 大型船を作り、航海も可能になるやもしれん! 大陸最西端に閉じ込められている現状、海に出るのは長年の課題だったのじゃが、解決できそうじゃ!」

 そりゃそうさ!
 羅針盤の発明が、大航海時代の幕を開いたのだから。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「次に、娘の従魔ブルーバードと【瞬間移動】の組み合わせによる、王国全土の対魔物警戒態勢についてです」

「どんなに距離が離れていても従魔と『意思疎通』ができるじゃと!? まぁアリスの魔力ならば可能か」

「実際、魔の森で狩りをしている従魔とここから『意思疎通』できますので、恐らくは王国最西端と城塞都市の間でも可能だろうと考えております」

 私が捕捉する。

「そして、魔王が復活し、王国のどの場所で魔物の集団暴走スタンピードが発生しても駆けつけられるよう、冒険者として各地を旅して【瞬間移動】のマッピングを行いつつ、見聞を広めたいのです」

「ふむ。それならば、10歳の洗礼で判明するまでの間は、そなたが勇者であることは隠しておいた方が良いだろう。並行して、内々に準備を進めよう。
 洗礼を受ければ職業を選べるようになるが、恐らくその職業欄に【勇者】が現れるだろう。人の口に戸は立てられん。洗礼の後、そなたを王城に呼び出し、勇者顕現と魔王復活のことを発表しようと思う。
 洗礼の際、天の声を聴く者も少数だがいる。魔王復活のことは洗礼時に女神様からお聞きした、ということにしてくれんか?」

「分かりました」

「そなたが勇者であることが判明してからは、良からぬ考えを持つものがそなたの元に山ほど現れることになるだろう。
 世間知らずの小娘と侮って利用しようとする輩、魔王復活に怖気づき、そなたの首を取って魔族に寝返ろうとする輩、海千山千の貴族や商人たち……。
 そんな思惑を跳ね除けられるだけの十分な武功と名声を、この5年で積み上げてほしい。冒険者ギルドでSランクになるのは必須じゃな。
 ……悪行は働かぬように気をつけるのじゃぞ? そなたに悪気がなくとも、大きすぎる力を持つそなたの何気ない行動で、不利益を被る者が出てくることはあるじゃろう……鐙や塩の件のように。目付け役が必要じゃな……近衛騎士団と宮廷魔法使いから見繕うとしよう」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「次に、殿下のご病気であった『脚気』と『栄養学』についてです」

「ビタミン……か。同じ『肉』でも栄養に偏りが出るとはな……」

「はい。このことは、できるだけ早く全国民に公示すべきかと。特に上流階級ほど、白米と牛肉を好むでしょうし……。
 あと、これはあくまで私の個人的見解なのですが、殿下のお食事をご担当されている料理長は、本当に意図せず殿下の栄養を偏らせていたのでしょうか……? 殿下のお食事内容を詳しく伺ったのですが、奇妙なほどピンポイントでビタミンを抜いているように思えるのです」

 料理長は湯治の旅にはついて来なかったが、湯治先の料理人への申し送りはしていたらしい……故意にビタミンB1を抜くようなレシピの数々を。

「アリス!」

 パパンに咎められるが、

「実はな……」

 陛下が暗い表情で話し始めた。

「手紙を受け取った時点で、件の料理長のことは調べさせたのじゃが……フェッテンが湯治に出てすぐ、職を辞したそうじゃ」

「「「「…………」」」」

 言葉が出ない私たち一家とフェッテン殿下。

「そなたらだからこそ話した。他言無用じゃぞ? まぁおかげで、件の料理長を推挙した家――内部閥じゃったが――から芋づる式に膿を出し切れそうじゃ!」

 お、王侯貴族って闇が深いんだね!


    ◇  ◆  ◇  ◆


「いやぁ驚いた。もう一生分驚いたぞ!」

 満面の笑みの陛下。

「お喜び頂けたようでなによりです。
 ……これで最後になります。これは私、ロンダキルア辺境伯家次男としての、陛下へのご相談になります。実は勇者と魔王復活のこと、そして今日お話ししたことのいくつかは、1年ほど前に父、ロンダキルア辺境伯へは伝えていたのです」

「――なんじゃとっ!? ロンダキルア辺境伯からは何の連絡も受けてはおらん。――そうじゃな?」

「そうだったかと存じますが、今一度調べましょう」

 うなずく宰相様に対し、パパンが慌てて、

「い、いえ、実は王都への道中、父と会ったのです。その時に、『勇者の存在が露見すれば、魔族が侵攻を開始しかねない』と……そこで本日、この場を頂いた次第です」

「辺境伯め……よもや勇者と魔王復活のことを隠し立てしようとは。それに、今日聞かせてもらった話の数々は、人族の生活を豊かにし、魔物や魔族との戦いに有利になるものばかり。一度、問いたださねばならんな」

「ただ……陛下、私も辺境伯の子だから分かるのですが、あの人はただ、怯えているだけなのです。どうか……お慈悲を賜れればと存じます」

「他ならぬそなたにそう言われてはなぁ……」

 考え込むご様子の陛下。

「ところで、ずっと気になっておったのじゃが……」

 話題を変えるかのように、陛下が言った。

「アリスの称号にあった、【脱糞交渉人】とはなんじゃ?」

「ぎゃあ!」

 思わず絶叫。

「はい、実はこの子は――」

 ママンが乳幼児期の脱糞交渉の話をし始める。

 や、やめてお願い、フェッテン殿下の前でその話はしないでぇ!


    ◇  ◆  ◇  ◆


 フェッテン殿下は大爆笑してたよ……。
 しかもフォローするかのように、またしても手の甲にキスされた。
『どんなキミでも好きだよ』って目が言ってた。気絶するかと思った。

「ではさっそく、宮廷筆頭魔法使いと引き合わせよう。宰相、先に行って人払いを済ませよ」

「――はっ」

「なっ……何も陛下御自ら玉体をお運びにならなくても――」

 ビビるパパンに、

「たまには散歩も良いものだ。それにこれは、国家最高機密なのだからな」

 陛下が笑った。





*******************************************
追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600

あぶみの下りにつきましては、『28(閑話) 「うちの娘がおかしい件」』の真ん中あたりをご覧頂ければと存じます。m(_ _)m
次回、宮廷筆頭魔法使いとの魔法バトル!
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