137 / 143
第3章 「私が魔王国内で大暴れする話」

135(3,032歳)「魔王のママになる」

しおりを挟む
「もう1回! もう1回!」

「ハイハイ。でももうだーいぶ長いことやったから、次が最後ね!」

「分かったから早く!」

「ハイハイせーのっ」

「「対よろです!」」

 ファイ!

 魔王キュンは『アリスト○ートファイターII』にドハマりした。そして意外に強かった。
 ……というか私が弱すぎた。

『YOU LOSE』

「ぐぬぬぬ!!」

 悔しいけれど、内部時間でいえばもう夕方相当。

「ほら、晩御飯にしよう」

 格ゲーの筐体から立ち上がると、

「うんっ!」

 魔王キュンが4歳児っぽい感じの、満面の笑みを見せてくれた。
 いやぁたった半日で、驚くほど打ち解けられた!
 やっぱりTVゲームは偉大だ!

「じゃあ次は、一緒に晩御飯を作ろう!」

「ごはんを作る?」

「そぉだよ~。あ、もしかして包丁とか使ったことない?」

「剣ならある。いちおう」

「うーん……剣とはちょっと違うかなぁ」

 そんなことを言いながらキッチンへご案内し、

「あ、じゃあ魔法でやろっか」

【アイテムボックス】からキュウリを取り出し、【ウィンドカッター】でスパスパと切って見せる。

「それならできそう」

【浮遊】で高さを稼いだ魔王キュンがマネするも、まな板ごといってしまった。

「あ、コラコラ!」

 細切りになったまな板を示しながら、

「まな板切っちゃダメでしょう?」

「……?」

「……?」

「アリソンは今、僕に命令をしたのか?」

「命令? 命令っていうよりお説教かな」

「『おせっきょう』……?」

「あー……そうか、教育も指導もされたことがないのかぁ。あのね、世間には『やって良いことと悪いこと』があるの。で、『まな板を破壊する』のは『悪いこと』になるの。だから私が今、キミに『ダメだよ』って言ったわけ」

「うーん……?」

「えーと、キミは、例えばどんなことが『やって良いこと』だと思う?」

「人族の『せんめつ』」

「…………。『悪いこと』は?」

「それを邪魔するすべてのこと」

「Oh……それは、誰から教えられたの?」

「魔法神様」

「だよねー。だろうと思った」

 さて、どうしたものか。

「じゃあ、これからは、私が教える『やって良いことと悪いこと』に従ってもらいます」

「なんで?」

「そりゃ私がキミに『魔法決闘』で勝って、私がキミを従属させる権利を有するからだよ」

「――…」

「あと、従わなかったらゲームは取り上げます」

「それはヤダ!!」

「じゃあまずは、まな板を切らずにキュウリだけ切れるように練習してみようよ」

「うん」

 と、そんな感じで一緒に料理を作りつつ、ふと思い至った。

「そう言えば、キミの名前を聞いてなかった!」

「ないよ」

「へっ?」

「僕に名前はない。魔法神様からもただ『魔王』って呼ばれてる」

「ひでぇ……」

「ルキフェル王国第13代国王とか、ルキフェル13世って呼ばれることもある」

「じゃあルキくんって呼んでもいい?」

「…………うん」

 魔王キュン改めルキくんは、なんだかうれしそうにもじもじして、うつむいてしまった。……か、可愛いやんけ。


    ◇  ◆  ◇  ◆


 夜には一緒に眠った。
 8歳当時のフェッテン様にやったのと同じやつ。
 同じ布団に入り、ルキくんの背中をトントンしてやりながら、テキトーなアニソン、Jポップのバラードを子守唄に唄う。
 愛に飢えてる――ルキくんの場合は愛を知らない――子供に対する、ある種の精神汚染攻撃だね。

 まぁ立派な同衾だしフェッテン様に対する浮気行為ではあるものの、なぁに相手は体は4歳、中身は半端な知識と自意識だけを持った0.2歳児。
 晩御飯作りながらいろいろ会話した感じ、『性別』とか『異性』、『恋』やなんかは知識としては知っていても、まったく理解していない様子だった。
 時々私に対して顔を赤らめてたけど、ありゃ恥ずかしがってる感じだ。本人は『恥ずかしい』もまだ理解していないみたいだけど。

 そんな感じで1週間、魔王ルキくんをデロデロに甘やかしつつ教育した。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「【瞬間移動】!」

「なっ……!?」

 外部時間で0.数秒後、再び魔王城の決闘会場に戻ってきた。
 目の前には驚愕するレヴィアタン氏。そして周囲には魔力切れで倒れる魔族の人たち。約半数は全裸。

 まぁ1秒も経っていないんだもの。状況は変わらんわな。

「今一瞬、おふたりの姿が消えたような……?」

「決めたぞリヴァイア! 僕はママの従魔になる!」

「ま、ママ……?」

 戸惑うレヴィアタン氏。

 そう!
 なんとルキくんの呼び名が、この一週間で『アリソン』⇒『お姉ちゃん』と変遷し、私が『家族』や『母親』という概念をルキくんに体感させてしまったがために、ついに『ママ』になったのだ!

 今やルキくんは私にべったりで、とはいえゲームを取り上げられたくないがために、私が教える『やって良いことと悪いこと』を必死に覚えようとしてくれている。
 いやぁ、ショタっ子美少年を自分好みに育てることができるとは! 光源氏の気持ちが分かるような気がするよ。

「ってことで同意が得られたので【従魔テイム】します。【従魔テイム】!」

 手の中にほんのり輝く首輪が生成される。
 その首輪を、ルキくんがウキウキ顔で差し出してくる首に巻いた。
 首輪は一瞬ぱぁっと光った後、光を失う。

 ――ヨシ!(指差呼称しさこしょう
 今度こそ【従魔テイム】成功!





 魔王討伐ならぬ、魔王従魔化達成だぁ!!!!





************************************************
追記回数:551,551回  通算年数:3,032年  レベル:5,100

次回、最終章「私が魔王になって右往左往する話」突入。
アリス・アリソン・フォン・ロンダキルア・ルキフェル14世爆誕!!
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...