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異変の始まり
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しおりを挟む「おう、シオン!戻ったか」
「すみません、戻りました。まさか、予感が的中ですか?」
「まだ、そこまでは至っていない。・・・だが時間の問題かもしれん。ギルドの方にも連絡が行っているはずだ」
「そうですか、杞憂ならばいいのですが」
「そうだな。・・・ん?なんだよメシまだだったのか?呼び出しされる前に食っとけ」
「そうします」
ドサリ、と部屋に入るなり置いた紙袋。
ふわり、と揚げたての芋の匂い。外に出ていたようだから、広場の屋台で昼飯を買いに行っていたのだろう。
この所また部屋に籠りきりなシオンを外に出したのは俺だ。あれから2年も経ち、徐々に元のシオンに戻っては来たが、あまり自分から外に出ようとしていない。
部下達も気付いているのかいないのか、外に誘っているようだがな。
シオンが食っている最中、ひょいとポテトを摘む。
美味いな、こんな店もあるのか。
「お行儀が悪いですよ、団長」
「悪イな、匂いにつられた。こんなのも売ってんのか、俺がいつも食ってるのはスライスしたのばっかりだな」
「そうみたいですね、俺も初めてです」
「いい店見つけたな」
「『エンジュ様』を見かけましてね。どちらに行くのかお伺いしたらこの店を教えてくれたんですよ」
「お?エンジュ・タロットワーク殿か?いい女だろ」
「団長の好みはああいう方ですか?アナスタシア様とはまた違いますね」
「ああいう、ちょっと小悪魔的な女がいいんだよ。アナスタシアは正統派美人な上に性格も独特だがな?」
シオンにはまだ早いか?とはいえ、アナスタシアによるとエンジュ殿は俺やアナスタシアと同年代。シオンよりは少し歳上か。
その割に可愛らしい顔立ちをしているが、目に宿る知性は本物だろう。あの時も切り返しは見事だった。
あまり騒がしいのは好まない、という事は、貴族同士の夜会などには興味がない、という事だ。
タロットワークらしく、自分の世界だけに興味がある、といった具合なのだろう。自分でも変わっているとは思うが、俺はそういうどこかミステリアスな女に惹かれる傾向がある。…まあ、キャロルは普通だが。
********************
魔術研究所へ戻り、食堂の一角を使用してサンドイッチ作り。
まずバゲットを切る。さらに切込みを入れ、バターを塗り、野菜とチーズを挟み、薄切りのローストビーフを詰め込む。
黒胡椒を軽く振っておしまい。後は食べる前にソースをかける、と。
自分の分を取り分け、残りはゼクスさんの研究室へ。
『ご飯だよ』と声を掛ければみんなわらわらと集まってくる。私は自分の部屋で頂こうっと。
部屋で食事を済ませ、魔術書を読む。
攻撃魔法が使える…ようになったとはいえ、はっきり言って自分の脳内イメージ頼りだ。
それだけでは発動はしても、エラい威力が出たりする。
そのあたりの調整の為に、こうしてこちらの魔法に付いて書かれた本を読み、知識とイメージの擦り合わせをしている。
それができたら、また実験室で攻撃魔法の練習。
魔法の威力の調整をしないとね。脳内イメージだと、ほんとにアニメとかゲームなんかのグラフィック頼りだから、物凄いことになったりする。
後はあれよ、タナトス。
何度か召喚したりしているんだけど、ほーんとペル○ナそのもの。呼ぶ時に『ペルソ○召喚!』とかって言っても出る。
ふざけ過ぎじゃない?私。ペ○ソナチェンジとかもできちゃうのかしら?
呼びかければ、話せはしないけれど唸り声?のような声はでている。私の言う事は理解しているようで、私の代わりに戦ってくれそうだ。なんとなくの意思疎通は可能。
何日か試していると、出来てしまいました、ペルソナチェンジ。
ふざけて勢いで『踊れ!カル○ン!』とか言ったらタナトスがいきなり姿が変わった。
「・・・マジかあ」
「∂∇∪∧@¥£Ф」
「・・・何言ってるかわかんないけど、まあ、戦ってくれるっぽいなあ」
「∇*Ф£У」
ふわりふわり、くるりくるりと回っている。
『任せとけー』とでも言っているかのようだ。
もうヤケになって知っている限りのペル○ナの名前を調子に乗って呼んでみる。アニメで見ていただけあったし、ゲームも何週もやっていたためか、ある程度のペル○ナについては変化できた。
色々と試した結果、この召喚獣を出している間、私は他の魔法は使えなくなる。自分に対しての防御魔法は勝手に作動しているけどね。意識して他の魔法を使おうとしても無理そうだ。
いやでも、こんなの出せるなら充分すぎるわよね…?
「いやはや、驚きだの。エンジュが帰ってしまってから、王配ネイサムについて調べ直したのだが、ネイサムもまた召喚獣を呼べたとか」
「えっ、こんなのでした?」
「いや、なんでも黒いドラゴンらしい」
「・・・名前とか残ってました?」
「それが一部しか読み取れなくてな。バハ・・・なんとかと」
バハムートじゃない?それ・・・
召喚獣としては王道よね。でもかなり大きいよなあ。私はタナトス位の方が小回り効いて使いやすそうだなと思うけど。
しかし、実際に戦闘になった場合、私はこれを扱えるだろうか?今は無機物であったり、魔法で作ったゴーレムのような実験体相手に練習させているんだけど。
大きな岩に向かって、壊してどけるために火炎球だとか、木の剪定するのに風刃なんか使えるけど、対人間に対しては…抵抗がある。
とはいえ、魔物相手ならばどうか?
以前、学校の課外授業の一環で外に出た際、狼の魔物に出会ったけれど。…あれくらいならば退ける為に魔法を使う事は出来そうだけど。
マンティコアだったかしら?大型の魔獣。
あんなのに向かっていくような度胸はないなあ…
遠距離からのタナトス突撃?それくらいなら頑張れそうだけど。だからこその召喚獣なのかな。
「どうかしたかの」
「いや、いざと言う時にこれ使えるのかなと」
「・・・無理はせんでいい。そもそもこれを使う羽目になるような事が起きる前に止めるのが儂等の役目じゃし」
「まあ、そうなのかもしれませんが」
「そもそも、人相手なら『影』がおるじゃろ」
「・・・確かに」
「魔物相手ならば多少は気が楽じゃろうが。エンジュが相手するようなことなど滅多になかろうよ。
・・・下手な騎士よりこやつの方が強いと思うがな」
「そうでしょうかね?」
「まともにこれと戦えそうなのはアナスタシアくらいじゃないかの」
さすが死神コミュMAXのペ○ソナ…
見てて格好いいから好きなんだけど。
なんだかんだと話をしていると、ヨハル君がゼクスさんを呼びに来た。お客様が来たらしい。
「お客様?」
「そうなんですよ、また面倒事じゃないといいんですけどねえ」
「ヨハル君、そういうの好きよね」
「俺、研究所内の情報集めるの生き甲斐なんですよね」
ゼクスさんの研究室の一員、ヨハル君。
1番年下のキリ君とは一つ違い。噂話とかゴシップが大好き。
どこどこの研究室では今何をやっているだとか、向こうの研究室では何が流行っているとか、色んなことを知っている。
私は実験室を出て、自分の部屋へ。
読みかけの魔術書を読むことに。気になる魔法が乗っていたのよね。あれできたらかっこいいよなあ…
お気に入りのソファに座り、読書開始。
お茶を飲みながら魔法の勉強。…うーん、この歳になって勉強するとは思わなかったけど、ゲーム脳にはこういう知識とかたまらないのよね…
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