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冒険者ギルド編~多岐型迷路~
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しおりを挟むタナトスと試合して行った団長さん。
『あんなの反則だろ!・・・しかし、これを使役できるなら迷宮の探索も出来るな』
なんて言いつつも、いくつか有効な攻撃魔法を教えていってくれた。助かります。
その中のひとつ、『護法剣』。
団長さんの2つ名の由来でもある、攻撃魔法。自らの魔力を刃とし、相手を攻撃する魔法。
使い手の魔力属性に左右されるそうで、私が使えば『聖』属性が入る。団長さんは『火』と『風』が強いみたいで、その属性魔力が乗るらしい。
団長さんが使ってみせてくれたのだけど、一度に数本の光の剣が出現する。ある程度自在に動かせるとの事。しかし本人は自分で剣を振る方がいいらしく、基本的にあまり使わないそうだ。
…それが『奥の手』のように見えているそうで、2つ名になったのだと言っていた。
「ま、こういう使い方もある。エンジュの場合、近距離戦闘はしないだろう。ならこれで遠距離から狙い撃つ方がいい。もしかしたら俺よりも向いてるかもしれん」
「確かにフレンなら自分で戦う方が良さそうね」
「この魔法の応用で、自分の剣に魔力を乗せて強化するのも得意になったからな。ま、うまく使ってくれや」
「ありがとう、練習してみるわ」
「お礼はここにくれればいいぞ?」
ほらほら、と頬を寄せる。
私はクスッと笑って唇を寄せた。チュッ、と軽いリップ音。海外ならばこれくらいは親愛の証?まあ家族みたいなものだしね。アナスタシアの旦那様、ならば私にはお兄さん?
「ご褒美だな。さて、もうひと頑張りするか」
「余力は残しておいて頂戴?貴方の出番がない事を願うわ」
「肝に銘じておくよ」
私の手を引き寄せ、これまでのように手の甲ではなく、手の甲を掴み寄せて、指の腹に口付ける。
そのまま指に唇を添わせたまま、私を見た。
「気をつけてくれ」
「フレン?」
「ゼクスレン様から聞いた、叔父が誰なのかを」
「・・・」
「勿論、ゼクスレン様だけでなく、俺もお前を守るつもりだ。だが何が起こるかわからん、自分でも気をつけてくれ。でも忘れるなよ?その事があるから俺達はお前を大事に思うわけじゃない」
「ありがとう、フレン」
「早くシオンが気付く事を願うぜ。そうすりゃ心配事がひとつ減る」
「私は彼が幸せになってくれるなら、他の女性と結ばれても笑って祝福するわ。・・・私には新しい家族がいる。それだけでも充分幸せなの」
「・・・願わくば俺もその中に入れてくれな?」
「ふふ、勿論よ」
じゃあな、と笑って帰っていく団長さん。
単なる騒ぎ、で収まればいい。
『魔物大発生』だなんて起こらなければ1番良いのだから。
********************
それから数日。私は魔術研究所の書庫から引っ張り出してきた薬学書を読み、能力値回復薬の為の素材を集めていた。
薬草に、聖水。聖属性の魔石。『毒胞子』は取ってきてくれるのを待つとして。薬草はストックがあるからよし。聖属性の魔石は、御守り用のがあるからこれでよし。後は聖水なんだけど…
聖水の作り方。
『精製水』に『聖属性の魔力』を注ぐ。終了。
…いや、作り方見たらそう書いてあったのよ。神殿では巫女さん達が毎日祈りを捧げつつ、聖属性の魔力を注ぎ、聖水を作る。
私にも聖属性の魔力はあるので、精製水を瓶に入れ、その瓶を手で包み、魔力を充填すれば出来上がり。品質はイスト君に鑑定してもらい、きちんと『聖水』になっていた。
この世界で『聖水』は結構ポピュラーなアイテム。
お手軽に買えてしまうのもそうだが、消毒薬然り、身を清めるのにも使う。勿論遠出をする際に、魔物に会わないように…なんていうことにも使ったりする。
…それってホーリーボトルでは?なんて思ったが、効果はそこそこあるらしい。
怪我をした時、病気になった時、使い道は様々だ。
よし、準備は完璧。あとは作り方をおさらいしておこう…とソファで読書タイム。ついつい、うつらうつらしていたら通信魔法が飛んできた。
何かな…?と思うとキャズから『獅子王様達が戻ってきたわ、明日ギルドに来る?それとも私が研究所へ行く?』と声が届く。
ああ、無事に戻ってきたんだわ。
『獅子王』もシオンも無事に戻ってきてよかった。
私は『明日ギルドへ行くわ』と返す。今日くらいはゆっくり休養を取ってもらいたいものね?
…私が今…眠いわけでは………ぐう………。
********************
翌日。私はお昼過ぎを目処に冒険者ギルドへ。
またも御守りの納品に行くキリ君と一緒。定期的にギルドへ納品にいくそうだ。
「お使い大変ねキリ君」
「そうでもないっすよ、研究所以外の人見るのも勉強になりますし。ドロップ品の鑑定もおもしろいっすよね、これ使うと何ができるのかとか考えんのも楽しいっす」
「ギルドに就職しちゃったりして」
「あ、それはないっすね。人間関係面倒っすよあそこ」
「えっ、そうなの?」
「なんつーんすかね、実力主義って言えば聞こえはいいんすけど、腕力が物を言う世界っすよ」
キリ君はなかなか腕も立つ。
風魔法が得意だけれど、それを活かした短剣術…ナイフで戦うスタイルが得意なのだそうだ。なのでそこそこ腕っ節がある。
以前にもギルドに出入りする際、冒険者に絡まれたらしいのだが、返り討ちにしたそうだ。
「オレはいいんすけどね、ヨハルが納品に来てた時があって、そんときよく絡まれてたみたいなんすよ。ヨハルはあの通り、対応が事務的っつーか、機械的だから、ケンカになっちまって。
勿論ヨハルもあれで強いんで、勝てるんですけど『そういうくだらないことに魔法を使いたくない』ってやられるままで」
「何よそれ、ただの虐めじゃない」
「ギルドの基準て単純に『強さ』なんすよ。それは前衛職に強く見られて、後衛職の強さは度外視なところがあるんです。だからどんなに凄い魔法が使えようが、腕っ節の強い前衛職が幅利かせてて。
オレ、そーゆーの嫌なんで。だからギルドで働く気はないっす」
ギルドは実力主義。だからこそ『ランク付け』をしてわかりやすい仕組みを作っている。さすがにランクを無視する事はないけれど、同ランクの中では後衛職<前衛職の図式が成り立っていて、パーティ内でもそういう傾向があるらしい。
鑑定のアルバイトをするキリ君にも、絡んでくる冒険者の人はいるようで、そういう人の相手は適当にしているようだ。
魔術研究所はそういうところ、見た目で判断できない人が山ほどいるしね。っていうか何してるのかよくわからないし…
「あー、でもヨハル言ってたんすよ。『あんな所、命令一つで消し炭に変えてやる』って」
「危ない人の発言!」
「滅多な事でそこまで根に持つ奴じゃないんで、相当頭に来たんすかね?それからオレが変わって納品に来てます」
「・・・もう二度と行かせない方が世のためね」
「そういう所、火属性っていいっすよね。風属性だと切り刻むくらいしかできないし。いや、竜巻にすりゃ消し飛びますかね?」
「その危ない思想をやめなさいねとりあえず」
「エンジュ様が言うんすか?エンジュ様こそあの召喚獣の使うスキル、激ヤバっすよ?」
「ぜ、善処します」
私の召喚獣、ペル〇ナをモチーフにしているので、スキルもそのまんま。タナトスの『冥府の扉』スキルは『万能属性で大ダメージ…中確率で即死』となっている。
さすがにね!使いませんよ!死神コミュMAXなだけあって、使っちゃいけないスキルが多い!でも見た目が好きだからイイ!
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