異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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冒険者ギルド編 ~昇級試験~

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20190601  分かりづらい記述がありましたので少々内容を変更致しました。

─────────────────────────

その日の夜、『獅子王』から試験について通信魔法コールが飛んできた。どうやらギルドマスターさんに話して、了解を取ったらしい。

『───でな、そこまでしてもらう以上、冒険者ギルドから魔術研究所へ正式に昇級試験の試験官依頼を出させてもらう。
申請相手は所長であるゼクスレン・タロットワークだが、お前を指名させてもらうからな。明日グラストンが直接行くそうだから、頼むわ』

「・・・という事のようですよ、ゼクスさん」

「ふむ、ようやくギルドも試験に本腰を入れる気になったか。こりゃ『獅子王』の手柄じゃのう」

「あら、前から打診してはいたんですか?」

「もう10年以上前にな。魔術師全体のスキルを上げようという事で、王国主体で魔術研究所、騎士団、ギルドへ通達を出したのじゃが、ギルドのみが渋っておった。
その頃は今のギルドマスターではなくての、もっと頭の固い奴でのう」
「旦那様と激しくぶつかっていましたね」

「そんな過去があったとは知りませんでしたよ?」

「若気の至りじゃなあ」
「ギルドの建物が半壊してましたね」

「充分では」



セバスも慌てず騒がず話す。
ゼクスさんに至っては髭をさわさわしながらのんびり。
2年会わないだけでまたおじいちゃん風になってた。もうこの話し方取れないのかもね。いいんだけどね。

『獅子王』との事については何にも言われない。
まあ、ここに来た時に『好きにしていい』と言われているし、大人同士の関係に茶々を入れることはないのでしょう。



********************



翌日、魔術研究所へギルドマスターのグラストン・ノイシスが正式に会いに来た。
ゼクスさんの執務室で、私も同席。



「本日は当ギルドの昇級試験につきまして、魔術研究所に正式にお願いがあって参りました」

「・・・ようやく腰を上げたか、ギルドも。
長いこと再三要請をしていた事が実ったのう」

「返す言葉もございません」

「まあよい、試験官は当『塔の主』たるエンジュ・タロットワークを行かせよう。儂に匹敵する力の持ち主じゃ、充分すぎるじゃろ」

「レディ・タロットワーク、お手を煩わせまして申し訳ございません。感謝致します」

「私も1度ギルドの昇級試験を見てみたかったのでいい機会です。今後は私ではなく、別の魔術師が出向く事もあるでしょうが、今回は私が務めさせて頂きますね。
それで宜しいかしら?ゼクスレン」

「其方がよければ儂は構わんよ」

「では、参りましょうか。試験は今日でしたよね?」

「はい、ご案内させていただきます」



私はギルマスさんを連れて魔術研究所を後にする。
ギルドまでは歩いても行けるが、今日は馬車を用意してきたらしい。

ギルドの馬車は黒塗りで、ギルドマークががつんと入った立派な物だ。凄いなあと思っていると、ギルマスさんが『街との間の移動中に野盗に襲われないようにする為に、派手にしてるんですよ』と言っていた。
『この馬車に手を出したらギルドが相手になんぞ、コラ』って事ね?わかります。



「・・・驚きました、貴方が『獅子王』と縁を結ぶとは」

「そうかしら?いい男じゃない、放っておくのも勿体ないでしょう?」

「なるほど、奴が気に入るわけですね、レディ」

「何か?」

「貴方は奴に似ている、って事ですよ。他の女性ならそういう反応はしませんからね」

「喜んでいいのか迷うわね」

「『私』自身は喜んでますよ。奴は自分を大事にしないような所がありますから。レディのような理解者がいる事は、奴にとってプラスになります」

「まあ、女の敵だものね」

「そうですね、その通りです。男なら奴みたいな生き方にも憧れますが、あんな風にはなれない。できるなら、奴の籠にとまでは望みませんが、止まり木くらいにはなってもらえたら有難い」

「それくらいなら構わないけれど?ギルマスさんは『獅子王』に肩入れするのね。仲良しなの?」

「・・・昔、パーティを組んでいた事もありました。私は冒険者を辞めてしまいましたが、奴は今でも走り続けている。眩しい限りです」



なるほど、同じように戦ってきた仲間なのね。
色んなことを見てきたのだろうな。

でも押し付けがましくない申し出でもあるし、特にYESともNoとも言わないことにした。この先どうなるかなんてわからないしね。

冒険者ギルドの前にガツンと横付け。
おい…これは…目立つよ…?
馬車の前にはキャズがお迎えに来てくれていた。馬車のドアを開けて待っていてくれる。



「出迎えご苦労キャズくん」

「はっ、お待ちしておりました!・・・なんてね。
中にお部屋をご用意しております。どうぞこちらへ」

「キャズは受けないの?試験」

「私はまだ先ね。もう少し実地経験が欲しいわ、じゃないとB級にはなれないわよ」

「実地経験?って何するの?」

「クエストの回数だとか、護衛任務クリアが必須だとか、ハードルはそれぞれあるのよ。
護衛任務はクリアしているから、後はクエストの回数ね。私は受付が主だから、そこまで回数こなせてないのよ」

「なるほどね、実績が必要なのね」



意外ときちんとしているんだなあ。そりゃ当たり前か、彼等はランクが全てだものね。ひとつランクが上がるだけで、受けられるクエストの質も違うし、待遇も違うはず。その代わりそれだけの義務や制約もついて回るのよね。

私はちょっと他の仕事があるからまたね、と階段まで案内して別れる。そーっとカウンターを見ていれば、キャズが受付に戻った途端、寄ってきた1人の冒険者がいる。
年齢も同程度、なかなか整った顔立ちのイケメンだ。見た感じからして剣士さん?どこかのパーティのリーダーかしら。

私がじーっとキャズを観察している後ろから、腰に手が回る。



「何やってんだお前」

「アルマ、今いいところだから邪魔したら閉じ込めるからね?」

「・・・いいところ?」



と、『獅子王』はキャズの方を確認。
なるほどな、と呟いて私をそのまま抱え上げて階段を登る。



「ちょっとー」

「ちゃんと説明してやるから、部屋に行こうぜ。
昇級試験の説明もするからよ、な?」

「わかったから、降ろして」

「こっちの方が早いから大人しくしてな」



猫の子のように運ばれる私。
誰も見てないからいいけど、悲しい絵よ?これ。

部屋に着くと降ろされてソファへ。
ペットボトルのような入れ物を渡された。蓋はちゃんと『獅子王』が開けてから渡してくれる。



「ほらよ」

「ありがとう。さっきの彼は知り合い?」

「あ?シールケに言い寄ってた奴か?そうだな、今日も試験を受ける奴だぜ?最近伸びてきてるな、ジョシュア・カーバイドだ」

「へえ・・・厳しくしてもいいのかしら?」

「おいおい」

「私の『騎士』に手を出そうっていうんだから、私を倒すくらいの」「無理だろ、んな事はよ」



もうだんだん被せてくるようになってきた『獅子王』。
そっかー?無理かー?でもキャズもキレたら強いからな…
キャズがいいなら彼でもいいけどなー

昇級試験については、試験を受けるギルド員の一覧を見せてくれた。結構人数が多い…



「思ったより・・・いるのね」

「今回A級の昇級をここでやるからな。近隣のギルドからも来ていやがる。ったく上手く使われたもんだぜ」

「そうか、『獅子王』がここにいるから試験官としてちょうど良かったわけね?」

「そーゆーこった。ギルド本部だと俺の他にもS級はいるからそいつがやるんだけどな。俺は滅多にやらねえんだ、面倒だし」

「手合わせ、でしょう?」

「ただの手合わせならこんなに嫌がってねえよ。そいつに合わせてある程度手加減しねえといけねえだろ?カイナスみてえにこっちも遠慮せずにやりあえる相手ならいいけどよ」

「10人・・・ね。私もしなきゃダメなの?」

「いや、この中に3人魔術師がいる。そいつの試験を見てくれ。
他にもB級昇格に5人、C級は2人だな」

「前衛職はその倍、ね」



剣士、斥候スカウト狩人レンジャー、格闘家とそれぞれ前衛職は職業ジョブが豊富だ。
この人達の実技を、全て『獅子王』が相手するそうだ。

今日はもっと下級ランクのDからE級の試験もあるが、そっちはキャズが担当するらしい。
キャズ自身がC級冒険者なので、C級昇格試験までの審査しかできない。

基本的に、冒険者ギルドではギルド職員が試験官を担当する。

ギルド職員は皆が冒険者の資格を持った人間だ。キャズのようにギルド職員になってから冒険者のランクを上げていく人もいれば、昔冒険者をやっていた人が引退し、ギルド職員になったりする。

ギルド職員になる、という事は通常の冒険者よりも『何かの適性』を見出された人しかなれないのだそうだ。

試験官をするにあたっては、ギルド職員は自分のランクと同等ランクの試験までしか担当できない。
そりゃ当たり前よね、B級冒険者の資格しかないギルド職員がA級になる昇格試験の試験官なんてできないし。

ギルド職員で対応できない時は、キャリアのある冒険者に試験官をお願いする事もあるそうだ。今回のアルマがそれに当たる。彼はS級冒険者のため、A級だけでなくS級の試験も担当可能だ。

今日も半分は、元A級冒険者のグラストンさんが見る。
が、A級昇格者については『獅子王』がメイン担当だ。

今回の試験を受ける人は幸運じゃない?
だって『獅子王』が相手するんだものね。自分の実力が現在最高ランクの冒険者と比べてどの程度なのかわかるし。
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