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冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~
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しおりを挟む多岐型迷路へ突入って3日余り。さほど急いで攻略はしていない。何か想定外の事があった場合、単独で攻略している身とあっては無理が効かねえ。
事前に王都ギルドで収集したデータを利用し、休憩できるポイントを使って下へ、下へと進む。
途中、39階層で悪魔茸に遭遇。複数の狼型の魔物を連れてきた。しかし危惧していたような屍鬼化していない個体だったのでなんなく討伐、
…残念ながら『毒胞子』のドロップはなかった。出てきたらエンジュに土産になったかもな?
「・・・さて、あれが迷宮主の部屋か。ちょっと拝見するとするかね」
迷宮主の部屋、というのは基本的に普通とは違う造りになっている。
大扉があり、それを開け放たなければ交戦開始、とはならないものだ。そこが外界の魔物との差だな。
大扉を薄く開けば、ムッと熱気が立ち込める。
そこは紛れもなく、溶岩がボコボコと湧き出る沼がそこかしこに存在していた。
「・・・なるほど、こりゃ難儀だな」
これを無効化するには、魔法薬の凍結瓶が必須となるだろう。しかしあれも総じて手に入りにくい品だ。北方の国々のギルドならばあるだろうが、ここ王都近郊は基本的に温暖だ。
「凍結瓶を作るにゃ、確か『氷の華』が必要だったか?ありゃ北の凍土じゃなきゃ手に入んねえよな・・・」
アゼルのパーティももしかしたら『氷の華』を採取しに行ってんのかもな。または『水』属性で上級魔法を使える術者か?
俺の脳内にはカイナスが浮かぶ。確か奴さんも『水』属性だったな?上級魔法が使えるはずだが、上手いこと乗ってくれるかどうかだな。
…ギルド経由で凍結瓶を仕入れた方が早いか、それとも騎士団に援護依頼を出すか。
何にせよ、俺1人じゃどうにもならんな。
…『火』属性を無効化する魔法で打ち消すとしても、援護要員は欲しい。
隙間から熱気に耐えつつ、中を探っていると、奥からズシン…と響く音。たちのぼる熱気、爆ぜる溶岩の奥に薄ら見える黒い体躯。
「・・・火炎蜥蜴、かよ」
確かにこんな所で生息可能、とすればコイツ以外に適役はいないかもしれない。火炎蜥蜴は単独では生息しない。最低でも3匹はいるだろう。
「・・・くそ、そこまでは見えねえか。最低でも3匹、最大でもこの広さなら5匹か?面倒に拍車がかかるな、チキショウ」
火炎蜥蜴の厄介な所は、アイツらは溶岩の中でも生息可能という所だ。
アレの進化版が火炎竜という説もある。つまり、放置すると竜種への進化もありえる、という事になる。
蜥蜴種が竜種に進化など考えたくもないのだが、外界ではそれが確認された事はなくても、迷宮内では数度の報告例もある。
S級冒険者にもなれば、竜種の討伐依頼もなくはない。俺も竜種殲滅者の称号を持ってはいる。が、それは俺1人の功績ではなく、他にも多数の協力者がいてこその物だ。
竜種も齢を重ねれば重ねるだけ強さは増す。
なので可能ならば進化したて、または産まれたての状態である方が討伐対象としては望ましいのだが。
「まだ進化すると決まった訳じゃねえしな。1度戻るとするか」
そっと大扉から離れる。
と、近くの小部屋…休憩ポイントである部屋から何やらけたたましく喚く声が。
…ここまで到達してきた冒険者がいるってのか?
********************
「あ、あいたたたたた」
「ちょっと!何してくれてんのよあんたは!!!」
「ちょ、待ってキャズさん!今回は私じゃないから!」
「あんたがやらなかったら誰がやるってのよ!!!」
「私でもキャズでもなきゃディーナでしょうが!!!」
「ディーナがそんな事する訳ないでしょ!吐きなさい!早く吐きなさい!今ならひっぱたくくらいで許すから!」
ガクガクガク、とキャズに首を締められながら揺すられる私。ほ、ホントに私じゃないのにー!!!
と、ディーナが申し訳なさそうにキャズへ呟く。
「・・・すまない、私だ」
「えっ、何ディーナ!?今忙しいから!」
「いや違うんだキャズ、罠に引っかかったのは私なんだ、エンジュじゃない」
「えっ?・・・いいのよディーナ、この子を庇わなくても」
「違うんだ、本当に私なんだ。・・・手をついた時に何かガコッと押す感覚が」
「・・・本当に?」
「だから言ったじゃない!私じゃないってー!!!」
「しょうがないでしょ!これまでのあんたの所業を考えたら!問題がある時は大抵あんたよ!」
「・・・本当に・・・すまない」
「まあやったものは仕方ないから!気にしないでディーナ!」
「あんたが言うと物凄く説得力あるわね・・・そうね、仕方ないわ。それよりどこかしらここ。同じ階層?」
「だといいんだが。変な所へ飛ばされていないといいが」
「・・・何やってんだお前ら」
「「「ぎゃっ」」」
声のした方をおそるおそる見ると、そこには呆れた顔の『獅子王』が。…あれ?なんでそこに?
「・・・アルマ?」
「おう。数日ぶりか?何やってんだこんな所に。どうやって来たんだ?」
「えっ、『獅子王』様・・・ということは」
「まずい所に来てないか?」
こんな所にって言った…?
まさか、ここって…最下層ではないですか?違いますよね?さすがにね?途中のどこかだよね?
キャズが代表して状況説明。しかし私の考えは甘く、やはりここは最下層である、と『獅子王』は言う。
「えっ、あそこ何階だっけ?」
「確か、8階層だったはずよ?そうよね?」
「ああ、8階層だった。まさかあんな隠し部屋から最下層に飛ぶのか?これは危ないんじゃないか?」
「お前達、8階層から来たのか?」
「ええ、そうなの。隠し部屋?みたいな所があって。休憩できるポイントかな?と思って調べてたら・・・」
「申し訳ありませんエンジュ様、私の不注意でこのような事に」
「いやいや、不幸中の幸いよ。だって『獅子王』が最下層にいる時に来たんだもの。これ、私達だけで飛んでしまってたら、帰れないんじゃないの?」
「確かにそうだろうな。ここは50階層目だ、戻るための転移方陣は40階層まで戻らないとねえぞ。
その部屋は封鎖しねえと危ねえな。急いで戻るか」
「申し訳ありません『獅子王』様。私達だけではエンジュ様を無事に出口までお守りする事が難しいと思われます。護衛をして頂けませんでしょうか」
「私からもお願いします。できるだけの露払いは致しますので」
キャズとディーナが『獅子王』の前に膝を付いて乞う。
『獅子王』はニヤッと笑ってあっさり応じた。
「まあ構わねえよ。戻るだけだからな、大して負担にもならねえ。ついでだからお前等2人のレベル上げにも貢献してやらあ」
「えっ、いいの?」
「構わねえよ、1人も飽きてきたからな。俺1人でも3人護衛しながら戻る事もできるが、レベル上げしながらの方がいいだろ。
シールケに・・・そっちのあんたもどうだ」
「願ってもない事です。よろしくお願いします、『獅子王』殿。ディーナ・クロフトと申します。好きにお呼びください」
「ならクロフト、だな。名前を呼ぶのはあんたのいい人に取っとくぜ」
「上手いことを言いますね。ご配慮痛み入ります」
ふと、キャズを見ると少し頬が上気していた。
そういえば、『獅子王』を男として見るのは止めたとはいえ、尊敬する冒険者には変わりないはず。
いつか夢見た、『獅子王に肩を並べて冒険をする』というキャズの目標に少し近づけたのでは?
貴重な経験になるだろうな、2人とも。
「ありがとう、アルマ」
「ん?何がだ」
「護衛のこと。あと、あの2人を鍛えてくれるっていう話も」
「ああ、構わねえよ。将来が楽しみな卵を育てんのは先達者としての役目だろ?それにシールケは鍛えようによっちゃAに届く。俺が手取り腰取り教えてはやれねえが、基本を教えてやる事は出来るからな。後はあいつ本人の頑張り次第か?
それにクロフトもいい腕してやがる、伸びるぞ?」
「・・・えっと、手取り足取りじゃないの?」
「ああそうだったな。冒険者の腕を上げてはやれるが、アッチの腕は上げてやれねえしな」
「アルマってブレないわよね」
「そうか?・・・とりあえず、手付けとして報酬は貰っとくぜ」
「え?・・・っん、」
ぐい、と引き寄せられてキス。
舌が絡み、吸い付かれる。こんな時なのにジン、と下腹部が痺れるかのようだ。
キャズとディーナは先を歩いていて気付いていない。
唇を離したアルマは首筋へと吸い付き、さらに痕を残す。
「・・・んじゃ、行くとするか?」
「油断も隙もないわね、全く」
「続きは戻ってからな?・・・その気があれば、だがよ」
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