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冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~
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しおりを挟む転移してきてしまった小部屋。
出る前にも確認したが、こちらからは戻れずに一通である事が分かった。とんでもない罠じゃない?これ。
部屋を出ると、奥の方に大扉が。
キャズもディーナも真剣な顔で見ている。
「何してるの、2人とも」
「あれが、迷宮主の部屋、ってわけね」
「異様な空気、だな」
「えっそう?・・・ちょっと暑い?くらい?」
「あんたホントに鈍いわね」
「・・・いや、うん、エンジュはそれでいいさ」
「見てみるか?中。開け放ったりしなきゃ見れるぞ」
えっ?そういうものなの?
ペル○ナを思い返せば…いや勝手に奴等はズカズカ入っていっちゃうしなあ?クトゥルフTRPGなら入る前に聞き耳振れるか?
「だ、大丈夫なのよね?」
「まあな、その代わり少しだけだぞ?」
『獅子王』が先に行き、そっと大扉をずらして開ける。
そこからムワッとした空気。サウナに入りに来たみたいだ。
「うわ、すご」
「っ、何よこれ、すごい」
「ああ・・・でも耐えられない事はないな」
「マジか?お前割と凄いなクロフト。普通なら1分も持たないと思うぞ」
「おおーボコボコ言ってる」
「・・・ていうか、これってあんたの結界のおかげよね?」
「・・・私も今思っていた」
「え?あ、そうかしら」
そういえば、迷宮に入った後、私は2人に防御魔法をかけていた。
万能属性強化、と名付けた魔法。なんていうの?ホワイトウインドみたいな魔法ってできないかな?とか思ってあれこれしてたらできました。
しかし効果はかなり良いですが、効果時間は短めなのでこまめに掛け直さないといけない感じ。
何かの本で『マルチスクロール』として詠唱しなくても、魔法を閉じ込めたスクロール…巻物みたいな物に全能力値強化魔法を入れていた。
そんなものができたら使い勝手よさそう、という思い付きから始めたのだけどね。
しかしすごいわ、溶岩ステージ。
頭の中では某配管工の兄弟が冒険してるようなステージをイメージしていたけど。ほらあれも火の玉ボヒュって出てきたりするじゃない?タイミング良くジャンプしても2段階で出てくるやつに当たって残機減らしてたわ…
ハテナBOXからスター出ても取れずに追いかけて、カメにぶつかるわ、落とし穴に落ちるわで散々だったわ、あのゲーム。
あれって本当になんとかなるもんなの?
なんか黒い体躯の生き物いますけど?
「えっ、ねえ、これってなんとかなるもんなの?」
「そうだな、凍結瓶が数本あれば何とかなるんじゃねえか?」
「凍結瓶?」
「氷結魔法を封じてる瓶だ。割れば周りを凍らせる。それであの溶岩を無効化するのが通常の攻略法じゃねえか?
後は『水』属性の上級魔法ならなんとか相殺できるかもな」
「『水』属性でいけるもんなの?」
「確かに、凍結瓶なら対応可能でしょうね。けれどこれを沈静化する為にはかなりの本数が必要では」
「『水』属性の上級魔法なら、氷結魔法もあるんですよエンジュ様」
「よく知ってるな、クロフト。シールケの答えも正解だな。10本単位で必要になるかもな。ギルド経由で取寄せは可能か?」
「難しいかもしれませんね、ですがなりふり構ってはいられないと思いますので、帰ったら手配します」
ああなるほど、『氷』属性ってないもんね。確かに『水』属性なら使いこなせるんだろうな。
『凍結棺』ならいけそう?私的には『絶対零度』あたりを使いたいなあとか。
…『絶対零度』は某ゲームの魔法を思い出して詠唱をしてみたらできそうだった魔法です。
あの某戦乙女RPGはものすごく好きで、大魔法の詠唱なんかも何度も聞いて覚えるくらいだった…マニアな私…
で、攻撃魔法が使えるようになり、セバスに促されて詠唱してみた所、全てにおいて途中で『もういいですエンジュ様、そこで止めてください』と止められました。
そして『この魔法はかなり強いので使い所に気をつけてください』と言われました。確かにね?あのゲームでも周り巻き込み型な大魔法のエフェクトだったしね?でも好きなんだよなー『聖光落星』とか使えそうだし?
私ひとりのぞき込みながらウムムと考えていれば、後ろではキャズと『獅子王』が攻略について考察中。
ディーナはその話を聞きながら、私に注意を向けていた。
「『獅子王』様、パーティを組みますか?」
「そうだな、アレを討伐するならパーティ組まねえと厳しいな。俺以外にもう1人前衛、後はあの場を相殺か無効化できそうな魔術師に、援護要員として中後衛がいりゃあいいかもな」
「前衛に中範囲から後衛を務める職業」
「それと、相殺できる魔術師?」
「・・・気の所為か?お前等ちょうど適してんな。
おいエンジュ?お前、回復魔法も使えるのか」
「え?アルマ怪我でもしてるの?」
「・・・バカ」
「・・・あれでは無理だな」
「なるほど?お前、補助や防御魔法どころか、回復魔法も使えるな?」
「はっ!?騙した!?」
「騙してねえよ、まあお前達に無理させるつもりはねえ。んじゃ行くぞ、もういいだろ?」
「あっ、うん」
立ち上がろうとした私。皆は先にある階段に向かって歩いていく。…が、フラグは立っているものである。
ふらり、とよろけて私は大扉の向こうへ数歩、たたらを踏んで入ってしまったのだ。
ムワッ、と体を包む熱気。
まるで服を着たままサウナに入ったみたい。
「うわ、暑い・・・ホットヨガも形無し・・・って、げ」
足元は岩肌が剥き出しの地面。
まるで映画のワンシーンのようだ。周りにボコリ、ボコリと泡立つ溶岩の沼。それでも私自身にダメージは来ない。私の体の周りをキラキラと燐光が包み、守られている。万能属性強化、使える。
うわわわわ、まずい。魔物が出る前に…と思った瞬間。
後ろに、何かが、いる。
私の脳細胞が一気に活動した。
まずいまずいまずい、これすごくまずい!
どうする私、どうする!?
「っ、女は度胸!って、むりーーーーーー!!!!」
くるり、と振り返ってみた私。
ホラー映画とかで、こういうシーンあるじゃない?
後ろに怖いのいるってわかってんのに、なんで振り向くの?逃げればよくない?見る必要ってある?
そう思っていました、私も。だけどね!実際!振り向いて確認せずにはいられないのよ!見ないのも怖いの!
でもね!今は振り返った事を後悔しています!
「GRRRRRRR」
「えっ、うわっ、蜥蜴っ!?デカッ!!!」
ちょっとこれSIZいくつよ!?
13はあるんじゃないですか!?人間大ですよね!?
数メートル先、黒と臙脂の体を持ったBIGサイズの蜥蜴!
チロチロ、と舌が出るが火花を散らす。あれどうなってんの!口の中火傷しないの!?
じり、じり、と後ずさる私。
脳細胞がフル回転する中、セバスの『自重してくださいね』という言葉が浮かぶ。いやこれ使わないと!いつ使うの!今でしょ!
「汝、美の祝福賜らば、我その至宝、紫苑の鎖に繋ぎ止めん。『絶対零度』!!!」
「gyuoooooo!!!!」
ありがとうございます、私の灰色の脳細胞さん。
よくぞゲームの魔法の詠唱を丸ごと覚えていてくれました。
その結果、ものすごく助かりました。…周り一面、凍結してますが。
「やばあwww逃げないとこれ怒られるやつうwww」
周りがカチンコチン。溶岩ステージどこいった?
大きな蜥蜴さんも氷の彫像と化しています。
…これ、バレたらやばくなーい?
ものすごく怖かったせいで、今脳内アドレナリンが噴出しています。だって口開くと草生えちゃうもの。
そーっと扉を開けて出る。最後に確認しても、やはり氷の世界となっていました。これって放置したら復活するのかな?するよね?してください。
外に出ても、誰もいない。
まだ私がいないことに気づかれていませんね?
大扉をしっかり閉め、ダッシュで階段へ。角を曲がった瞬間、ばふん、と硬いものにぶつかった。鼻!鼻が痛い!
「っと、お前何してんだ?遅いぞ」
「あ、アルマ、」
「ん?何だ?冷えてんな。寒かったのか?」
ふわり、と抱きしめてくれる。背中を擦り、温めようとしてくれている。
まさかサウナからの冷凍庫にいました、とは言えない。
「だ、大丈夫。さっきの部屋に忘れ物をした気がして、もう一度見に行ってて。ごめんなさいね、戻ってきてくれたの?」
「後ろ向いたらいないからよ。2人は階段の上だ」
「そう、じゃあ行きましょ!」
「寒くねえのか?大丈夫か」
「大丈夫よ、早めに戻らないと誰か来ちゃったら大変だし」
「確かにな。40階層から戻ろうぜ」
よし!『獅子王』にはバレてません!
はーやれやれ、やっぱりあの大魔法シリーズ、迂闊に打つと危ないわね。気をつけようっと。
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