55 / 197
冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~
54
しおりを挟む「おい、お前の仲間はいたか?」
「この辺りのはずだ、遠くには行かないはずだから」
「ラビ、周囲の警戒頼む」
「ああ、任せておいてくれ。・・・それより、あまり長居はしない方が良さそうだ」
採取隊、残り2人を捜索しながら撤退準備。
34階層へと戻る階段の場所はわかっている。早くそちらへ移動したいが、まだ生きているだろう残2人を回収する必要がある。…これ以上犠牲を増やすのはゴメンだ。
途中、1人を回収した。あと1人が見つからない。先に上階へと抜ける可能性はあるだろうか。
「ゼノ、時間切れだ。あいつがこちらに近づき出してる」
「・・・仕方ねえな、撤退する」
「そんな!何があったか知りませんが、マイクを置いていくなんて!おい、お前もなんとか言えよ」
「・・・」
「教えてやれ、誰が近付いてるのか」
俺の言葉に、ボソボソと仲間に真実を告げる。
もう1人も事情は知っているのか、分かりやすいほど顔色を無くす。
「そんな、まさか、ジョイドが」
「見たいなら見てみろよ。俺はもう見たくない」
「悠長な事を言っている暇はない。あいつ1人ならまだしも、他を呼ばれたら為す術はない。ラビ、行けるか」
「大丈夫、階段はすぐだ。早く行ってくれ、僕は殿を引き受けるから」
「いいのか」
「イザとなったら抜かしてでも逃げるよ」
「わかった、おい付いてこい。急ぐぞ」
*******************
32階層まで上がった。
だが、その先の階段の前に、奴らが、いる。
紫色のキノコ。その周囲を狼型の魔物が2体。そして、ふらりふらりと揺れる革鎧の男が1人と、採取隊の女が1人。
魔物も、人も。どう見ても生きてはいない。
「万事休す、か・・・」
「この人達だけでも逃がせるかな?そうすればこっちも動けるし、一気に引き離せる」
「アレをこっちに寄せて、先に逃がして挟み打つか」
「それしかないね」
「逃がして、くれるのか」
「いいのか、それで」
「むしろ引き止めてアンタらが殺られでもしたら、向こうに仲間が増えちまうだろ。なら逃がした方がこっちにとってはいい。魔物避けを忘れるなよ。どの程度効くかわからんが」
2人を逃がすのは俺が、引き寄せるのをラビが。
さっきから囮ばかりやっているラビ。…何か考えがあるんだろうが、すこし犠牲的になりすぎやしないか?
とはいえ、ここで追及する時間はない。
もし今後機会があったら問い質す事にするか。
ラビが先に弓で攻撃。奴らを引き付ける。
その隙に階段へ走り、採取隊の2人を上がらせる。
「行け!もし騎士に会ったら助けを求めろ!」
「すまない、先に行く!」
「もし騎士に会ったら伝える!無事で!」
「さて、こっちもやるか。ラビだけに任せる訳にもいかねえな」
振り返れば、階段へ逃げたこちらに気付いてキノコと生ける屍の2人がこちらへ来る。
狼型の魔物はラビの方にじゃれついているようだ。
「・・・参ったなこりゃ。あんなモンと殺り合うにゃ命がいくつあっても足りねえよ」
エンジュからもらった聖水を剣にかける。残った雫を奴らの方へ振りかければ、歩みが止まる。…お?効き目、ありそうだな。さすがはタロットワークだよ。
キノコを注視しつつ、動きの鈍い2人を相手に。さすがに冒険者だったものは斧を振り回してくる。もう1人は採取隊だったからなのか、ふらりふらりと動くだけ。
…それでもかすり傷でももらおうものなら、どうなるかわからない。
隙を見て、女の方は首を落とせば動かなくなる、が。さすがに後味が悪い。もう1人も仕留めたいが、キノコが邪魔をする。
どれだけ睨み合っていたのか、ふいにキノコが凍りつく。
「なんだあ!?」
「っ、引け!」
掛けられた声を認識した瞬間、頭で考えるよりも先に体が動いた。従うべきだ、と直感的に判断。
その次の瞬間、衝撃波と呼ぶべき魔法刃が生ける屍へと飛んだ。はね飛ばされた奴に近づき、首を落とす。
ちゃりん、と冒険者証が転がった。
「お見事」
「援護があったからだ、礼を言う」
「いや、君の剣技が優れていたからだよ。瞬時に引いてくれたしね。オルガ、悪魔茸を。グランツは奥にいる人を助けに行ってくれ」
「了解っ」
「了解」
俺の横をスっと通り過ぎていく後姿。
ああ、近衛騎士だな、あいつらも助かったか。ラビも助かるだろう。
どっと疲れが出る。なんとか堪え、助けてくれた声の主を確認。
…おい、嘘だろ。近衛騎士副団長自ら?
「君は・・・冒険者、じゃないね?見覚えがある」
「はっ、王国騎士団第3中隊第2小隊小隊長、ケリー・クーアンです。現在はレディ・タロットワークの要請に従い、任務中です」
「なるほど。君も『タロットワークの騎士』か。エンジュ様は一緒ではないのかい?女性2人と中に入っていたけれど」
「私は別働隊です」
「なるほど、君は最下層から来たわけじゃない、か。こちらの火種を消しに来たのかな」
「ここまで来る間に、遭遇しましたか」
「ああ。・・・冒険者でもない人を2体、ね。見たところ、ここにも2体か。あと何人いるか知っているかい?」
「先程2人逃がしましたが、それとは別に2人ですか?」
「ああうん、そうだね、別だよ。彼等と会ったから急行したんだ。彼等については他の騎士が保護し、話を聞いている。でもここに君達がいる、という事しか話さなくてね」
「・・・そうですか。彼等の話を全てだとするとあと2体います。上でないとすると、下にいる恐れが」
「その様だね。まあ下からは『獅子王』がエンジュ様と上がってくるだろうから、話は聞けるかもしれないね。・・・と、話をすれば、ほら」
********************
「あん?ありゃカイナスか?」
すとん、と私を降ろす『獅子王』。
併走して来たキャズとディーナも少し辛そうだ。
回復持続飴を差し出し、食べさせる。私は魔力回復持続飴を。
さっきまで護法剣出てたから割りと魔力が減ってる。…放っておけば回復するけど、一応ね。
『獅子王』にも食べさせていると、シオンにケリーが近付いて来た。ケリーも消耗した顔。
「ご苦労様、ケリー。大丈夫?」
「さすがに疲れましたね、悪魔茸は覚悟してましたが、まさか生ける屍とは思ってませんでしたよ」
「そちらもご苦労様、副長さん。隠し部屋の事を聞いて入ってきてくれたのかしら」
少し先からグランツさんがもう1人伴って歩いてくる。
シオンの後ろには、さっき会ったリューゼさんも。
きっと報告して、3人で入って来てくれたんだろうな。
「はい、そうです。隠し部屋の方はこちらで把握し、封鎖しました。破壊とまでは行きませんが、入らないようにと魔法で鍵してきました。
その後、入り口ホールでこちらから逃げてきた人がいましたので。最速で降りてきました」
「かなり、早かったのではない?」
「そうですね、討伐よりも先へ進むことを重視してきましたので」
「おいカイナス、あそこに転がってるので全部か?」
「いや話によるともう1体─────」
その時、上からがさり、と音がした。
私の真横、そこにザシャ、と何かが降りる。
はい!来ました!見ちゃいけないけど見ないと始まらないやつPart2!!!
Part1?そりゃさっきの蜥蜴さんですよ!
「っ!」
「エンジュ様!」
「いやぁっ!」
「っ!!!」
「っ、くそ!」
全員こっち見てるーーー!!!
ヤバいやついるーーー!!!
横を見た瞬間、目の前に腕が振り上がり──────
「Gwyoooooo!!!」
「えっ?あれ?」
ヤバい、やられ─────と思った私の視界に、黒い刃が幾つも突き立てられた体が目に入る。
私の護法剣の黒バージョンの様なものが、幾本も現れ、生きた屍を中空へと縫い止めていた。
「・・・うわ、エグっ」
「エンジュ、エンジュ様!?無事なの!?っていうか何したのよあんた!」
「違う違う違う私じゃないって!」
「エンジュ様、その腕輪、光ってませんか?」
またも問い詰めるキャズ。しかしこれは私じゃない。そんな時間も考えもなかったし。否定していれば、ディーナが腕輪が光っていると指摘してきた。
左腕。付けていた魔法具が光っている。
…あ、なるほど、これか。
前に付けていたものとは別の物で、今回はセバスが『渾身の作です』と渡してきたものだ。
また危ないものを持たせて…これ人間相手でもこんな感じに迎撃するの?過剰防衛じゃないの?
空に縫い止められた生ける屍は、シオンが首を落として焼いている。カラリ、と足元に冒険者証が転がる。
…冒険者さん、だったか。これはキャズに渡すべきかな…
552
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる