異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~

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落ちている冒険者証タグを拾い上げる。
血や泥で汚れているが、間違いなく冒険者証タグだ。
近寄ってきたキャズに渡すと、汚れを指で擦り取って確認している。



「・・・間違いなく、ウチのギルドの登録者ですね」

「どこのギルド所属、ってわかるの?」

「はい、名前とギルド所属場所だけは読み取り機を通さずとも確認できます。・・・こんな事になっているなんて」

「取り込み中申し訳ありません。こちらもお受け取り頂けますか」



そっと話しかけてきたのはリューゼさん。
キャズはお礼を言って受け取る。

その様子を見ながら、『獅子王』がシオンに話を向ける。



「・・・カイナス、余力はあるか」

「ああ、問題ないよ。・・・もしかして、最下層かい?」

「頼めるか」

「さすがにこの事態は近衛騎士団としても看過できない。こちらとしても完全攻略し、消滅させるか縮小を希望する。
・・・エンジュ様、よろしいですか?」

「なぜ私に聞くの?」

転移方陣ポータルの調査ができなくなります」

「この迷宮ダンジョンがなくなるのだから、その調査は無用になるわ。それに大体の仕組みはわかっているから、構わないけど。調査データはある程度揃ったのでしょう?」

「ありがとうございます。オルガ、ジェイク、行けるか?」

「はい、もちろん」
「こちらも大丈夫です」

「・・・欲を言えば、エンジュにも付いてきて欲しい所だがな。さすがに迷宮主ダンジョンボスとやり合うのに連れて行けねえな」

「回復は俺もジェイクもいるからなんとかなるさ」

「カイナス、凍結棺フリーズコフィン使えるか」

「ん?ああ、大丈夫だ。オルガ、君、確か氷結嵐ブリザード使えたね?」

「はい、いけますよ」



どうやらこのまま1度入口へ戻り、隠し部屋から最下層に飛ぶつもりのようだ。確かに知ってればあれって都合のいいショートカットよね。
しかし私の脳内には、さっきのカチンコチンな状態が蘇る。やば、あれってもう溶けてる…わよね?



「あんたどうしたのよ。ソワソワして」

「えーっと・・・後で話す」

「やらかしたわね、何か」
「今度はどんな楽しいことをしたんだ?エンジュ」



キャズとディーナの問いかけにはすぐに答えず、全員で1度入口へと帰還。慌ただしく『獅子王』とシオン達が出ていった。

待機中の騎士さん達から、暖かいお茶を渡されてひと息。
私の周りにはキャズ、ディーナ、ケリー。ケリーと一緒に助けられた人は消耗が激しく、脇で寝転んでいた。



「で?何したのよ」

「いや、さっき、最下層でこっそりウォッチングしたじゃない?あの後、よろけて中に入っちゃって」

「えっ!?」
「大丈夫だったのか!?」
「は?それって迷宮主ダンジョンボスの部屋に入っちまったって事か」

「なんか黒と臙脂色のでっかい蜥蜴がいて」

「・・・あんたそれ、火炎蜥蜴フレアリザードじゃないの」
「1匹だったのか?」
「あれって複数で出ないか?」

「とっさに魔法使ったら部屋中凍りついちゃって」

「・・・」
「・・・」
「・・・待て、それどうしたんだ」

「えっ?逃げたけど」

「異変って・・・そのせいじゃないわよね?」
「いや、・・・どうなんだ?」
「倒してこなかったのか?」

「いやあんなでっかい氷像どうやって壊すの?すんごい寒かったし、とりあえずバレる前に逃げようかと。そのうち溶けるかな?って思って」



すると、三人三様に頭を抱えた。
最初に立ち直ったのはキャズ。『もう考えても無駄だから、ギルドに連絡してくるわ』と外へ。
門番の人いたし、ギルドに報告を頼むのかもしれない。

ケリーは手早く一連の流れを話し、一緒に助けられた人の様子を見に行った。ディーナも他の保護された人に話を聞きに行く、と。

私は1人お茶を飲んでいると、スっとオリアナが出てくる。



「お疲れ様でございました」

「いつからいたの?」

「途中からでございます。さすがに『獅子王』がいる時は控えておりました」

「知り合いなのかしら?」

「そういう訳ではありませんが。腕の方は確かです。今回はセバスチャン様がお造りになった魔法具ガードブレスもありましたので。副団長様が突入する際に乗じて入らせて頂きました」

「最下層は見てきた?」

「はい、まだ凍ったままでした」

「・・・帰った方が良さそうね」

「そうした方がよろしいかと。キャズ様に言伝を頼みます。外に迎えを用意しております、エンジュ様はお先に」



オリアナは一礼して私を案内する。
ディーナが寄ってきたので、タロットワーク邸に戻る事、保護された人達から話を聞いておいてもらいたい事を頼む。



「わかった、どうやらケリーがかなり聞いているみたいだから、引き続き調べておく。ゆっくり休んでくれ、私の主」

「ディーナもお疲れ様。頼りになって安心したわ」

「その言葉だけで疲れが取れそうだ。では」



騎士礼で見送ってくれる。
近くの近衛騎士さんも同じように礼をして見送ってくれた。

よしよし、とりあえずオリアナの言う通り撤退しましょう…



*******************



「・・・なんだ、こりゃ」

「これは・・・凄いな。出る幕ないね」

「どうやったらこんな風に?」
凍結棺フリーズコフィン?しかしこんな広範囲に渡って?」



最下層へショートカットし、迷宮主ダンジョンボスの部屋へ。警戒しつつ扉を開けると、そこから漏れてきたのは熱気ではなく、冷気。

…おかしい。報告では溶岩マグマが湧いているとの情報じゃなかったのか?
異変に気づいたレオニードが先に入る。続いて入れば、そこは見事な氷の部屋と化していた。

数メートル先に、火炎蜥蜴フレアリザードと思しき氷像。その背後にも2匹いた。いずれも凍りついている。

奥まで探索すれば、最奥の沼は凍りついていたが、氷は割れて穴が空いている。その近くに動きの鈍い火炎蜥蜴フレアリザードがさらに2匹。
…なんだか申し訳なくなりはするが、討伐しないと終わらないので倒す。凍りついていた3体はそれぞれレオニードや部下達が壊していた。



「どうなっているのやら」

「・・・なるほどな、どうりで冷えていた訳だ」

「何か思い当たる事でも?レオニード」

真似ができるのが、他にいるのか?」



脳裏に浮かぶ、1人の女性。
まさか、エンジュ様?

俺の頭の中を覗いたかのように、レオニードが苦笑。



「最下層でこの中を覗き見した後な、上層に向かう途中で気付いたが、少しの間見失った。本人を探して降りてくれば、階段の下にいてな。体がやけにんだ。
本人は『忘れ物をしたから小部屋を見に行っていた』と言ってたがな。恐らく中に入っちまって、魔法を放ったってとこだろ」

「・・・信じ難い、が。これだものな」

「あの女は底がねえぞ?さっきもお前んとこの団長の魔法をいとも容易く操ってやがった。しかも『聖』属性まで持っていやがる。ここを上がってくる時は重宝したが、ありゃ何もんだ?
タロットワークとはいえ、まさかか」

「悪い、俺もそこまでは知らないんだ。・・・しかし彼女はだ。そうであったとしても何の違和感もないよ」

「そう、なんだがな。俺の手に捕まえておくにゃ、ちっとばかし手に余るかな」

「・・・レオニード、まさか手を出したのか?」

「睨むなよ、合意の上だぜ?年端の行かない女ならいざ知らず、大人の付き合いに口を出す程野暮じゃねえだろ?
お前も気に入ったんなら手を出してみちゃどうだ?レディは俺とみたいだぜ?」

「同じにしたら怒られそうだよ」

「捕まえておくにゃ、少々骨の折れる女だよ。お互い気が合う時に肌を重ねる、くらいがちょうどいいぜ。
アレを捕まえておく男はかなり手こずるだろうよ」

「それは難儀だな」



頭に浮かぶのは、1人の女性。
もう2度と会うことはできないかもしれない、

ふと、なんとなく印象が重なった。
顔も、雰囲気も、話し方も違う。
だが、気を抜くとスっと手からすり抜けていくような感覚に、既視感デジャヴを覚えた。

…彼女が長じれば、あんな女性へと変わるのだろうか。
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