異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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近衛騎士団編 ~予兆~

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お互い暴露話もしたし、お腹もいっぱいだしで帰ることに。
フラフラと屋台街を散歩しつつ、シオンは私を魔術研究所へ送ってくれるようだ。



「悪いわねえ」

「いえ、おひとりで帰す訳にも。寂しい思いをさせたくありませんので」

「あら優しい。なら手くらい繋いでくれないの?」

「では遠慮なく」



若いカップルのように手を繋いで歩く。
軽く指を絡め、ゆったり歩いてくれる。

もーやだ、優しいんだから。
寂しがりの今はこういうのに弱いのよ?
酔ってる時はさらに危ない、人肌が恋しくなっちゃうんです。

きゅ、と手に力が入ったのがわかったのか、シオンも少しだけ握り返してくれる。やだもう何これ、どこの恋愛漫画?



「甘酸っぱいわあ」

「言わないでください、自分でも少し恥ずかしいです」

「だってこうやって男の人と手を繋いで歩くのなんて、何時ぶりかしら?大人になるとあまりやらないじゃない?」

「そうかもしれませんね」



しかし、私は知っている。
『コーネリア』だった時に星夜祭でシオンが私の手を取り、繋いで歩いていた事を。
まあでもあれ私であって私じゃないからノーカン?



「エンジュ様」

「はい?」

「観劇にお誘いしたいのですが」

「え?今?」

「ああいえ、話せば長くなるのですが」

「じゃあ座りたいです」

「わかりました」



くす、と笑って近くのベンチへ。
屋台街は抜けたが、噴水とベンチのある辺りへ。
座ると少し先に屋台街の賑わいが見える。

隣同士に腰掛け、シオンは半身をこちらへ向ける。



「私の家の事はお話していませんでしたね?
アナスタシア様から聞いているかもしれませんが、私は侯爵家の出です。ですが上に兄がいますので、生家を継ぐことなく、今は伯爵位を頂いている身の上です」

「ええ、聞いているわ」

「兄から、代わりに出席してきてほしいと観劇のチケットを頂いていまして。どなたかにお譲りする事も考えたのですが、カイナス侯爵家で出資をした舞台らしく、お譲りできなくて」

「それこそ貴方を慕ってくださる方をお誘いしたらいいのではなくて?」

「・・・意地悪ですね、エンジュ様?」



じと、と見てくる。
なんだか少し、砕けてきてない?酔ってるからかしら。

シオンはふう、と一息ついて真っ直ぐな目を向ける。



は、貴方を誘いたいんですエンジュ様」

「っ、」

「いけませんか?」

「ちょっと、驚いたわ」

「でしょうね。少しだけ勝ったような気になりました」

「断固断ろうかしら」

「ああ、すみません。許してください愛しい人」

「ふざけてきてるわよね?」

「すみません、つい。こういうやり取りも許してくれるのでは、と思って」



お互いクスクス笑う。
しまった、アルコール入った者同士、笑いの沸点が低くなってやしませんか?
私自身、そこそこビールが回ってきているので、ふわふわしている。

そんな雰囲気を感じているのか、シオンは私の手を取ってキス。そのまま熱を込めた瞳を向ける。やだもうまたスチル発生よこれ。



「浮気性な男だと責めますか?」

「そうね、ちょっとだけ」

「でもそれはエンジュ様が魅力的なせいですよ?こうして話しているだけでどんどん惹かれていってしまうのですから。
このまま連れ去ってしまいたいくらいに」

「シオン?貴方、忘れられない人がいるんじゃなかったの?」

「俺の知人曰く、『女でできた心の傷は女でないと癒せない』そうですよ」

「あら、じゃあ男でできた傷はどうなのかしら?」

「エンジュ様の傷は俺が癒してみせますよ」



言っていることがすでに酔っぱらいのそれではないだろうか。口説き文句なのだが、私も酔ってる時の男の言葉を信じるほど無垢な少女ではないので、なんとなく合わせておく。

酔いが覚めたときには忘れてるでしょ。大抵私は覚えてないし。

私は取られていた手を引っ込める。
不満げにするシオンがなんだか可愛らしかった。



「その酔いが覚めたらもう一度誘ってちょうだい?
観劇自体は嫌いではないから、行ってもいいわ」

「約束ですよ?エンジュ様」

「約束は破らないわよ」

「わかりました、お誘いに行きます」



ニコリ、と微笑んで立ち上がる。
…あれ?今のもしかして酔ってるふり?演技ですか?

行きましょう、と手を差し伸べてくるシオン。
誘われるまま、私は手を取って魔術研究所へ戻った。



********************



「ただいま戻りました」

「あん?なんだよ戻ってきたのか?早いんじゃねえか?」

「調子に乗りすぎてしまったので、切り上げました」

「口説き損ねたか」

「さすがに、今の俺じゃ口説かれてくれませんよ」



以前よりは少し、元に戻ったような気さえする。
やはり『コーネリア』でなくとも彼女がシオンの心を掴むのは時間の問題だろう。シオンが気付きさえすればな。



「・・・悪いが、良くない知らせだ」

「嫌な時に戻りましたね」



シオンの酔いも吹っ飛ぶかもしれない。
なんて知れば。

机を滑らせて渡した書類を見て、シオンの目から酔いが消えていく。



「救援は・・・いえ、もう調査隊にした方がいいでしょうか」

「そうだな。既に近場の砦から救援が行っているとは思うが、・・・無理だろう。
この報告も『既に消えた』という事後報告だからな」

魔物大発生オーバーフロウ・・・現実味を帯びてきましたか」

「予兆はあった。後はどこまで発生を最小限に抑えられるかになってくるだろう」

「部隊を再編成します。神殿と魔術研究所にも増援を頼みます。ギルドについてはどうしますか」

「ギルドはギルドでやる事があるだろう。だが状況報告はしておくべきだな、あちらにも備えてもらわないとならん。
王国騎士団にも同様の報告は上がっているはずだ」

「ではすぐに編成を始めます」

「悪いな」



迷宮ダンジョンでの騒ぎが終わったかと思えばこれだ。いや、騒動が終わっている事を喜ぶべきか。
そうでなければ未だに迷宮ダンジョン探索に手を取られていたはずだから。

ギルドでも魔物討伐クエストが増えているかもしれない。
ある程度は向こうにも間引きを手伝ってもらわないと騎士団だけでは手に余る。

万が一を考え、神殿から回復魔法の使い手を。
魔術研究所からは魔法の使い手を派遣してもらうべきだろう。
そちらを任せてしまえるのなら、騎士達も楽になる。

・・・『獅子王』がラサーナへ戻っている事も悔やまれるが。
向こうの地域でも同じ事が起きていないとも限らない。
俺達は俺達で、やれる事をするしかない。



********************



魔術研究所へ戻ると、ゼクスさんが難しい顔で待っていた。
お部屋に招かれ、お話し合い。



「すまんの、来てもらって」

「大丈夫です、ちょっとお水ください」

「・・・楽しいところに水を差してしまうが。
村がひとつ消えたそうじゃ」

「は?」



消えた。村が?マジック?IT'S SHOWTIME?
…というものではなく、文字通り村が全滅したとの事。

後の様子から、魔物に襲われたとの事だ。
既に近隣から救援が行っており、村人達の埋葬をしているそうだ。



「王国騎士団、近衛騎士団から魔術師の派遣を頼まれておる。すまんがエンジュ、人選を頼めるか」

「えっ、私がですか?」

「儂はこの後王宮へ行かねばならん。其方任せにするのも心苦しいのだが、イスト達と協力して各塔より人員を選抜してほしい。
イスト達は分かっておる故、力となるだろう」



う、うーん…死にに行け、という訳ではないけど…
ちょっと戸惑うなあ。まあ配置転換だと思えば…いいのかな。

まずは各塔へ通達し、人員を募る。
希望者がいるかもしれないし、いなければ塔の管理者達に選抜をお願いすればいい。

取りまとめくらいならできるだろう。



「わかりました、取りまとめくらいなら」

「イストでは少し呼びかけるには弱いからの。
エンジュの名であれば各塔の者も動く」

「え?むしろイスト君の方がいいんじゃ」

「何を言っておるんじゃ、既に御守りタリスマンやら回復薬ポーションの数々、回復持続飴キャンディスと様々な魔法具を創り出しておるのに、名が知れてない訳がなかろう?
既に其方は『タロットワーク塔の主』として有名じゃよ」



ああああああああ変な所で有名になってる!
魔術研究所ここって、必要な所にしか行かないから、あんまり他所の人と会うことないからわからないのよね!

変な噂とかないといいな…と思った私…

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