63 / 197
近衛騎士団編 ~予兆~
62
しおりを挟む「そういえば、空を飛べる魔法ってないの?」
「また唐突に来ましたねエンジュ様」
各地で増えた魔物の被害。
討伐隊を組むべく、魔術研究所からも有志の魔術師を派遣する為、希望者の選抜をしている。
ゼクスさんに頼まれた後、各塔の管理者宛に通達をした所、思っていたよりもやる気の返事が次々と届いた。
各塔で希望者を募り、まとめて情報をもらっている。
そこから私とイスト君で内容を確認し、誰と誰を組ませて…など決めている最中にふと思った。
各塔の希望者は、かなり素養が高い魔術師が多く、得意な魔法や持っている属性などが詳しく記された報告書が出されている。
イスト君曰く『自分アピールですね、こういう時でもなければ他の塔に自分の能力を公開しませんし。魔術師は自分の力試しをする場があまりないですから、こういう時に張り切るんですよ』との事。
いっそ、騎士団みたいに順位戦…とは言わないが、自分の力試しのための場を設けるのもありではなかろうか。
そんな中、ふと思った。
飛べる魔法使える人っていないのか?と。
「だって、魔女っ子といえばホウキで空飛ぶでしょ?」
「・・・すみません、エンジュ様の頭の中で何が起こっているのか僕には分かりませんが、知っている限りでは飛んでる人は見ません」
「イスト君、試した事ある?」
「さすがにないですが・・・あ、キリが昔挑戦していたような」
「えっ、飛べる?」
「いえ、何か補助がないと・・・と言っていた気がします」
うーん、物語とかだと、ビューンと飛んでるイメージ。
某龍の珠の漫画だと、自分で飛んでるわよね?でも有名なアニメ映画のお届け物屋さんの子はホウキで空飛んでたし。
やっぱりホウキ?ホウキがないとダメ?
杖とかで代用できないかしら?
イスト君と話していたが、それ以上の代案は出ず。
各塔の希望者の報告書を見ても、それらしい記述はなかった。タロットワーク塔にいなくても、他の塔でいたりしそうだけどねえ。
********************
「・・・という事があってね、セバス」
「・・・なるほど、かしこまりました。
つまりエンジュ様は空を飛んでみたい、と」
「さすがセバス、言わなくても通じるわね」
「エンジュ様に慣れてきましたよね私達」
「もう2年はお近くにいますからね」
そこで諦めたように言わないでください、2人共。
ターニャもライラも、もう私が言う事にあまり驚きもせず、さくっと受け止める空気になってきている。
『そこはもうエンジュ様ですから』
という一言でまとめるのはやめて欲しい。
「ネイサムが残した魔法書とかにないかしら、記述」
「ない・・・とは言いきれませんね。
王配ネイサムはエンジュ様と同様、異世界から来た人です。エンジュ様が気にしたように、空を飛べないか?と思ってもおかしくありませんし」
「私としてはホウキじゃなくても、杖とかで行けるんじゃないかと」
「御用意致します」
「ん?ホウキを?杖を?」
「もちろん両方です」
ターニャ達に合図をするセバス。
2人とも別の方向に散ったということは、取りに行ったんだろうな。
私はセバスに促され、庭へ出ることに。
庭へ出て少し経つと、ターニャとライラがそれぞれホウキと杖を持ってきた。何その杖。立派過ぎない?
「お待たせしましたぁ」
「・・・どこから持ってきたのその杖。やたら気合い入ってない?」
「これは当家の武器庫からですよ?」
「なんか凄いものがたくさんありそうな所ね」
「それはもう。タロットワークが集めに集めた様々なものが」
「ターニャが入ると散らかされるのが難点ですね」
どうやら本当に凄いものがたくさんある武器庫。
手に負えないものとかありそう。
ターニャが持ってきた杖は、120cmくらいはあるだろうか。でもRPGとかでよく見る感じ。
ハリー〇ッターの世界だと短いものを持っているけど、やっぱりこの世界の杖っていうと長いのかしら。
そこはセバスによれば、使用する人間の好みだそうだ。
携帯には短いものの方が便利だし、魔法の扱いやすさを補助する観点から言えば、初心者は長いものの方が望ましいとか。
「ホウキの代わりに、と仰っていましたので長い物をお持ちしましたが、長すぎますか?」
「いいえ、そう考えるとある程度の長さあった方がいいわよね。・・・縮んだりとかしないわよね?」
「いえ、出来ますよ。熟練者の魔術師ならばできるでしょう。形態変化の魔法を応用すれば可能です」
形態変化とは、いわゆる変装に使ったりする魔法らしい。それ以外にも、応用として今言ったように、装備を変化させる事も可能のようだ。
本人の熟練度、想像力などに左右されるので、あまり使用する者もいない魔法のひとつらしい。
私が使う能力値解析の魔法と同じ。あの魔法も他でカバー出来ちゃうから、あまり使う人がいないって聞いている。
…私としては使い勝手はいいのだけどね。
「はてさて、できるかどうか・・・」
「どうするおつもりで?」
「え?いや、漫画やアニメでは・・・えーと、映像作品では跨って浮いてたんだけど」
よいしょ、とホウキを受け取り跨る。
気分は魔女っ子さんです。
で、どうしろと言われてもわからないのだが。
ていうかあの赤いリボンの女の子は勝手にふわっと飛んでたよね?
…はい、ここで皆さんお分かりですね?
もちろん、飛べました。そうです、イメージが物を言うのです。
バランス感覚としては、自転車のような感じ。浮いてる感覚はブランコ。一生懸命ペダルを漕ぐ…ようなイメージをすると進む始末。
「わー!凄いですよエンジュ様!」
「まさか本当に飛べるとは」
「流石はエンジュ様です」
「自分でもいけると思ってなかった・・・けど、楽しいかも」
ふよふよふよ、と低速で飛び、降りる。
ターニャやライラもホウキに跨り試すが、サクッと飛べはしなかった。やっぱり漫画やアニメの力は偉大。
「ではこちらもお試しください、エンジュ様」
「杖・・・だと、跨るより横乗りの方が良さそうよね」
何かの漫画で横乗りしてた魔女っ子さんがいたっけ。
その方が見栄えはいいわよね…できると今後使えそうだし。
さすがに街中かっ飛ばすことはなくても、外で逃げるのに役立ちそう。私が走るよりは早そうだし。
車の免許は持ってて、原付の運転もしていたし、体感では40キロくらいの速さなら耐えられそう。
漫画やアニメだと、周囲に風の結界張って安全確保してたわよね?練習すれば60キロや80キロは頑張れるかな?高速道路だと思えば!
…ただ、高さに耐えられるかどうかよね。
なんて事を考えながら杖に横乗りするイメージ。
ふわり、と浮きました。…何でもできるなこの世界。自重しないとやらかすだけだわ、これ。
浮いてセバスと目線を合わせるくらいの高さに。
こちらもバランス感覚的には自転車。
…もしかして、自転車に乗れればこれできるのかも。こちらの世界で自転車って見ないわよね?
「驚きですね、こんなにすんなりと」
「セバス、自転車って知ってる?」
「・・・じてん、しゃ、ですか?三輪の物は街で見た事もありますが」
「二輪の物はない?」
「二輪ですか?・・・そうですね、昔サーカス団の演し物で見た事がある気がしますが、街中にはないですね。それが何か」
「この浮いてる感覚、バランスの取り方がその二輪の自転車に近いのよ。だから、乗りこなせれば同じように飛べるかなと」
「・・・なるほど。エンジュ様はその二輪の自転車にお乗りになった事があるのですね?」
「というか、私にとって手軽な移動手段のひとつだったわ」
ふむふむ、と考え込むセバス。
ターニャやライラはさっきからホウキで飛ぼうとしているが、少し浮いては戻るを繰り返している。
それを見ていたセバスは、私を振り向き宣言した。
「・・・これを習得せずしてタロットワークの執事を名乗れませんね。すぐにも手に入れ、会得してみせます」
「えっ、方法あるんですかセバスチャン様!」
「私達も会得してみせます」
「アッハイ」
セバスの宣言通り、翌日には自転車が3台届いた。
実演として私が邸内の広い廊下を乗り回せば、次の日には皆乗りこなしていた。…身体能力の差よ。
もちろんその数日後には、ホウキで空飛ぶメイドがいたとかいないとか…
621
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる