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近衛騎士団編 ~予兆~
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しおりを挟むコンコンコン、とノックの音。
どうぞ、と声を掛ければ顔を出したのはヨハル君。
「エンジュ様、王太子様をお連れしました」
「ありがとう、入ってもらって」
「かしこまりました、お入りください」
やはり、というかシリス王太子を案内してきたのはヨハル君だった。多分『自分が行く!』と率先したんだろうな…
入ってきたのは、あの頃よりさらに…ここ大事です。さらにイケメン度がマシマシのシリス王太子。
たった2年でここまで色気のある青年に変わるものなんですか?王族特権ですか?神に愛されしものなの?
シリス王太子もこちらを見て、軽く目を見張る。
でしょうね、エリー達から聞いているとはいえ、今の『私』は『コーネリア』とは似ていないだろう。
「・・・やっと会えましたね、愛しい姫」
「その呼び方は変わらないんですね」
「ええ、今でも私の1番は『あなた』ですよ」
********************
ソファへ促し、お茶の用意をする。
すると、シリス王太子がそっと私の手を止めた。
「私に淹れさせてもらえませんか?」
「え?シリス殿下、お茶を淹れられるの?」
「私を何も出来ないお坊ちゃんだと思っていますね?では腕前を披露しましょう」
ふふん、とドヤ顔するシリス王太子。
お任せしてみると、慣れた手つきでお茶を淹れた。
どうぞ、と勧められたカップの中には香り高い紅茶。
飲んでみると味も香りも申し分ない。これは私よりお上手なのでは。
「いかがです?」
「美味しいです、驚きました。こんな特技があったなんて」
「・・・いえ、婚約してからエリザベス嬢に叩き込まれまして」
「え」
「これくらい出来るようになって頂かなくては困りますわ、とね。普段はメイド達の役目を奪うような真似はせずとも、親しい間柄くらいには自分で茶を馳走できるのもいいのではないかと言われまして。
しかし紅茶ひとつ淹れるのも奥が深いもので、すっかりハマってしまって。今では呆れられるくらいです」
「シリス殿下、凝り性ですよね」
「そうですね、確かに。もうエリザベスにはほんのたまにしか淹れさせてもらえないんです」
コサージュを手作りして渡してきた辺りからなんとなく察していたけれど、この人はかなり器用だ。
しかも、凝り性なところがあるから、ナントカの一つ覚えではないけど凝りだしたら止まれないタイプ。現代だったらラーメンのスープやカレーをイチから手作りするような人だと思う。
しかし、シリス王太子…少し筋肉質になって体に厚みが出て来てとってもいい体格。ギュッとしてみたい…!マッチョとは言わないが、これは絶対いい体している…!写真集出しませんか?と言ってしまいたい。
「目論見は成功しましたね」
「えっ?」
「あの時私を選んでおけば、と思ったでしょう?」
にっこり、ではなく、ニヤッとしてやった笑顔。
くそー!心を読まれている…!悔しいがその通りですこんちくしょう。
「私も見る目がありませんよね」
「そう言われる様に努力を重ねましたから。今の貴方にそう言って貰えて私は大満足です」
「・・・また、会える保証もなかったのに?」
「ええ。きっといつか会える、そう思っていました」
うーん、すごいなシリス王太子。精神面は強い。
エリーを伴侶とした事でなんていうか、揺るぎない成長をしたのかもしれない。信頼できる王太子妃がいれば精神的にもかなり楽よね。
シリス王太子が淹れてくれた美味しい紅茶を飲みながら、お互いの2年半を埋めるようにお喋りを。
彼から見た他の皆の様子や、王国の事などを話してくれた。
彼自身の周りは、エリーが王太子妃として輿入れしてから2人、側妃として迎えたという。エリーが前に言っていた2人。後宮はエリーがしっかり手綱を取り、3人ともきちんとした力関係ができているという。
「子供はまだ?」
「そうですね、エリザベスにできるのが1番望ましいのですが、これまではあまり積極的に作る気がないようでしたから。先に王太子妃として周りを整理しないとならないと言ってね」
「そうなのね、2人の側妃には?」
「エリザベスは先にあちらを、と言われましたが、タイミングに恵まれませんでしたね。
ですがここ最近はエリザベスに『子供が欲しい』と言われましたので努力していますよ?」
「あら、政情が安定した、ということかしら」
「いえいえ、名付け親が戻ってきてくださいましたから、とね」
「は・・・?」
「王子でも王女でも、エンジュ様に名付け親になってもらいたいそうですよ。これまでは王女であれば『コーネリア』と付けると言っていましたが」
「いやいやいや、そういうのって親が付けたりするものでしょ?または国王陛下や王妃殿下とか」
「母上とエリザベスが貴方に、と言うのですよ。父上や私に出る幕はありません」
ははは、と苦笑するシリス王太子。
…それでいいのかこの国のロイヤルファミリー。
しかし、シリス王太子曰く、『タロットワークの祖』とも言うべき私が奇跡的にこちらへ戻ってきてくれている今なら、誰よりも名付け親となってもらいたいと。
うーん、名前ってすごく大事なのよ?
一生それを背負って生きるのだし、ある程度左右されちゃうわよね。いくつか付く名前のひとつ、というのであれば引き受けてもいいけれど。ミドルネームというかそういうの。
ということを私が言うと、シリス王太子はふわっと笑う。
「・・・全く、あなたという人は。だからこそ、ですよ。
そうやって他人の子供にその先を思い、悩み抜いて名前を考えて下さるのは貴方くらいですよ?
他の貴族であれば、王家の子供に名前を付ける名誉を我先に願うでしょうね。父上や母上もそれはもう舞い上がった名前を考えてくれましたから」
あれですか?マタニティ・ハイみたいなやつ?
舞い上がって頭がお花畑になった結果、キラキラネーム付いちゃう奴でしょ?さすがに可哀想よね、それは。
「わかったわ、候補のひとつとして、という事であれば考えます。もちろん貴方達夫婦もちゃんと考えてよ?親が子供に名前を付けるって、1番最初のプレゼントなんだから」
「ええ、わかりました。王族ですし、隠し名として使わせてもらってもいいですからね。私なら『アルドノーヴァ』という名なのですが」
「隠し名、とかあるのね」
「ええ、伴侶であったり、唯一の人にだけ教える『隠し名』になります。
ですので私の正式な名は『シリス・アルドノーヴァ・ワン・アルゼイド』ですね」
「・・・・・・ん?」
待って?
今、この人なんかサラッと爆弾発言しなかった?
目の前のシリス王太子はにこやかに微笑んでいる。
…ここは聞かなかった事にしておこう。
「ですのでエンジュ?2人の時は『アル』とか『アルド』と呼んでもらえたらとても嬉しいのですが」
「ちょーーーい!!!何をサラッと言ってるの貴方は!!!」
「私達の中で隠し事はなしでしょう?エリザベスも教えておいた方が、と言っていましたので」
「ダメでしょ、ダメ!そんな簡単に言っちゃ!」
「何を今さら。私は貴方を『唯一』と決めていますから問題ありませんよ」
「・・・ね、ねえ?シリス殿下?今の私、『コーネリア』とは全然違うと思うのだけど」
「そうですね、見た目は違いますね」
「どこにそんなに推す部分があるのかしら?私、全く好意を寄せられるポイントがわからないのよ」
以前であれば?若かったし?ちょっと補正もあったけど。
今の私はまんま『日本人』だ。こちらの人から見れば顔立ちも偏平だろうし、そこまで魅力がある顔立ちとも思わない。
…例外として団長さんはそういう顔立ちもストライクだったようなのだが。
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