異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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近衛騎士団編 ~予兆~

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ふむ、とシリス王太子は顎に手を当てて考えるポーズ。
彫刻のモデルにでもなれそうね。
しばし口を閉じて私を見つめ、ゆっくりと話し出した。



「まず、非礼を詫びておきます。これはごく一般的な見方であって、私の本意ではありませんよ」

「ええ、わかったわ」

「・・・今の貴方も、コーネリア姫であった貴方も、いわゆる貴族の女性達の中では少々見劣りするかもしれませんが」

「いいのよハッキリ言って。人並みよね、知ってるわ」



私の容姿って普通も普通。ど真ん中よ。
一般的に言う『美姫』の範疇にはかすりもしません。この顔程度なら腐る程いると思う。

夏至祭の時なんてキラッキラに着飾った姫君がそこら中にいるもんだから、これは何の修行ですか?と思ったもんだ。コーネリアの時は特に。

しかし、メイドの化粧の腕と言うのは恐ろしいもんで、一時的にならば『多少』見られるように化けさせることは可能。化粧ってする人が違えばあんなに変われるもんなんだなと思い知りました。



「見た目が美しい姫君ならば、目にタコができるのではないかと思うくらい見てきましたよ。これでも王族の端くれですからね」

「そうね、シリス殿下は他国に婚約者がいたんだものね」

「ええ、エリザベスも『美姫』と呼ぶに相応しいですが、前の婚約者の姫君も同じくらい美しい姫君でしたよ。
・・・ただ、貴方やエリザベスと違うのは、目に『本人の意思』が薄いことでしょうね」

「本人の意思?」

「ええ。幼い頃から、私にはたくさんの婚約者候補の姫君が集まってきました。もちろん、どの姫も可愛らしく、美しい。
けれど、決定的に似通っていたのはどの姫も『私好み』に造られてきた姫だということで」

「シリス殿下、の好み?」

「『食べ物は何が好きですか?』と聞けば口を揃えて『殿下の好きな物ならばなんでも』と」



あー…なるほど。
大方子供の頃からシリス殿下の婚約者候補として育てられて、嗜好から趣味、話し方に至るまで『シリス殿下好み』に洗の…ゲフンゲフン、調整されてきたってことね。

そうなると基本的な質問は全て『殿下の好きなものは全て好きです』に集約されるわね。…お相手の事を知りたくてもみんなの答えがこれじゃ、どれも同じね。

その考えに至った私の顔を見て、シリス王太子も笑う。



「さすがですね、エンジュ。エリザベスもそこまで察し良く気付きはしませんでしたよ」

「私は向こう異世界でこういった類の恋愛話をたーくさん読んでるもの。大抵のシチュエーションは織り込み済よね」

「・・・なるほど、興味深いですね。そういった話を書く気はありませんか?今後貴族の教本バイブルとなるのでは」

「変な相手に絡まれない方法、とかって?」

「せめても王族にはあってもいいと思うんですよ。
・・・それでも、王族の務めを受け入れて婚約者を迎え、過ごして行くつもりでしたよ。彼女───アレシエルと婚約破棄をした後も。別の姫を迎えるつもりでした。あの頃のエリザベスも今とは違い、カークに従順な姫君の仮面を被っていましたのでね」

「そう───だったわね」

「エリザベスが『自分』を表に出し始めたのはエンジュ、貴方と会ってからの様でしたからね」



そうかもしれない。もし、私がいなかったら?

エリーはアリシアさんとどんな関係を築いていっただろうか。もしかしたら、あのままテンプレの婚約破棄物語へと突入していたかもしれない。

またはアリシアさんは身を引き、エリーはそのままカーク王子の婚約者として生きていたのかもしれない。



「でも私は貴方に出会った。そして心を奪われました。
何よりも、貴方の瞳の光に。私を『王族』として敬意を表してくれていても、貴方はきちんと自らの意思を示してくれた。
ようやく、女性に対して興味を持ったんですよ。『この人の事が知りたい、喜ばせたい』とね?それまでも喜ばせる為に贈り物を選んだりなどはありましたよ。でも、あれほどまでに心躍る時はありませんでしたね」

「もしかして、コサージュ?」

「ええ。義務でもなく、自分の好意で贈る贈り物。
これまでは侍従達がお相手の姫の好みを知っていましたが、貴方に関しては何の情報もない。どんな色が好きか、どの花が好きか。手探りで贈り物を選び、貴方にどんな色が似合うかを想像する幸せ。あの時の事を言葉でなんて表現できませんね」



な、なるほど…
私、シリス王太子のハンター魂に火を付けちゃった訳ね?聞く限り、初恋に近いのかしら。そりゃ簡単に諦めないし、脳内美化されてそうだわ…

確かに貴族のお嬢様は基本的に家長に従順なもの。お相手の殿方の好みに沿うべく、淑やかに素直に育てられるんだろう。
そこには個人の意思はあまり重視されないのかもしれない。

現代の女性はどう考えても意思が強いしな…私も地球ではそこまで突出して意思が強い方ではないと思うけど、こちらではアクが強いかも…



「ずっと私が貴方を恋焦がれる事を納得いただけてないようでしたが、これで納得していただけましたか?エンジュ」

「そうね、まあ『顔が好みです』と言われるよりは納得できたわ。シリス殿下は、対等に話ができる相手がお好みだったのね」

「ええ、その様です。従順で淑やかな女性と穏やかな生活を求めていたような気がしていましたが、貴方と出会って気付きました。
今はエリザベスと添う事ができて良かったと思っています」

「エリーには幸せになってもらいたかったから、良かったわ。
シリス殿下なら、彼女の望む幸せを与えてあげられそうだものね」

「カークでは無理でしたか?」

「無理、だったかもしれないわね。私もさっき思ったのだけど、初めてエリーに出会った頃は本当に教科書通りのお姫様というか。
でも、本来の彼女はきっと違うでしょう?自分の意思がしっかりあって、先頭切って歩いて行ける。
単なる王弟殿下の奥方よりも、王妃となるべき器量じゃない?」

「その通りですね。今では私の仕事も片付けることのできる優秀さです。それもイキイキとしてこなしているのですから」



********************



シリス王太子と話し込み、ついつい色んな事を聞いてしまった。
しかし本題の事についてはまだ。



「シリス殿下、本題なのですが」

「わかっていますよ、今回の事は王族こちらとしても主導しなければなりませんね。各騎士団とギルドに通達を出します。もちろん私の御璽名付きでね。
・・・王国騎士団は少々近衛騎士団を好敵手ライバル視していますので、こちらから働きかけなければスムーズに動けないでしょう」

「どうやらその様ですね。いい方に好敵手ライバル視するならば切磋琢磨する関係としていいのですが、邪魔をするような関係ではたち行きません。
ここはひとつ、シリス殿下に気張って頂かないと」

「お任せ下さい」



それでは、と帰っていくシリス王太子。
『名付けの件はお忘れなく』と帰り際にダメ押しして行くあたり、しっかりしているわ。

下手な名前をつける訳にはいかないし、ちゃんと考えてあげないと…って、私自分の子供すらいないのに彼等の子供の名付けをするのか…?

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