異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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近衛騎士団編 ~小鬼の王~

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戻ってきた3人にもしっかり休んでもらって、豚の丸焼きの仕上がりを待ってから出発。

少し急ぎ目で行くことにした。
だって、できるだけ早く3人に探索に散ってもらいたいもの。
夜になればそれだけ危険は増す。…むしろ夜の闇の方が彼等にとっては動きやすいのかもしれないが。

日が落ちる前に、目的の砦が見えてきた。
目の前で降りるわけにもいかないので、ある程度離れた場所から歩く事に。

あと少し、という所で、横合いから出てきた騎士に詰問された。



「止まれ!貴様等、何者だ!」

「私達はあの砦に向かっている者ですが」

「何だと?名を名乗れ!怪しい奴らだな!」

「えっ、そんなに怪しいですか?」

「怪しいだろ!馬車でもなく、馬に乗るでもなく!
徒歩で歩いてくるには、近くの村からはかなり距離もある!
商人でもない、農民でもない、爺と女3人なんて、怪しすぎる!」



確かに。いきなり徒歩で来たら怪しいのか?
ここは馬でも乗ってくるべきだったのか。
でも、砦に馬連れてきたら、それだけお馬さんのご飯とか必要だし。お世話とかいるし。

しょうがないので、伝家の宝刀抜きましょう、そうしましょう。



「わかりました、これが身分証です」

「あん?これが・・・なに・・・か・・・」



はい、と渡した指輪。
それはタロットワークの紋章が刻まれているものだ。
もちろん、魔術研究所の通行証でもあるのだが。

それを見た騎士さんはプルプルと震えだし、ガバッと土下座した。



「も、申し訳ありませんでしたあっ!!!」

「いや、まあ、いいのよ別に。怪しいわよね確かに」

「平に、平にお許しの程を!」

「いやだからもういいって」

「誠に申し訳ありません!!!」



面倒臭い。無視して歩いていいですか?
セバスに『どうにかしてください』と言って、私は歩き出す。

土下座する彼ににこやかにセバスは一言、二言囁くと、彼はあっという間に横をすり抜けて砦へ猛ダッシュして行った。



「何したの?セバス」

「いえ別に。お早く砦へ言って、アナスタシア様に客人が来たことをご報告しなくてよいのですか?と言っただけですよ」

「なるほどね、その手があったわね」



タロットワークが来たのだ。誰とはわからずとも、現在砦にいるタロットワークの人間にそれを伝えるのは上策と言える。

歩いて辿り着く頃には、砦の前にアナスタシアが待っていた。



「アナスタシア」

「よく来たな、エンジュ。歩きなのか?」

「途中まではロッドでね。さすがに降り立つ訳にもいかないじゃない?」

「なるほどな、早いわけだ。セバス、御苦労だった」

「いえ、アナスタシア様もご健勝そうでなによりです。
ではエンジュ様、我等は任務に向かいます。よろしいですか」

「場所を聞かなくてもいいの?」

「いえ、こちらで手分け致しますので構いません。夜半には戻れるかと」

「お願いするわ。オリアナ、貴方も行ってくれる?アナスタシアがいるから、護衛はいいわ。それより情報が欲しいの」

「かしこまりました、我が君」



ターニャとライラの影から、すっと現れたオリアナ。
何故か、メイド服。もうそれ以外着る気ないのでは?

セバスが軽く頷くと、3人はそれぞれの方向へ去っていった。
彼等の仕事ぶりに大いに期待しましょう。



「いいのか?エンジュ」

「構わないわ。途中の村でも魔物被害があったの。
・・・それで悠長にしていられないと思ったわ。なにより、情報を集めるならば、彼等以外に適任はいないでしょう」

「確かにな。斥候隊としてカイナスが出ているが、まだ戻らない。日が落ちるまでには戻るだろう。少し休んでくれ、エンジュ」

「ええ、ありがとう。
・・・あ、途中の村で、豚の丸焼きを買ってきたのだけど。夕飯に出してもらいたいのよね」

「それは豪勢だな。皆も喜ぶ。
そうだ、エンジュの『騎士』達もいたぞ。少し消耗しているようだから、見舞ってやってくれ」

「え?ケリーとディーナ?いるの?」

「ああ。今は休みを取らせている。
先程カイナスに斥候に出てもらっていると伝えたな?
奴らの持ち帰った情報を元に、明日から攻勢に出る。
近衛騎士を主体に組むが、王国騎士にはここの守りに徹してもらうつもりだ。万が一突破されても困る」



砦の中を歩きながら、アナスタシアと話す。
私が通ると、顔見知りの近衛騎士はぺこりと礼をしたり、騎士礼を返してくれる。

ふと、見た先に久しぶりに見る顔が。



「えっ!?アリシアさん!?」

「ああ、『星姫』殿だな。神殿より救援に来た中にいる。
巫女達や僧兵達と共に、騎士達の救護や、食事の世話なんかもしてくれている」

「・・・立派になったのね。美人になって」



あれから2年以上も経ったのだ。
少女から淑女へ。エリーのスパルタ訓練もあっただろうが…
幼さはなりを潜め、見事に美人さんの仲間入りだ。

と、ポケットからぴょーん、とスライム1号が飛び出た。
何故今ここで出る…?



「おや、着いてきたのか」

「ポケットに滑り込んできたのよ」

「そうか。・・・やはりいいなこの手触り」



ぷにぷにぽよん、とアナスタシアの手の中で遊ばれている。
何やらスライムも満足そう。

ふとよく見ると、一回り小さくなっているような。
…まさか、気が付かないうちにこの子分裂してない?



「えっ、待って?分裂してない?」

『したのー』

「どこ行ったの!?」

『あのね、ついてった』

「誰によ」

『みんなー』

「・・・ヤバい全くわかんない」

「もしかしたら、セバス達について行ったのか?
そうであれば、連絡は取りやすそうだな」

『そうなの』

「い、いつの間に・・・」



どうやら、昼間、村で別行動を取った時からのようだ。
面白そうだな、と思い、分裂してついて行ったらしい。
スライム同士で連絡が取り合える…らしいので、セバスがそのまま連れて行っているのだとか。

あれ?もしかして探索サーチの魔法が広範囲に広げやすかったのって、もしかしてこの子達がアンテナの役割してたとか?
…それってなんていう性能なんだ?私の使令だからなのか?一体?



********************



砦の中の食堂へ通される。
おそらく、この建物で『応接室』とかはなさそう。

なので飲食は必然的にここになるんだろうな。
アナスタシアは私をここに連れ、部屋を用意するから待っていてくれと言い残して去っていった。

アナスタシアもアナスタシアでやることあるからね。
私はとりあえず何も無いし、のんびりセバス達を待つくらいしかない。

テーブルにスライムを出して、ぷにぷにつついて遊んでいると、コトリとカップが置かれた。
見上げると、そこにはディーナとアリシアさんが。



「あら、もういいの?ディーナ」

「ああ、休ませてもらった。ここまで来てもらって申し訳ありません、エンジュ様」

「いいのよ、私が来る必要があって来たのだもの。
そちらは、なのかしら?」


紹介します、アリシア・マールです」
「初めまして、文務省所属二等官、アリシア・マールと申します。お会いできて光栄です、レディ・タロットワーク」

「初めまして、魔術研究所タロットワーク塔主のエンジュ・タロットワークです」



私はアリシアさんに自分が『コーネリア』だとは教えていない。今後の彼女にとって、その情報が吉と出るか凶と出るかは定かではないからだ。

エリーは既に確固たる身分がある。

キャズも冒険者ギルド所属の冒険者と、『タロットワークの騎士』という地位が。

ケリーとディーナにおいては、王国騎士団の騎士としてだけでなく、キャズと同様に『タロットワークの騎士』という身分が。

彼等は自分で自分の身を守れる力がある。
けれど、アリシアさんはどうか?現在の彼女は、王宮の文務省…所謂、政治的な役割をする場所にいる。そこは下手をすると権力に囚われた魑魅魍魎が跋扈する世界だ。振り回される危険がある。

彼女は自分自身の能力でそこまで登り詰めた。
そこに『タロットワーク』の影響があると、今後の未来を左右してしまわないか?という懸念がある。
だからこそ、ゲオルグさんも見守るだけに留めておいてもらっている。ちなみに文務省のトップはゲオルグ・タロットワークである。

だからこそ、これまで何も接触せず、エリーやエオリアさんからの情報のみでアリシアさんの事を見てきていたのだが。



「あ、あの!この子触ってもいいですか?」



そわそわそわ、と落ち着かないアリシアさん。
わかるわかる、だってディーナも触りたそうにチラチラ見てるもの。



「ええどうぞ。ディーナも触りたかったんでしょう?」

「わ、私は、その」
「いいじゃないですかディーナさん!レディ・タロットワークのお許しがあるんです!」

みょーん。

「わあっ!2匹になった!」
「・・・す、すごい」

「空気読んだわね」



ドヤァ…!とばかりにこっちを見るスライム。
いや、いつも通りの笑顔なんだけどね。空気的にドヤ顔に見えるよね?

私は女子2人がキャッキャウフフとスライムを楽しむ間、のんびりティータイムを楽しむのでした。

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