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森の人編 ~エルフの郷~
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しおりを挟むさすがにカウンターで込み入った話をする訳にもいかない。と、思っているとイヴァルさんが席を立った。
「さて、アルマがいませんし、ギルドの部屋を借りています。そちらでお話しましょうか、レディ」
「え?あ、はい」
心得たかのように、マスターさんが大きなポットとカップを2つ出してくる。それをサクッとしまうイヴァルさん。…頼んであった、のだろうか。
再び仮面をつけ直したイヴァルさんが先導し、ギルドの中へ。
そのまま2階へと上がり、前に案内された部屋に近い扉を開ける。室内は前に入った部屋とさほど変わりはない。応接室がいくつか用意してあるのかもね。ひっそり商談をする事もあるだろうし。
促されてソファへ座る。イヴァルさんは対面の席へ座り、お茶の用意をしてくれた。
「すみません」
「いえいえ、これくらいは。なにせ長く生きてますからね」
「イヴァルさん、失礼ですけどお幾つなんですか?」
そう聞くと、仮面を外したイヴァルさんは、うーん?と虚空を見上げた。
「そうですね、数えなくなって久しいのですが。500年は超えてますかね」
「ごっ!?ごひゃく!?」
「ええ」
サラリと爆弾発言をし、にこやかに微笑む。
線が細い感じを受けるけれど、しっかり男の人なのよね。
しかし森の人って寿命そんなに長いの?
シオンや獅子王から聞いた話だと、200~300って話だったと思うんですけど?
「私はエルフの中でも長生きでして。ハイエルフなんですよ」
「え・・・?何か、違うんですか?」
「ええ、耳の形がね」
先程同様、髪の毛をかきあげる。
しかし、先程見た尖った耳ではなく、私達…人間と同じ丸い耳。えっ?さっきはちゃんと長耳じゃなかった?
イヴァルさんによると、エルフとハイエルフというのはまた別の種族らしい。エルフ間で婚姻を重ねると、血が濃くなり魔力や寿命の長いハイエルフが産まれるのだとか。
エルフの寿命が200~300年ほどに対し、ハイエルフはその倍以上の700~800年程生きるのだとか。
今のエルフの族長もハイエルフ、らしい。
「名をディードリットと言いまして」
「えっ!?ディードリット!?」
「・・・やはりその名前に食いつきますね?貴方と同じ、『渡り人』は」
「その、『渡り人』っていうのは、つまり」
「『異世界よりの客人』のことを私達は『渡り人』と呼ぶのですよ。ディードリット、という名前も『渡り人』から頂きましてね。なんでも『エルフならディードリット、それしかない!』とね」
誰だその人は。やらかしにも程がある。
確かにエルフといえばディードリット、に間違いはない。だってあの作品から『エルフと言えば金髪、美形、ぺったんこ(スレンダー)』だものね。
エルフ達もその名前がお気に召したようで、代々族長は『ディードリット』と名乗るらしい。族長になったら名前変えるとかそれでいいのかしら?
イヴァルさんは私以外の異世界人…『渡り人』に会ったことがあるらしい。エルフの郷へ訪ねてきたのだとか。
エルフの間では、『ネイサム・タロットワーク』は有名で、知己となった者もいるそうだ。
「懐かしい魔力の波長を感じましてね。これは『渡り人』がいるのだろうと。きっと何か面白い話を聞かせてくれるだろうと思いまして。ほら長く生きてると娯楽がね」
「娯楽、なんですね?」
「全く違う世界、全く違う考えを持つ方が多いですからね。・・・同じエルフの仲間にはそういった『変化』を嫌う者も多いのですが、私は変り種のようでして」
「エルフの人達は、その、外へ出てきたりはしないんですか?」
「中にはいますよ、外へ憧れて出てくる者も。種族特有の恵まれた魔力を持っていますし、森の中で生きるにはそれなりの戦闘スキルも持ちます。外界の人と手合わせしてもよもや後れを取る事はないはずなのですが、いかんせん『箱入り』なのでね」
1VS1、なら負けもしないのだろうが、やはり数の暴力という言葉もある。基本的に素直な面があるため、搦手には弱いのだろう。その見た目の美しさや希少性が祟り、奴隷にしようとする人間も少なくない。
それを回避出来るものだけが外の世界を満喫できるのだが、やはり疲れ果てて森へ帰る…というエルフが大半。そして終生を森の中で過ごす。
そうなると、子を成すのにも不都合があるんじゃないのかなと思うのだが、寿命の長いエルフの事。人間とは違い『繁殖期』ともいう『発情期』があるのだそうだが、個人差もあるが数十年に一度…
「ですので子供が産まれづらいんですよね。とはいえ、人間と交わればハーフエルフが産まれます。そのハーフと純粋なエルフがまた番い、血の濃さを薄める・・・といった具合で種の数を保っていますが」
「ハーフエルフの方も森にいるんですか?」
「ええ、貴方達の心配するような『差別』はないですよ」
「・・・失礼しました」
「いえいえ、皆さん聞かれていましたからね。ハーフエルフといっても見かけは変わりませんし。むしろ魔力は多いかもしれませんね。純粋なエルフより、ハーフエルフの方が訓練で能力を伸ばせる者が多いです」
へえ、それはそれは。
よくあるお話だと、ハーフエルフは純粋なエルフじゃないから迫害を受けたりしそうなものだけれど、この世界ではむしろ好意的に受け取られる存在のようだ。
ハーフエルフは、純粋なエルフよりも寿命は短い。その代わりに成長度合いが違うそうだ。他種族…主に人間種との混血が多いが、人間種の『命短く、色濃く生きる』という特性が強く作用するのではないか…というのがエルフ達の意見のようだ。
しかし、『命短く、色濃く生きる』だなんて、ねえ?
なんだか凄く美化されているような気がするわよね。
それからいろいろとイヴァルさんは私に質問したり、私も質問を返したり。
イヴァルさんの興味はやはりあちらの世界のようで、どんな事も『興味深い』と聞いていた。
イヴァルさんの話によると、彼はこれまで私と同じ『渡り人』に3人会っているそうだ。ネイサム・タロットワークはさすがにないけれど、その後『渡り人』というのはそれなりにいたようだ。
私と同じ日本人が多く、1人だけ金髪の人がいたと。髪染めただけの日本人ではなく、おそらくはアメリカ人かもしれない。
「わりと、いたんですね」
「そうですね、『渡り人』はエルフに興味が会ったようです。とはいえこちらの人とは違って会って、話して、それだけで帰っていきましたね。本当に『見てみたかった』だけなのでしょうね」
なので、エルフは『渡り人』には好意的らしい。
…一部、女性陣には受けが悪いようだが。きっとよろしくない視線を向けたのかもしれない…オタクの人々ではないと思いたいが。
でも私もエルフの集落に言ったらエルフの女性じっくり見ちゃうかも。だってエルフよエルフ。
そんな考えが出ていたのか、イヴァルさんがポロリと言った。
「興味があれば、行きますか?」
「えっ?どこに?」
「私たちの集落にですよ」
「えっ?行けるんですか?というか、行ってもいいんですか?」
「構いませんよ、全く人の出入りを禁じている訳ではありませんので。そろそろ私も里帰りをする時期ですし」
「里帰り、って何かあるんですか?」
「エルフが住む集落の周りは森なんですが、100年に1度くらい魔獣が増える時がありまして。その時期は外に出ているエルフも戻るんですよ。
集落がひとつ、という訳ではないのですが、さすがに集落にいる人数だけでは手に余る時もありますのでね。アルマにも声を掛けようと思っていたので、今回一緒にラサーナから来たんです」
そうだったのか、私に会いたいって事でアルマが着いてきたんだと聞いていたから、てっきりその話だけかと思っていた。
イヴァルさんにはイヴァルさんの目的があったわけね。
…うーん、ちょっと行ってみたいなあ。
私は予定を見てみます、と返事をした。イヴァルさんは『返事次第出発するので早めにお返事くださいね』と言ってきた。もしかしたら急いでいるのかも?帰ったらゼクスさんやセバスに聞くか…
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