異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編 〜失われた獣の歴史〜

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「えっ?イスト君の知り合い?」



お昼寝から起きてお仕事再開。
もはや『料理は趣味です』ばりに、回復薬ポーションを作る私。調合というよりはお料理に近いのよね、これ。だって薬草刻んで混ぜてるだけなんだもの。

窓から日が差し込むあたりに、ぺたりと伏せる天狼族。
たまにぱたり、と尻尾が動き、スライム達が群がっているのを見ると、どうやら遊んでやっているようだ。
…私にはわからないが、もしかしたらスライム達との間で会話できてるのかしら?なんて思っていたら、なんとイスト君が『知り合い』だと言う。



「ええ、学園時代の同期のようです」

「・・・」

「エンジュ様?」

「いや、今、教室の風景を想像したのだけど」

「待ってくださいね、あのままじゃないですよアイツ」

「えっ?だってモフモフでしょ?」

「さすがに学生時代は人化してましたよ」



モフモフが机に前足付いて座るの?なにそれちょっとかわいいとか思っていれば、学生時代は人化してたというイスト君。
私が人狼ワーウルフみたいな頭がケモノで、首から下が人間?なんて考えていると、イスト君が天狼族を手招きした。

と、獣さんは起き上がり、軽く身震い。
…ポロポロとスライム転がるのはご愛嬌か。毛の中に埋もれてたのかしら。

魔法陣が現れるでもなく、光るでもなく。
瞬きひとつの間に、なかなか長身の美丈夫が。立ち上がる寸前に、イスト君がばさりと用意していた長衣ローブを投げる。

立ち上がりながら後ろを向き、長衣ローブは下半身部分のみを覆い、上半身部分は腰の辺りへ巻き付けてこちらを向いた。



「おい、ちゃんと」
「丈を考えろ、これじゃ足りん」

「また伸びてるのか、フェン」
「仕方がない、天狼族ならこんなものだ」



イスト君が用意した長衣ローブは小さかったみたい。確かに、膝が隠れるくらいまでしかない。これじゃ多分肩とか入らないわね。
かなりの長身の体格。もしかしたら獅子王アルマより大きい?彼は筋肉もあったが、目の前の彼は細マッチョと呼ぶに相応しい。しなやかな若木のような体。褐色の肌に、灰白色の髪色と銅色の瞳。新品の10円玉の色。

イスト君の隣へ立つと、頭ひとつ分の差がある。
…イスト君も170は越えてるはずなのだけど。これは190センチあります?

見下ろす瞳は、私を検分するかのようだ。
その目線が気になったのは私だけではないらしい。



「フェン、控えろ。お前がそのような目を向けていい御人ではない」
「・・・これは失礼を」

「弁えてくれ、僕の顔に泥を塗る気か?」
「悪かった」



いつもニコニコ優しいお兄さんのイスト君が、一瞬、火花が散るような気配を放った。その気配に『フェン』と呼ばれた彼の態度も軟化する。
…うん、背後でスライムが大玉サイズになってたことは言わないでおいてあげよう。じっと見ると、しゅるしゅるとしぼんだ。



「エンジュ様?」

「あっ、いや、ううん、大丈夫!危機は脱したわよ!」

「危機・・・?」



2人とも『なにが?』という顔。
周りを確認するが、足元には通常サイズのスライムがいつもの笑顔でいるだけである。

天狼族の彼はわからないようだったが、イスト君は自らの背後に何があったか察したらしい。顔が引き攣っていた。



「・・・僕ごとですか?」

「この子にどこまでの判断ができるのか私にもわかりません」

「未遂で終わった事に感謝します」



スライムはいつも通りの笑顔でこちらを向いている。
何故か一言も発さない。いつでも行けます!という気合いの現れなのだろうか。わからない。



「で?この人がどうしたんでしたっけ?」

「すみません。おい」
「わかっている。・・・窮地を救っていただいた命の恩人に心よりの感謝を。我が名はフェンイル・アルミラ」

「フェンイル、さんね?貴方は天狼族、でいいのかしら」

「そうだ・・・いや、そうです」



そのまま答えようとすると、すかさずイスト君の肘打ちが入る。厳しいわねえ。私は苦笑してイスト君に手を振る。



「構わないわ、好きにさせて。他の場では困る事もあるでしょうけど、ここは私の部屋なのだから特別ね」

「わかりました。・・・フェン、エンジュ様のご厚意だ。今だけ許す」
「すまない、助かる」

「あまり敬語は得意ではなさそうね?」

「・・・この姿を取るのも数年ぶりだ。話せないという事はないが、意識しても得意ではない。申し訳ない、恩人に向けていい言葉ではないことも承知している」



乱暴、というわけではなく、朴訥、というのかしら。
もともと獣さんなのだし、むしろペラペラ話せるんだなと関心するけれど。うん?どっちが主なのかしら。



「ものすごく興味本位で聞くけれど、どちらが本体?」

「本体、とは」

「そもそも、どちらが主体なのかなと。獣の姿と、人の姿」

「それは獣だな。人化の術は覚えられるものが限られる。基本的に天狼族は獣種だからな」

「そうなのね。言語も別なのかしら」

「念話が主だ。吠える事で意思を伝える事もあるが、同種族感では念話が使える。人化の術を会得したものは、人の言葉が話せるようにはなるが、練習しないと無理だ」

「じゃあ今貴方がペラペラ話せるようになるには、かなりの努力と修練が必要という訳ね」

「・・・そう、だな」



ふむふむ、興味深いわあ。人化の術を使えば勝手に話せるようになるけれど、カタコトみたいなものかもね。そもそもそういう事ができる前提で人化の術を覚えられるとしたなら、その術?スキル?を身につけられる人も多くはないだろう。

横でイスト君がメモを取っていたりする。
天狼族の生態を調べられる機会もそうそうないからって言ってたものね。このフェンイルさんにも許可を得ているのだろう。

ていうかフェンイル…

…フェンリル?

いやいやまさかね。

少し思索に耽っていると、フェンイルさんが聞いてきた。



「・・・質問だが、いいだろうか」

「はい、何?」

「どちらが主体か、というのはそこまで気になるものか」

「だってモフモフよ?モフモフが主体じゃないと、気兼ねなくモフれないでしょ?」

「・・・もふもふ。」

「モフモフが仮の姿、だとするとモフりたい為に獣になって、とか言うのかわいそうじゃない?」

「・・・」
「エンジュ様?まだそこに拘っているんですか?」

「だって彼は連合国に帰してあげないといけないし、そうするとモフる相手いなくなっちゃうし。
そしたら、人化できないけど私の部屋で住んでくれそうなモフモフさんをスカウトするのに、そこはちゃんとしておかないと」



ものすごく呆れた顔をされました。イスト君に。



「生態を調べたいとかならまだしも、モフる為に天狼族を連れてきたいとか・・・止めるべきなのか・・・?」
「待ってくれ、俺を帰してくれると言うが、そんな簡単に帰れるものなのか?」

「え?船で行けばいいじゃない?」

「渡りが付いたんですか?エンジュ様」

「ええ、ギルドの定期船で連れて行くことはできると言われたわ?その代わり、私が着いていく必要があるけれど」

「・・・なるほど、手形ですか?」

「ええ、ではない証をね」



冒険者ギルドへ質問状を送った所、ギルドマスターのグラストンさんから直々の手紙が来た。

『獣人の連合国へ送る事は可能だが、証を立てる必要がある』と。なんでも、ギルドの定期連絡船はあるから送る事は可能らしい。

しかし、その天狼族…フェンイルさん自体がギルドの職員や乗組員をしてくれるかどうかは別の話である。

なにせ、獣人が外の国に出る事はほとんどない。
大抵は、ギルドの職員や関係者として出てくるはず。
そうでないとすれば、何某かの刑罰を受けて外へ放り出された罪人か、奴隷商人に売られた獣人またはに捕獲された獣人のいずれかとなるそうだ。

フェンイルさんを見つけた経緯から、彼の場合は『秘密裏に捕獲された獣人』ではないか、というのがグラストンさんの考え。
…あながち、間違ってはいないのかもしれないが。

さて、そのあたりをしっかり聞かねばなるまい。

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