異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編 〜失われた獣の歴史〜

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馬車の乗り合い所を離れ、首都ガルデリアの広場へ。
そこには色とりどりの天幕が溢れ、活気に満ちていた。



「てめぇどこ見てやがる!」
「そっちこそこれが見えねえのか!?」

「「なんだとこのクソ野郎!!!」」

「あーーー、はい、元気ですねー」

「懐かしいな、変わらないものだ」

「えっ嘘喧嘩ばっかりだけどこれ通常運転なの?」

「この辺りは活気があるからああいう輩も多いな」



一体どこの歌舞伎町ですか?と言わんばかりにそこらで声が荒ぶってます。
私が気付いてないだけで、もしかしたら『獣が如く』とかいうゲームを模してたりするのかしら?

しかしフェルを見る限り、全くというくらい気にしていない。
本当にここでは日常的な光景なんだな、と思う。僅かながらキャズが周りを警戒している素振りも感じた。



「ええと、ギルドに早めに行った方がいいかしらね」

「そうね、じゃないとアンタ余計な事に巻き込まれそうだわ」

「私のせい?むしろ今日まではキャズの鞭が発端だと思うわよ」

「あんなのだけで十分なのよ」

「アッハイすみません」



一瞬病んでる目を向けられました。これ心的外傷トラウマってるかしら?でもこの国にいる限り、まだまだ鞭絡みでありそうな気がするけれど。

まあそれは言うまい。役立つ事もありそうだものね。
それに危険であるならば、オリアナが何も言っていかないわけが無いのだから。
何も言わなかった、という事はそこまでの事は起こらないということなのだろう。『タロットワークの影』がに危険が及ぶような事を見逃す事はない。

自分を過大評価する訳ではないが、これに関しては耳にタコが連なってしまうくらいにセバス並びにターニャやライラから繰り返し繰り返し言われてきた。
エル・エレミアにいる時はそこまででもなかったが、獣人連合アル・ミラジェに行くと決まった時から毎日のように言われてきた。『我々タロットワークの影が御身を護らないなど有り得ません』と。

また何を言ってるのか、と散々流して来たが、3人がかりで言われ続ければ『ワカリマシタ』と刷り込まれもする。
大切に思ってくれることはありがたくもあるし、深く考えないようにしてはいるが。



「ありがたいけど、ちょっと重荷ですよ伯父さん」

「は?何?お腹空いたの?」

「いや違うけど違わないわね。あの串肉美味しそうだわ」



ぽつりと呟いた言葉は、キャズに聞きとがめられはしたものの。
周りの天幕のお店から香る、串肉のいい匂いに惹かれてしまう。

フラフラとお店に寄る私の足元をぴったり付いてくるフェルとスライム1号。
…わかってますって、君らの分もちゃんと買うわよ。

ボリュームたっぷりな串肉を4本。
2本はフェルとスライムに1本ずつ。キャズにも1本、と振り返ると何故かそこには見知った顔がいた。



「見ないと思っていたら、こんな所にまで来ていたんですか?相変わらずフットワークが軽いですね、エドワード様」

はやめてくれねえか?国ならまだしも、ここまで来てそんな風に扱わないでくれよ、キャズ嬢」

「こっちも『嬢』なんてお嬢様扱いしないでもらえませんか?こっちは単なる冒険者でしかないんですから」

「なら、今はお互い名前で呼ぶことにしようぜ?敬語もナシでな」

「はあ・・・後から『不敬罪』なんて止めてくださいよ」

「しねえよ、そんな事。女と交わした約束は何があっても守るもんだろ?」



キャズと話す、美男子が1人。

赤い髪に琥珀色の瞳。よりもさらにイケメン度はマシマシのマシ。フェロモンオーラもばしばし垂れ流しの男性。

串肉を両手に持った私に気付くと、軽く目を細めて笑い、そこらの女性が骨抜きになってしまうかのような甘い声で話しかけて来た。



「これは失礼を。貴女のような宝石を置き去りにして申し訳ない」

「アッイエダイジョウブデス」

「やめてちょうだいエドワード。こちらは私の『』なのだから」



私と彼の間に入り、視線を遮るキャズ。

そう、彼はサヴァン伯爵家の次期当主。
エドワード・サヴァン、その人だった。



********************



通りの真ん中で話し込むのも邪魔になる。
串肉持ったままの私を促し、少し人通りの少ない開けた一角へ。
私とキャズの後ろを、串肉くわえたフェルが付いてくる。背中には同じように串肉をくわえた…くわえてるのか?スライムが。

それを面白そうに眺めているエドが殿だ。
ちゃっかり自分も買ったようで、串肉を齧りながら歩いている。

私も歩きながらキャズへ1本串肉を渡した。



「・・・なんでここにエド?」

「さあ?でも遊学に出てる事は知ってたわ。伯爵家を継ぐ前に各国を回って見聞を広めている最中のはずよ」

「へえ、耳聡いわね?」

「一応ね。どこの誰からに繋がるかわからないし。主だった人間のチェックはしているわ」

「キャズ様様ね」

「・・・ほとんどは『影』からの情報よ。アンタが戻ってきてからスパルタ教育方式で詰め込まれてる。私だけじゃなくケリーやディーナもね。
こっちも仕事上、助かる情報でもあるから気にしないで」



こそこそ、と耳打ちをするように話すキャズ。
知らない間に色々と『タロットワークの騎士』としての教育が進んでいるようだ。知らぬは主ばかりなり?それでいいのかしら?

私の知らぬ間に、キャズとエドは交流があったようだ。
かいつまんで聞いた所、学園にいる間は接点がなかった様なのだが、卒業後に幾度も交流があったらしい。



「先程は失礼を。サヴァン伯爵家が第三子、エドワードと申します。遥かなる高みに御座す魔術の系譜に連なりし御方へ、お会いできました我が身の幸運に感謝を」

「世辞は結構ですわ、楽にしていらして。
キャズ、貴女の友人なのでしょう?」

「はい、エンジュ様。学園時代の同輩にございます。
最も、私は彼とは身分が違いますので大した交流はありませんでしたが」



こんな街中ではあるが、エドはサッと膝を付き、私に『貴族らしい』挨拶をした。
ものすごく持ち上げられている語句が当然のように出てきたものだ。私が『コズエ』として出会ってからもう4年が経つのか?その成長に驚いてしまう。

キャズも私の『騎士』らしく受け答えをする。
どうやら『ギルドの受付嬢』と『伯爵家次期当主』ではあるが、エドが諸外国に行き来する間に情報交換をしていたらしい。
その中でキャズが『騎士』である事も話したのだろう。

…いや、エドが独自に知った情報なのかもしれないが。伯爵家次期当主ともなれば、独自の情報網くらいはあるだろう。



「シールケ嬢にはギルド経由で色々と諸国の情報を共有させていただいていました。とても助かっています」

「そうなのね。身分の関係なく、広く伝手を持っているのは今後にも大いに役立つ事でしょう。
・・・サヴァン卿、とお呼びすればよろしいのかしら?」

「お許しいただけるのであれば、エドワードとお呼びください、レディ」

「では、エドワード、とお呼びするわ。私の事も名前で呼んでも構わなくてよ」

「ありがとうございます」



エドがにこり、と笑うと気のせいか周りから悲鳴上がりました。
多分そこらの女性が失神したんじゃなかろうか。
…見ない見ない、気にしたら巻き込まれそうだから。

ステューとは違い、彼には私が『コズエ』である事は言わない。ステューの時だって言うつもりはなかったが、あれは彼がトンデモスキルで見破ってしまった結果だもの。

私への挨拶はそれくらいにして、エドはキャズと情報交換を始めていた。
隣に寄ってきたフェルを撫でつつ聞き耳をしていれば、エド自体はサヴァン伯爵家独自の商売ルートを固めるべく、獣人連合アル・ミラジェへ来ていたらしい。

首都ガルデリアにも、サヴァン伯爵家がテコ入れしている商売ルートがあるらしい。今回は父親の伯爵に代わり、エドが顔見せを兼ねて来ていたようだ。



「王都ギルドで挨拶して行こうと思っていたんだが、入れ違いになったみたいだな」

「そうだとしても、ここまで随分早く着いたのね」

「まあな、一応サヴァン伯爵家の独自ルートがない訳じゃないんだぜ?」

「あんまり手広くやってると抱えきれなくなるんじゃないの?」

「ま、そこは勘でなんとかな」

「・・・人には向き不向きってあるものね」



ふーん、エドってやっぱり商才があるのかもしれない。

あの頃はそこまで突っ込んだ話はしなかったけれど、その後の話はある程度聞いている。
上二人のお兄さんはどちらも伯爵家を継がずに、それぞれ官僚や一外交官としてやっていくらしい。回り回って三男のエドに『伯爵家次期当主』というお蜂が回ってきてしまったという訳だ。

逃げることもできたと思うけど、エドは継ぐ事を選んだという。



「・・・それにしてもエドワードが『伯爵位』を取るとは思いもしなかったわ。そのまま気楽な立ち位置を選んで、何処かに婿入りすると思っていたから」

「そうか?」

「ええ。たくさんのがいたじゃない」

「引く手あまた、だったとは思うぜ?我ながら」



ひょい、と悪戯っぽく笑って肩をすくめる。
なるほど、私がいなくなった後の学園ではまさにハーレムが形成されていた模様。
まあそうよね。お嬢様達は皆さん、婿のなり手をお探しに来ていたでしょうし。

ふっと遠くを見るような懐かしんだ目をするエド。



に発破を掛けられなきゃな。そうだったかもしんねえな」

「あら、あの中にそんな事を言ってくれる方がいたの?」

「何言ってんだよ、だよ」

「えっ?」
「ぐっ、ゴホゴホゲフン」



いきなりのお呼び出しに、飲んでいた飲み物が変な所へ入りました。横を向いて咳き込んでいれば、背中に肉球が。トントンしてくれている。…芸達者ね、フェル。



「大丈夫ですか?エンジュ様」
「っ、けほ、大丈夫」



そばに寄って声を掛けるキャズ。
だが私を覗き込むその顔は『アンタ過去でも随分やらかしてんじゃないの』という顔です。やめて私別に発破なんてかけてません!

咳き込むのが収まった私を見て、キャズはエドに目線を向けた。
エドも収まったのを見て、話を再開する。



「発破、というか、説教かもな」

「せ、説教?」

「ええ。同じ歳の令嬢に、『貴方はそれでも貴族なの?』と。
驚きましたよ、こんな事を考えている女性がいるなんて、とね。父にも『ようやくか』などと呆れられました」

「そ、そんな事言ったかしら?」

「え?」

「いえ、なんでもないの。・・・その彼女は何を貴方に言ったのかしら?」

「レディならば実践しておいででしょう。『貴族としての果たすべき責任』というものを」



瞬間、思い出す。

馬車の中。
驚いた彼の顔。
あの時の私は、彼に何一つ期待していなかった。
単なる、呟きでしかなかった。



「それからなんですよ。俺が・・・『私』がすべき事は何かを問うようになったのは。単に婿入り先を探すだけじゃダメなんだと」

「そう、だったの」
「・・・なるほどね。『貴族としての果たすべき責任』とはいい事言うわねあの子。
権力がなければできない事はたくさんあるわ。一平民じゃ手の届かない事ってあるもの」

「キャズもそう思うか?」

「ええ。悔しいくらいにね。だからギルマスを追い落として早く上に立たないといけないわ」

「怖い女だな、ったくよ」



二人は競い合うような、不敵な笑みを浮かべていた。
お、おお、大人になりましたね?皆さん…。

それに引き換え、流されている私。いいのかしらコレで?

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