異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編 〜失われた獣の歴史〜

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その後、戻ってきたオリアナからはキャズが持ってきた情報よりも少しだけ踏み込んだ内容もあった。

フェンイルさんが国を出ることになった件はやはり、現体制と敵対する派閥によるものだった。それは父親であるオルドブラン卿側も掴んでいたようで、公にではないが捜索の手を出していたようだ。

しかし『奴隷登録』をされていた事で、捜索は難航していた模様。
獣人連合アル・ミラジェでの罰ゲームのようなものではなく、他国でも通じる本来の奴隷契約だ。登録奴隷を大っぴらに情報解禁することはない。ああいうものは人知れず売り買いされるものだ。

だとしたらあの毛玉の取っ組み合いは何だったんだ…?
帰ってきた息子のお手並み拝見!って事…?
どれだけ強くなったか父が試してやろう!的な…?



「概ね、エンジュ様の想像で合っています」

「理解不能だわ」

「仕方ありません、獣人の思考回路は野生に近い所もありますから。今でこそあまり重要視されておりませんが『つがい』という概念が最上、とされていた過去もございます」

「へぇ。今は違うの?」

「過去、そういった醜聞スキャンダルがございまして、それより重要視しないようにする風潮が」

「・・・ああうん、ええと、婚約破棄的なもの?」

「ご希望でしたら詳しく説明致しますが一晩では語りきれませんがよろしいですか?」



来たよまたテンプレ。
よくある娯楽小説にある『ざまぁ』という奴ですね?

こちらをどうぞ、とオリアナが数冊の冊子を渡してくる。
過去の出来事を面白おかしく小説にしたものだそうだ。『教訓』らしい。



「・・・随分と拓けたお国柄なのね」

「そうでもしない限り、同じような事が乱発する可能性を考えたのだと思われます。人知れず同様の事はあったのでしょうが、権力のある者同士で起きた事件でしたし」

「連合となる前はこの辺りは小国家の集まりだと言っていたわね。それも関係があるのかしら」

「その通りです。以前は1つの国であったものが崩壊していくつかの集まりとなり、時を経て連合という形を取りました」



小説によると、その『つがい事件』は500年位前の話らしい。当時の王位継承者につがいが見つかった事で、本来のお相手の立場が無いものとされ、すったもんだを巻き起こし…とある。
小説だからこの通りじゃないのかもしれないけど、私の知る『ざまぁ』話と似たものだ。

運命の相手、最強版という所か。獣人族には『つがい』という性質?がある事は種族柄の特性だから大目に見る所もあるのだろうが、それが全てという風潮は無くなっているようだ。

…無くなっている、のは建前だと思うけどね。
だってもう習性であるなら生物上仕方の無い事だろうし。だからって許される事と許されない事の判別は付けてもらわないといけないけど。



「・・・でもどうなのかしら。習性ってそんな簡単になかった事にできないわよね」

「なによ『つがい』の事を言っているの?
私達には理解できないけど、そうね・・・抗えないものらしいわよ?聞くところによるとだけど」

「キャズはどこから聞いてきたのよ」

「冒険者の中にもいるじゃない、獣人族。その子達からよ。
憧れもするけど、同時に恐ろしくもあるって」

「習性、だものねえ。予測なんてできないだろうし。
この本の中にも書いてあるけど『本能で求め合うもの』らしいし。
これ書いた人は憧れてる方なんでしょうね」



フェルにもあるのかしら?しっぽさわり放題よねきっと。
今頃親子水入らず、でこれまでの事やこれからの事を話し合っているのだろう。…通信魔法コールでも送っておくべきなのかしら?さすがに今日はそっとしておきたいわよね。

その他にも、オリアナからはサヴァン伯爵家の事を幾つか教えてもらった。今後役に立つ情報もあるだろうし、時期が良ければまとめてカーク王子に情報を譲ってもいい。
臣籍降下が決まっているが、港湾都市の治世を担うのに、手広く商売ルートを持つ次期サヴァン伯爵の伝手はあってもいいはずだ。
その方がアルゼイド王家の為にもなるだろう。

エドワードはこのまま伯爵になったとしても、シリス王太子の派閥に組み込まれる事はないだろう。
既にそういった位置にいる別の貴族は既にいる。ならば、カーク王子の派閥に組み込まれ、現王家の治世を支える力となる形が望ましい…と思う。

とりあえずこの先は元首親子の出方を待って、という事で話がまとまったのでお開きに。
…オリアナが窓から出ていったが、あの子どこで寝るのかしら。



********************



翌朝、キャズと2人で朝市へ。
ホテルには『朝食』を出す文化はないらしい。普通の家に住む方々も、朝ごはんとは朝市で食べるもの、なのだそうだ。

どこだっけ?台湾とかそうだったわよね?朝粥美味しそうだなあとか思ったもんよ。現実には行けてないんですけど。

朝粥…のようなものはあった。中華粥か?と思ったら単なる白粥でした。トッピングとか乗せ放題。漬物っぽいものから肉野菜炒めまで。謎の物体を佃煮みたいにした物もありました。何か分からないから食べるのはやめたけど。

フルーツジュースとシャキシャキ野菜のサンドイッチ。
手作りハムを何種類か、というチョイスに。

フルーツジュースは好きな果物を好きなだけ選べるという大盤振る舞いでした。スムージーみたいなもの?しかも器がすごく大きい。全て一律LLサイズ。

街の喧騒を聞きながら、朝ごはんを楽しんでいると、制服を着た方が近付いてきた。あれは中央庁舎の制服だったかしら?



「おはようございます、レディ」

「おはようございます。閣下から伝言でもありましたか」



私が答えるより先にキャズが前に立ち、対応する。
ここでやると目立っちゃいそうな気もして、キャズの服の裾をちょいちょいと引っ張る。

一度私を見て、確認するように軽く頷くと席に座ってくれた。
それでもまだ間に入る位置にだが。



「大変失礼致しました。元首閣下よりすぐにお迎えして欲しいとの言付けを預かっております」

「如何致しますか?エンジュ様」

「まあ構わないわ。けれどこちらも食事中なので、半刻ほどくださるかしら。中央官舎へ向かいますから」

「こちらからお迎えは・・・」

「いらないわ。・・・それとも、私はのかしら?」

「っ、!いえ、そのようなことは。では閣下にはそのようにお伝えいたします」

「ええ、そうして」



そこまで言わなくても良かったのかもしれないが、キャズがじとーっとした目で見ていたので、こちらの自由にさせてもらうわ!とアピールしました。

難しいのよこの匙加減!
『相手に侮られず、威張らず』みたいの!
どっちかというと相手の言う通りに動いた方が楽じゃない?ってものなのだが、それではダメだと…隣で睨んでいる人が…



「ちょっと横柄すぎたかしら」

「いいのよそれくらいで。『タロットワークが顎で使われた』なんて思われたらどうなるか」

「どうなるの?」

「私がセバスさんに扱かれるじゃない・・・!」



『扱かれる程度で済めばいいのよ…!』と呟いているキャズ。
心配はそこだったのかキャズよ。詰め込み教育の片鱗がこんな所に。やっぱりダメよね、詰め込み教育。ゆとりって必要だと思うのよ、心のゆとり。



「あんたはゆとり持ちすぎ!」

「脳内読まないでよ」

「そういう顔してるのよ。全く・・・」



私としても横でキャズが『ああでもないこうでもない』と言ってくれるからこその心のゆとりもあると思う。
何せ、オリアナとなれば『主の思うようになさいませ』とばかりに何も言わないから…むしろその信頼が重い。やらかしても私にはそれが『貴族としてアウト』なのか『一般人としてアウト』なのか判断がつかない。

だって貴族のお嬢様育ちじゃないもの、分からないところは多い。

だが、タロットワークの使用人は基本的に『好きなようにしてもらっていい』というウェルカムスタイル。
それはそれで…自分への責任重大よね。何も考えない子供じゃあるまいし、私自身は自分の持つ『価値観』や『一般常識』との擦り合わせに必死だ。しかも私の一般常識は地球向こうの一般常識であって、アースランドこっちの一般庶民の常識とも違う。



「黒歴史が増える・・・!」

「なによその黒歴史って。あんたホントに意味不明な単語出すのやめてちょうだい」

「あるでしょ黒歴史くらい誰にでも」

「だから何なのよその黒歴史・・・って・・・」



呆れ顔で文句を言うキャズの言葉を途中に、私は説明を。
キャズの表情が死んでいきます。

最後には『ええそうよね、そういう事もあるわよね』と若干早口でまくし立てるキャズ。恐らく自分にもあると思い当たったに違いない。

私たちは言葉少なに中央庁舎へ向かう用意をするのだった…

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