異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編~時代の風~

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「ああはいはい、起きます起きます」

「わんっ」



今朝も子犬ちゃんのプニプニ肉球連打で起こされました。
この子、これで私を起こす事を唯一の仕事と認識しているんじゃなかろうか?

結果、昨晩キャズもフェンイルさんも戻りませんでした。
これは例の台詞をお見舞いするチャンス!

顔を洗って歯を磨き、服を着替え、水を飲む。
トントン、と部屋の扉をノックされる。

どうぞ、と答えた後に入ってきたのは、気まずそうにしているキャズ。…と、後ろからフェンイルさん。



「・・・」

「お、オハヨウゴザイマス」

「昨晩はお楽しみでしたね?」

「イヤアアアアアアア!」

「冗談よ冗談」



********************



起きたら、まず知らない部屋だった。
それだけでも十分にしまった、と思ったのに。
隣に灰白色の髪色の、青年が寝ているのを見た時の衝撃たるや。



「っ、!!!!!」

「ん・・・、ああ、起きたか」

「っ、な、なっ! フェンイル、さん!?」

「・・・その反応からすると、戻ったな」



体を起こすと、冒険者といっても遜色ない引き締まった褐色の肌が目に入る。やだ、いい男…って何考えてるのよ私!

ふと自分の姿を認識すれば、生まれたままの姿。
つまり?



「私、えっと、」

「・・・昨日の自分の事を、覚えて?」

「昨日?・・・私、エドワード様に会いに、その後?」

「全て、ではないが」



そのまま前置きされ、フェンイルさんの話に愕然とする。
自分に、薬を漏られた?

あまりの失態に目の前が眩むが、思い出す事もある。



「心当たりが、あるか」

「・・・あの子、レディの前で話すわ。
ごめんなさい、同意もないのに薬を抜く為とはいえ、悪い事をさせたわね」

「こちらはだ。キャズ嬢はとてもだった」

「っ、あは、そう言われると悪い気はしないわね」

「本気だが?」

「っ、! あ、ありがと」



この人、自覚がないのかしら?
エドワード様もそうだけど、こんな事他の女に言ったら大変な事になるわよ?全く。

…ほんの少しだけ、誇らしいような恥ずかしい気持ち。



********************



「────────、という訳」

「・・・らしくないな、と思ったら。まさかねえ」

「私も信じ難いけど、それ以外の心当たりはないわ」

「どう思う?フェル」

「・・・信じたくはないものだが。
キャズ嬢が嘘をつくメリットはなく、昨日の彼女を思い出すにが為に薬を服用するとも思えない。
俺はあの人をそこまで知っているわけではないが、裏切るとも思えないが・・・気をつけるに越したことはないだろうな」



昨日の事を話すキャズに、獣姿になったフェル。
勿論私のモフモフ攻撃を受けています。
私の反対からは、子犬ちゃんとスライムがフェルに構って欲しいとばかりにちょっかいを掛けているが、時折フェルの全力しっぽ攻撃に吹っ飛ばされている。…平和ですね。

まあその事は後で考えるとして。
キャズは2人で話したい事があるらしいので、フェル達を別室へと追いやる。



「で?」

「ああ~、何たる失態!」

「いいじゃない、別に。素敵な思い出?」

「何がよ!!!」

「何も覚えていないの?



ぼっ!と顔を赤らめるキャズ。
これは覚えてるな…そんな自分を認めたくなくて、悶えているというやつか。これぞまさに…



「おめでとう黒歴史」

「こういう時に使うのねそれ!
・・・正直、自分の痴態に頭を抱えたいわ。私あんなにアグレッシブに動くのねああいう時!そして動いていいのね!」

「何も正直に言わなくていいわよ別に」

「違うのよこうする事で自分を認めようと抗ってんのよ!」



どうやら相当いつもよりも夜であったらしい。
…むしろグッジョブ、フェンイルさん。
これエドで発散してたら、永遠に顔合わせるの辛かったんじゃないの?



「助かったわ、エドワード様に襲いかからなくて」

「『襲った』っていう認識はあるのね」

「どうやらそうみたい。ずっと戦闘もしてなかったし、そういう意味でも溜まってたのかもしれないわ。
獣人連合アル・ミラジェに来る前から、事務仕事に忙殺されっぱなしで魔獣の間引きなんかもしてなかったのよ」



まさかの、戦ってなかったから、という理由。
アルマが『戦うと気が昂って収めるのに女が必要』って言ってたけど、戦わなさすぎてもダメって事…?
キャズの場合はそこに『薬』が加わった事で、普段じゃ考えられないレベルの奔放さを出してしまったのか。

話すだけ話したら眠い、と言われたので休ませることに。
入れ違いにフェルが入ってきたので、こちらからも話を。

フェルからは店に入った後からの話を。
最初は見守っていたが、徐々におかしくなっていったようだ、との事。
エドとも話したそうで、なかなか気骨のある男だ、との事。

エドが来るのは夜のため、それまでお互い自由時間とする事に。
勿論大半の時間は、モフらせてもらった。



********************



「お召に従い参上いたしました。エドワード・サヴァンにございます」

「来てくださってありがとう。そちらへお掛けになって」

「ありがとうございます」



指定時間通りに来てくれたエドワード。
この間会った時のラフな服装ではなく、きちんとした上級貴族の振る舞い。赤髪もきちんとセットされ、結構な美男子振り。これはまあ少女から既婚者まで女性を虜にしますよ。

対する私、めっちやラフ。
…すまないという気持ちしか湧かない。



「ごめんなさいね、こんな格好で」

「いえ、どのようなお姿であろうとも、その高貴なる眩さは消える事もございませんよ、レディ」

「お上手ね、エドワード」



何をどうしたらそんなおべっかが使えるんだ?
私の格好、そこらの町娘と寸分違いませんけど!

ヴェール被って歩いてたら、多分貴族の『き』の字も出ないくらい溶け込める自信しかない!
後ろにはいつも通り、キャズとオリアナ。
フェルは子犬とスライムと一緒に別室。子犬が乱入しない為の作戦である。



「大方の話は既に聞いていると思いますが」

「ええ、そちらのシールケ殿より伺っています。
・・・その件について、こちらからお願いをしても?」

「あら、何かしら」

「ありがとうございます。
・・・すみませんが、レディと2話をさせて頂きたい。こちらの要望はそれだけです」

「なっ!」
「・・・」



キャズは声を荒らげるが、オリアナは静かにしている。
まあこれは予想出来た。そして私も想定済みだ。



「2人とも、退出を」

「なっ、エンジュ様」
「畏まりました。参りますよ、

「っ、・・・承知しました」



普段は呼ばない名前呼び。
オリアナからは気迫を感じた。
こういう所、セバスの教えなんだろうな、と思う。
いざと言う時に、主の命令に『否』と言わずに従う。それは全幅の信頼でもあるし、主として信頼でもあるなと思う。

2人が退出しても、エドは黙ったままだった。
私からは言葉を発さない。

しばし、無言の時。
根負けしたのか、エドが軽く嘆息した。



「───流石は、タロットワークの配下ですね。
刺されるかと思いました」

「あら、そんな危険を感じる程、サヴァン伯は私に不埒な思いがあるのかしら?」

「これは手厳しいですね。
・・・貴方に懸想こそすれ、不埒な思いなど寄せませんよ。
ああ、貴方を愛しく思うことこそすら、不埒でしょうか?」

「言葉遊びもお好きなのかしら?
残念ではあるけれど、それはまた次の機会にしていただきたいわ」

「そうですね。今はそのときではない。
若輩の身でありますが、いずれは貴方のお相手として認められたいものですね」



ふっ、と笑うその顔が…
何人の女性を誑かしてきたんだエド…!

ありがとうございますシリス殿下。
貴方の積極的な口説き文句に耐性付いてなければ、私うっかりエドにふらふらしてしまう所でした。

シオンやアルマにも感謝したい。
こっちに来てから積極的、かつ目の保養をしていたおかげで耐性がついています…!

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