交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜

朝永ゆうり

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Epilogue

幸せの未来

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 季節は過ぎ、桜の舞う穏やかな春の日。
 コンペで勝ち取った広告が無事納品され、今日から公開される。

 体験型の広告ということもあり、スマホやテレビの広告だけでなく、実際の鉄道の駅や車内にポスターや、モニターでの動画広告も流れている。

 私は今、悠互さんとふたりで広告のメイン会場となる駅の広場に来ている。

 ここでは、備え付けの大型モニターに広告動画が流れ、その前に体験ブースがある。
 そこには人型ロボットが設置されており、案内係の駅スタッフが笑顔で広告の体験を呼びかけていた。
 ポスターや動画広告をスマホで読み取ると、特設サイトでAIが鉄道についての質問に答えてくれる仕組みになっているのだが、この会場ではロボットがそれを代理してくれるのだ。

 鉄道の質問や歴史に答えてくれるロボットは、会話を楽しみながら鉄道についての理解を深められる。
 もちろん、乗換案内や駅のおすすめスポットなども教えてくれる。

 昼に一度、コンペチームのメンバーと訪れ挨拶をしたけれど、私は終業後、再び悠互さんとここに訪れた。
 純粋に、利用者の反応を見てみたかったのだ。

「すげえ、なにこれ!」

 小学生くらいの男の子が体験ブースへとやってきて、さっそくロボットに手を伸ばした。

「なんでも質問に答えてれるよ。鉄道に関する質問はある?」

 案内係のお姉さんが訊くと、男の子はキラキラと目を輝かせさっそく何かを訊いていた。

 男の子の後ろから、幼い女の子が走ってくる。
 その子を父親らしい男性が抱き上げると、二人の母親らしき女性が案内係と話していた。

 男の子はロボットと楽しそうに会話をしており、それを家族が皆で幸せそうに見守っている。

 自分たちの作った広告が、こうして誰かの笑顔を作る。
 幸せな瞬間だ。

 微笑ましい光景を前に頬を緩ませていると、不意に悠互さんが口を開いた。

「なあ、杷留」

 見上げると、優しく微笑まれた。
 彼が私を名前呼びするときは、オフの時。どうやら、今はもう夫婦の時間らしい。

「いつか子どもができたら、あんな家族になりたいと思う」

 悠互さんはそう言うと、目の前の家族連れを見ながら私の手をきゅっと繋いだ。

「素朴でいい。どこにでもいるような、幸せな家族になりたい」

 切なげに、だけど幸せそうな顔をして、悠互さんが言う。

「なれますよ、きっと。私たちなら」

 私も幸せそうな家族連れを見つめた。
 脳裏に、彼と結婚してからの日々が思い起こされる。

 マイナスから始まった結婚だったけれど、私たちの未来は幸せで溢れている。
 幻なんかじゃない。きちんと先の見える、幸せな未来だ。

 今は、結婚式の準備も始めている。
 彼と築く幸せな家庭を想像し、それだけで胸が満たされる。

 見上げた彼は、まだ先ほどの家族連れを見て、優しく微笑んでいた。

「悠互さん」

 私の声に、彼がこちらを振り向く。

「いつまでも、そばにいさせてください」

 なんとなく伝えたくなって、そう口にする。
 声に出すと恥ずかしい。だけど、顔は逸らさなかった。
 幸せな気持ちを、彼と共有したい。

「もちろんだ。いつまでも、俺の〝家族〟でいてくれ」

 悠互さんの声に、「はい」と頷き、同時に彼の腕にすり寄った。

 いつまでも、幸せな〝家族〟でいようと、胸に誓いを込めて。


〈終〉
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みんなの感想(1件)

鮭ムニエル
2025.03.01 鮭ムニエル

南江ちゃんの「ラブ」攻撃にニヤニヤしちゃいます😏

解除

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