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万雷の拍手
しおりを挟む第三楽章の終わりが見えてくる。
和音を分解した音を奏でると感情を刺激するような響き、さらに短くて早いトリルの技法で迫力を演出。
感情を揺さぶり、聴衆と奏者を完全に惹き付けるその音色はまさに芸術的。
ここまでくれば天板にうつりこむ周囲の様子を観察する余力が生まれる。
思い思いの表情や仕草で感じたものを味わい、余韻に浸る観衆。
あたし自信も、ここまで完璧に演奏できた事に胸が熱くなり、水野先生への思いが込み上げてくる。
ラストは第一楽章の雰囲気で帰結を迎える。
水野先生への思いを抱き、ここまでの演奏に付き合ってくれたピアノに感謝の念。
そしてなにより あたしの演奏を聴いてくれた人達に感謝以上の思い……。
キチンと終わらせて作法に則る事はピアノ奏者として最低限の約束。
静かにゆっくり、パタンと音を立てないように鍵盤蓋を閉めたと同時。
ポツポツとあたしを取り囲む聴衆のあちこちから手を叩く音が響くと、それはあっというまに万雷の拍手へと変わる。
まだ、作法が完全に終わってないのにも関わらず、絶賛するように拍手に包まれる。
雨音のような盛大な拍手に包まれながら、あたしは天板にうつりこむ聴衆を目に礼。
私服の黒いパンツに白いブラウス、いつもなら制服姿だからきにするという事はなかったけど、改めてダサい私服である事を客観的に見るとちょっと恥ずかしい。
水野先生に捧げるレクイエムなんだから、もう少ししっかりとしたものを着てくればよかったと後悔。
学校閉鎖の長期休みでいつものノリ。 取り寄せたスコアブックを受け取った帰りにちょっと演奏して帰るつもりだったけど、まさかのフル演奏で月光。
これだけ人が集まってしまったなら、椅子から降りて立ち上がるとそのままピアノに踵を返す訳にもいかない。
よくあるピアノ演奏会の真似事のように聴衆の前に立って感謝を込めて腰をおる。
よくある演奏会の舞台ではこういう時、マイク片手に『ありがとうございます、本日は…』
で始まる口上でお礼と挨拶。
そしてちょっとしたおしゃべりなんだけど、残念ながら書店に設置されたピアノとスペース。
俗にいうストリートピアノの分類。
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