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番外編
淫魔の贈り物5
しおりを挟む「………っぷ、くくくく」
「おい、笑うな」
「すみません…あまりにも、ブフォッ!」
笑い転げるクジャータの前でギデオンは不機嫌な顔を見せる。眉を寄せたままで睨み付けても、牛首は自分の身体を曲げて笑い続けていた。
「あの……似合ってます」
「バグバグ、無理しないで」
私は小刻みの揺れながら言葉を絞り出す優しいメイドにそっとそう言った。耐え切れないようにバグバグも吹き出す。牛と鳩の首を被った使用人たちがツボにハマって笑い続ける中、城の主である魔王がゆっくり振り向いた。
「………っふ!」
その頭の上には二本の立派な角が生えている。
しかし、魔王の象徴であるその角には今や可愛らしいピンク色の小さなカバーが被せられていた。毛糸で編まれたそれは帽子というには歪で、ところどころ糸が飛び出している。
城を去る前に編んでいたこれらのものがまだ残っていたことに始めは驚いたけれど、バグバグのアドバイスもあって思い切ってギデオンに渡してみた。
そして今に至るわけで。
一通り笑い終えたところで、食堂の窓ガラスを外からノックする音があった。皆で揃ってそちらを見れば、なんとドリアナがふわふわと浮かんでいる。
「開けるな。おいコラ、クジャータ!」
魔王の制止に聞こえないフリを貫いて、クジャータは窓を大きく開け放つ。暖かな風と一緒にサキュバスは部屋の中に舞い降りた。
「やっほー!遊びに来たよ~クロエちゃん」
「ドリアナ、クロエに寄るな!」
ギデオンの手を擦り抜けてドリアナが私の腰に抱き付く。いったい何故彼女がこんなに私に懐いてくれるのか分からないけれど、今ではもう慣れつつある。
すりすりと頬を寄せるドリアナがハッとしたように目を丸くして私から急に顔を離した。口元に手を当てて名探偵よろしく考え込んでいる。
「クロエちゃん」
「な…なんですか?」
「おっぱい大きくなったね?」
「………っな…!」
何を、と言う前にズンズンと歩いて来た魔王が私からサキュバスを引き剥がす。
「痛い痛い!このむっつり変態男!ガフに聞いたんだからね、あんたがクロエちゃんの尻、」
「ドリアナさん……!」
慌てて私が口を塞ぐ前に、パチンッと指を鳴らした魔王が何かをドリアナの口に向かって投げた。悶え苦しむ淫魔の口に入ったものをよく見れば、なんとそれは小さなスライム。
青い顔をしたドリアナが両手を組んで土下座の姿勢に入ったのを見て、ギデオンは再び指を鳴らしてその物体を消し去った。
「……その攻撃はなしでしょうが!」
「喋り続けるお前が悪い。そう言えばドリアナ、クロエに媚薬を渡しただろう?あれほど手を出すなと警告したのによくも余計なことをしてくれたなぁ」
「はて?媚薬……?」
「あの小瓶だ。お前が持たせたって言う琥珀色の」
ああ、と軽い返事をしてドリアナは頭を掻いた。
「あれは酒とハチミツを混ぜた喉の薬よ」
「はぁ?」
「生姜も入れたからポカポカして良いの。確かに渡した時はちょっと揶揄ったけど、べつに何の効果も……あれ?なんで二人して赤い顔してるの?」
バツが悪くて私はギデオンと顔を見合わせる。
何かを察したようにバグバグが「まぁ!」と溢した。
クジャータまでニヤニヤしながらこちらを見ているけれど、この城の使用人は何故こうも魔王の夜事情に興味津々なのだろう。いや、確かに種族の未来は掛かっているんだろうけども。
なんでなんで?と私たちの周りを旋回しながら問い続けるドリアナが部屋を追い出されるまでの十分あまり、私はただただギデオンと気不味い空気に耐えながら痛む腰のことを考えていた。淫魔には真実など語れるはずもない。
◆余談
お話を書くときにそれっぽい音楽を聴くのが好きで、今回はmillennium paradeさんのUを聴いていました。
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