【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

文字の大きさ
30 / 123
告。新入生諸君

3 読めない男 3

しおりを挟む
 その公園は夜桜の隠れた名所だった。女神川学園高校の広大な敷地の東の端。体育科があるエリアの通用口から出ると、すぐに広い公園がある。その中を駅に向かってまっすぐに突っ切る道の両脇に桜の木が植えられていた。電車通学の生徒の多くが使っている道だ。
 公園は学園の一部として扱われているから、アルコール持ち込みや、宴会が禁止されているために、桜を見に来るのは殆どが学園の生徒ばかりだ。特にライトアップされるとか言うわけではないけれど、女神川学園高校体育科のサッカー部が使用しているグランドの夜間練習の明かりで夜でも桜が見られる。だから、部活を終わらせた燈たちはわざわざ遠回りして、公園の中を通って帰る道を選んだ。

「きれーだね」

 上を向いたまま、瞳をきらきらと輝かせて、雫が言った。
 燈たちのほかにも同じ制服を着た人影がちらほら見える。中にはベンチに座ってファストフードの包みを広げているものもいた。それでも、市内にあるほかの公園とは違って酔っ払いや、宴会に興じる集団がいるというようなことはない。
 静かに桜を見るにはもってこいだ。

「ホントそれ」

 背負うタイプのPCバックの肩ひもを両手で握った格好であんぐり。と、口を開けて宙は桜を見ながら答える。4人の中では一番小さい宙は一見中学生のように見えた。

「なんか、帰るだけなの勿体ないな……」

 ぼそり。と、宙が言う。

「勿体ないって……俺は試走でボロボロなんだけど」

 肩をすりすり。と、撫でながら、鼎が泣きごとで答える。
 宙が作った改訂版のプログラムは今度こそ問題なく動いたため、4人は部活終了時刻ギリギリまで粘って、スレイヤー試験対策をしていた。特戦科の生徒は2年生になるとスレイヤーのDランク免許の試験を受ける。試験は国家試験で、2か月に1回全国で行われている。どの時期に試験を受けるかは自由で、大抵は担任や監督官のスレイヤーと相談して決めるのだが、電算部の2年生は部長の命令で有無を言わせずに1回目の試験から参加することを義務付けられていた。スレイヤー免許を所持していないとできない実習(という名のバイト)があるからだ。
 とはいっても、不合格になったとしてもペナルティはない。大抵の2年生は最初の試験は受ける。試験の場の雰囲気に慣れることも大切だし、試験を受けることで見えてくる課題もあるからだ。さらには、3年生終了時までにこの試験に合格しないと放校処分になるため、1回でも多くチャンスが欲しいというのは人情というものだろう。

「本番よりはかなり厳しめに設定しているからね」

 鼎の泣き言に何故か得意げに宙が答えた。
 今日、4人がやっていたのは当然のことながら、座学と実技からなる試験の実技の練習だ。実際にはプロのスレイヤーとの模擬戦闘と数人のグループでミッションをこなす形の試験があるのだが、そのうちのミッションをこなす試験を再現したオリジナルのプログラムを宙が制作したのだ。もちろん、市販のプログラムソフトも存在しているし、学校では貸し出しもしてくれる。ただ、ミッションの内容は毎年変わるため、前例をなぞっていることにあまり意味はない。何が来ても対応できるような柔軟な訓練が必要だ。
 だから、ほぼ無限に内容が変わるソフトを宙が自作したのだった。

「や。てか、あれ。もはや実践レベルだと思う」

 実際には、危険レベルD⁻にも関わらず、何故か異常に強化されてB⁻くらいになった異形が次から次へと現れるのを思い出して、燈は顔をしかめる。そんなプログラムを体力の限界までやり込んできた後のこと。普段は『泣き言言うな』と、ツッコミ役の燈も鼎の泣き言にも頷いた。特に、先鋒の燈はクロに命令しているだけ(偏見)の鼎が疲れていて疲れないわけがない。と、思う。もちろん、プログラムの監視のため半分以上は戦闘に参加していない宙の疲労とは比べるまでもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? 夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

処理中です...