【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

6 刃の資質 2

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「……あー。ちょお。まって」

 そんな茉優の様子を見ているのが耐えられなくなって、燈は結局ダメだと分かっていながら声をかけてしまった。

「……とにかく、座って」

 本当なら、ここでこのまま放っておいた方がいいと燈は思う。それでも、燈は茉優の座っていた席を指さして言った。
 燈の言葉に茉優はそこにいる全員の顔を見まわす。雫は笑顔を崩さない。宙は苦笑い。鼎は天井を見上げてため息を吐く。少し離れたところで、翡翠は微笑んで頷く。それから、トレイに乗せたシフォンケーキを彼女の前に置いた。

「食べていって?」

 翡翠のその言葉に従って、茉優が着席する。続けて、ほかの4人の前にもケーキを置く。翡翠の給仕が終わるのを待って、燈は一息息を吐いた。

「俺は、あの人のこと知らないし。君のことをどう思っているのかも知らない。どの程度の思いなのかも分からない。けど。何もしないでいたら、最悪の事態になることだってありえる」

 相手のことを知りもしないで、相手が一方的に悪いとか、諦めてくれないかもしれないとか、想像で判断するわけにはいかないことを、燈は知っている。反対に相手のことを知りもしないで、楽観視もできない。スレイヤーを目指す以上、いつだって最悪の状況を想定して行動するのは当然だ。

「ってのは、分かってるよな?」

 茉優の方に視線を向けて、燈は言った。
 一瞬燈を見てから、茉優は俯く。

「はい」

 それから、消え入りそうな声で答えた。

「後で恨まれるよりもそっちの方が怖い目に合うかもしれないけど、それでもいいのか?」

 びくり。と、茉優の肩が震える。怯えているのだろうか。多分そうだろう。わかっていて、きつい言葉を選んだ。それが現実だと彼女は知っておいた方がいいと思ったからだ。
 けれど、それでも、彼女は項垂れたまま、小さく頷いた。

「その上で。担任には言いたくない。って、言うんだな?」

 重ねた燈の言葉に、彼女は頷く。
 怯えて逃げ出してくれればいいと、思った。怖い思いをしてまでスレイヤーになりたいと思っているようには見えなかったからだ。しかし、それは、燈の勝手な思い込みだったのかもしれない。彼女は彼女なりの理由があって、スレイヤーを目指しているのだろう。

「……はあ」

 彼女の返答に燈は大きくため息をついた。その先の言葉を言おうかどうか迷う。
 放っておいた方がいい。と、燈の中の誰かが言った。
 どんな理由があってここにいるのだとしても、どの道、彼女がスレイヤーになるのは無理だろう。彼女がしてきた程度の覚悟で異形に立ち向かえはしない。
 けれど、放ってはおけないと、もう一人の自分が言う。そうして放置したことで、最悪の事態が起こらないと保証はない。

「わかったよ。じゃ、とりあえず、電算部に入りな?」

「燈」

 燈の言葉に、茉優は顔を上げ、鼎が声を上げた。
 燈は茉優の方に視線を向け、鼎の方に片手を挙げる。黙っていろ。と、言う仕草だ。何か言いたそうな顔をして、それでも、鼎は何も言わなかった。

「うちの部員に手を出せる奴なんてなかなかいないよ。李先輩怖いし。部員である以上、ちょっかい出されたら黙ってないから」

 宙が強くいられる理由は、電算部の部員だからだ。鼎が口を挟んだのは、宙が守られることを期待して電算部にいると誤解されたくないからだろう。もちろん、電算部の誰一人として、宙がそんなふうに思っているとは思っていない。実際に燈たちの方が宙に助けられる場面は多い。ただ、宙が強くなれるのはいつだってどんな場面だって味方だと信じられる仲間を守りたいからだし、そんな宙だから、仲間は自分よりも宙を優先して守る。
 まだ、入学間もない彼女にそんな仲間がいるはずがない。それに、どうせやめるならと放っておいたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。
 放っておくのは簡単なようでいて、燈には簡単な選択ではなかった。
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