【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

6 刃の資質 4

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 ケーキを食べ終わると、話もそこそこに、茉優は帰ると言い出した。寮で歓迎会があるというのは本当のことだったようだ。学校近くにある雫や小華の寮とは別の女子寮で、少し離れた場所にあるらしい。

「明日、放課後部室に伺います」

 そう言って立ち上がる彼女は、最初に会った時とは別人のように表情が明るくなっていた。

「あ。じゃ、送るよ」

 雫と鼎は学校近くの寮。宙は別の方向に帰るから、茉優の寮と方向が同じ燈は彼女を追って立ち上がる。

「え? いいんですか?」

 ぱあ。と、さらに彼女の表情が嬉しそうにほころぶ。それから、はっとして、顔を伏せる。

「でも、まだお話あるんじゃないですか?」

 他の三人の顔を見まわしてから、彼女は言った。

「いいよ。どうせ明日会うし……それに」

 言いかけて、今度は燈がはっとして言葉を止める。

「や。なんでもない。さっきの人まだその辺にいたらまずいし、俺んちそっちの方だから寮の近くまでは送ってく」

 そして、慌てて言い訳のように付け足した。

「スイさん。5人分、3500円でいいよね」

 さらに、追及はされたくなくて、翡翠の方に向かって言う。

「いいよ。今日は俺の奢り。折角燈がお友達連れてきてくれたしね。そのかわり、ご贔屓にお願いします」

 にっこり。と、笑ってから、翡翠が頭を下げる。相変わらずどんな仕草も綺麗だ。

「それより、もう、帰るの? もう少し待ってれば、帰って……」

「あー。ほら。小林さん。最初から寮の行事、遅刻とかダメだろ?」

 何かを言いかけた翡翠の言葉を遮るように燈は言った。少し、かなり強引だった。電算部メンバーはともかく、翡翠はおかしいことに気付いただろう。と、燈は思う。ただ、それについて翡翠が追求しないだろうことも燈は知っていた。

「お前ら。どうする?」

 取り繕うように、振り返ると、すでに3人も席を立っていた。

「一緒に出るよ」

 ノートPCの入ったバッグを背負いながら宙が答える。

「そんな。私のために皆さんのお邪魔をするなんて……」

「いいよ。俺、明日からの体験入部用のテストプログラム仕上げないといけないし」

「俺も。そろそろクロとシロに飯やらないと」

「私も~。ええっとぉ……うん。自由研究の朝顔にお水あげないといけないから」

 茉優の遠慮の言葉に、宙と鼎と雫の言葉が重なる。若干一名どうでもいい理由があった気がするが、茉優に気を遣わせたくないのか、それ以外の理由があるのかは分からなかった。
 ともかくも、3人とも燈が何かを聞く前に、帰り支度を済ませていた。

「……まいいか」

 何をそんなに慌てて帰ろうとしているんだ。と、聞こうとして、それをやめ、燈も通学用のリュックを背負う。

「ありがとね。スイさん。次からはちゃんと払うから。こいつらも、来たら遠慮なく請求してよ?」

 本来なら、今回だって遠慮するところなのかもしれないけれど、翡翠の優しさに対して燈は遠慮したりしない。それは、和臣と茂之の二人が彼を息子同然と思っているように、燈も翡翠のことを家族同然に思っているからだ。いつも燈が翡翠を喜ばせたいと思うように、翡翠も燈を喜ばせたいと思っているのだと燈にはわかっているからだった。

「うん。わかってる。……でも。燈。次は、逃げるみたいに帰らないでよ? 会いたがってたから」

 ふりふり。と、手を振りながら、翡翠が言う。

「……わかってる」

 翡翠の言葉に燈は小さく返事を返した。『別に逃げてない』と、反論は飲み込む。そんな言葉では翡翠の目は誤魔化せないと知っているからだ。そして、反論をして仲間に何のことかと詮索されたくはないからだ。

「じゃ」

 そう言って、燈は振り返らずにドアを出た。続いて、口々に『ありがとうございました』とか『ごちそうさまです』とか言いながら、電算部のメンバーが出ていく。

「あ」
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