【完結】妹にあげるわ。

たろ

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中編②

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「いらっしゃいませ」

 いつもご贔屓にしてくれる子爵様は、店に入ってくるなり好みの絵画を見つけてはすぐに購入を決めてくれるお得意様。

「おお、店主。この絵は素晴らしい」

「こちらは新進気鋭の画家で風景画を得意としております。ですが今回初めて人物画を描いたそうです……彼の愛した女性との幸せだった日のことを思い出し、二人の後ろ姿を描いております。
 後ろ姿なので二人が今どんな顔をしているのかは想像するしかありませんが……彼の彼女への慈しむ愛を感じますわ」

「そうですね、想像を掻き立てる絵ですね。ぜひ欲しい」

 ーーふふっ、この画家を気に入ってくだされば彼も少しは生活が楽になるわ。
 子供さんも小さいし、少しでも高値で売ってあげないと。

「ありがとうございます、では向こうで商談をしましょう」

 子爵は気に入ればお金に糸目をつけないお方。

 話を進め、絵の販売額が高値になった。画家にはかなりの金額を支払うことができそうなので内心ホッとしていると、何かを子爵が思い出したようで突然わたしに話をふってきた。

「店主、最近コックス侯爵の評判がかなり悪いと耳にしているかい?」

「……ええ、まあ、そうですわね、それとなくは聞いております」

 ーーふふっ、もう首が回らなくなって色んな人たちに借金の申し入れをしているけど誰も相手にしていないらしいのよね。

「もしここに来ても絶対に相手にしないほうがいい。彼らは貴族としての誇りもそしてそれに見合うだけの仕事もしていない。領民から金を巻き上げて遊び呆け贅沢をして使いまくったんだ。今まで支えてきた者たちが屋敷から去ってもうお金も領地運営も回らなくなってしまった。あとは落ちるところまで落ちるしかない。誰も助けようとはしない、君も情はあるだろうが助ける価値のない男だ、絶対にやめておきなさい」

 ーーそんなこと長年虐げられたわたしが一番わかっているわ。
 あの人達に情なんて湧くわけがない。

 だけど………

「ご忠告ありがとうございます。それでもあの人達は……血をわけた家族なのです……やはり心配はしておりますが……平民になったわたしにはなんの力もありませんから……」

 ここはしおらしくして、悲しげな顔を見せた。

「彼らはこの店のことは知っているのか?」

 わたしは首を横に振った。

「知らないと思います……たぶん」

 ーーあの人達が知らない訳ない。だけどこの店の売り上げなんてたかが知れてるから、興味もないのだろう。

 でも……多分、あと少ししたら……


 

  


 嫌な予感だけは当たる。
 思ったよりも早く現れた。



「お姉様ぁ!このお店とても素敵だわ」

「キャサリン様、お貴族であるあなたが平民風情のわたしのお店に来られるなんて……申し訳ありませんがぜひお引き取りを。侯爵家の名が汚れてしまいますわ」

 ーー帰れ帰れ!このお店はあなたなんかが来るところではないわ。

「そんなことないわ。こんなチンケなお店だけどとても綺麗な装飾品もあるし、絵画も素敵。ねぇお姉様ぁ、このお店わたしにちょうだい」

「申し訳ございませんが、『ちょうだい』と言われて差し上げられるものではございません。
 この場所にはわたしが見つけてきた大切な絵画や装飾品が置いてあります。ひとつひとつ価値を見つけ、作家や画家の方達と話をして大切にお預かりして売らせていただいているのですわ、その信頼を壊すことはできません」

 ーーあなたにお店を任せればここに『置いていい』と言ってくださった方達に失礼になるわ。

「どうして?」
 キョトンとするキャサリン。
 ーーハアァ……わたしが今話した言葉の意味が、この子にはわからないのね。

「お姉様がこのお店を出したのでしょう?わたしがこのお店をもらってお姉様が働けばいいじゃない。お店の売り上げだけわたしが貰ってあげるわ、ふふふふ、わたしったらなんて頭がいいのかしら」

 キャサリンはいいことでも思いついたかのように嬉しそうに声を弾ませている。

 ーー頭が痛い。この子は寄生虫なんだわ。

 良かった。早めに侯爵家で働いていたダニエルやマールス達をこのお店から離しておいて。もしこのお店で働いていることがあの両親にバレたら連れ戻されていたわ。

 ダニエル達がいないとあの侯爵家は潰れてしまうしかないものね。躍起になって探しているはずだわ。

 でももうダニエル達をあの屋敷には連れ戻させはしないわ。

 寝る暇もなく働かされ続けボロボロになったわたしの大切な人達。今度はわたしが守るわ。
 ずっと幼い頃からあの屋敷でわたしを守ってくれた人達、今度はわたしが恩返しをするの。

「キャサリン様……このお店のオーナーはわたしです。あなたはただの他人でしかないのにどうしてあなたがお金を貰えるとおもわれるのですか?」

「えっ?だって、お姉様はわたしのお姉様なのよ?お姉様のものは全てわたしのものだもの。わたしが貰うのは当たり前のことでしょう?
 もう!お姉様ったら、どうしてそんなことも分からないのかしら?」

「わたしはキャサリン様とはもう他人です。あなたのご両親から縁を切られております」

「ふふっ、それなら大丈夫だわ。だってわたしは縁など切っていないもの。それは両親だけでしょう?」

 奥にいたお店で働いている女の子にお茶を出すように言った。

「ねぇそこのあなた、わたしにお茶を入れてちょうだい。
 あ、それから、そこにあるブローチ素敵ね。きっとわたしのために作られたものだわ。それから……窓際に置いてある宝石箱もなんて煌びやかで豪華なのかしら?それも持って帰るわ。明日はお父様とお母様も連れてくるわね。
 待っていてね、最近は屋敷の中がなんだか暗くて居心地が悪かったの。
 お父様もお母様もこのお店を見たら喜ぶわ。ここにある物を全部売ればしばらくはまた遊んで暮らせるわ」

 そう言ってお茶を飲みながらお店の中をキョロキョロと見回しているキャサリン。

 ーーこの子は何も変わっていない。今はお金に苦労しているはずなのに。


「もうわたしってほんと天才だわ!
 ねっ?お姉様?早く新しい商品も置いてちょうだい。どんどん売ってね?わたし豪華な装飾が好きなの。絵画はわたしをモデルにしたらどうかしら?たくさん売れると思うの!
 いい考えでしょう?」

 お店の裏にいたハンクスが顔を覗かせている。
 その顔は………心配していたはずなのに呆れていた。

 と思ったら、キャサリンの発言にお腹を抱えて笑っているわ。

 ーーうん、キャサリンをモデルにすること、かなりウケたみたいね。


「今日はとりあえずお帰りください」

 お茶を飲み終わったらキャサリンに帰るように促した。

「どうして?わたしのお店なのに嫌よ!早く今日の売り上げをちょうだい。わたし最近ドレスを作っていないの。美味しいスイーツのお店にも行きたいし遊びにも行きたいわ」

「ケリー様と婚約されたと聞いております。ケリー様に買っていただけばよろしいのでは?」

「ケリー?ケリーは彼のお父様に仕事をするように言われて毎日働いているわ。わたしもうケリーなんていらないの、お姉様にあげるわ」

「ケリー様は貴族です。平民でしかないわたしとは釣り合いませんし、キャサリン様の大切な婚約者でしょう?」

 多分おじ様は、この二人をいずれ放逐するのだろうけど。侯爵家にキャサリンを嫁として迎えることはしないだろう。

 おじ様にとってこの二人は害でしかないもの。

 わたしもそろそろ次の準備をしなくては……

 もうこれ以上この人達と関わりたくないもの。

 キャサリンには少しお金を握らせて帰ってもらった。

 だけどキャサリンのことだから毎日このお店に顔を出しにくるだろう。

 お金を強請りに……はああ。













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