【完結】妹にあげるわ。

たろ

文字の大きさ
5 / 7

中編④

しおりを挟む
 お父様とキャサリンはお店に当たり前のように居座り文句を言い出した。

「もっと金をかけて店内を豪華にみせないと良い客は来ないぞ」
「わたしはもっとぉ可愛らしいピンクとか白を基調にしたお店がいいわ。わたしに似合う可愛いフリルや小物、宝石を沢山置いてわたしの可愛いさをもっとみんなに見てもらいたいの。やっぱり可愛いわたしがお店に居るだけで可愛い物たちも引き立つと思うの、ねっ?」
 満面の笑みで微笑むキャサリン。
 ーー何を言いたいのかよくわからないわ。

「あとぉ、お姉様ぁ、早く画家を呼んでちょうだい。わたしの可愛い絵を沢山描いてもらって早く売り出したいの」
 甘えた声を出すキャサリン。

 ーーどうして自分を描いた絵が売れると思うのかしら?

「おお、それはいい考えだ。うちの可愛いキャサリンの絵ならみんなどんどん買ってくれるだろう」

 わたしとハンクスは二人の馬鹿馬鹿しい会話をうんざりしながら黙って聞いていた。

 二人のこの面白くもない芝居じみた話を聞いていると頭が痛くなる。ハンクスは初めはニコニコしていたが、お父様を見つめる目は冷たく射殺しそうな視線をお父様に何度も送っていた。もちろん能天気なお父様には全く気づかれていない。
 このお店をもらったつもりでご機嫌でいるんだもの。

 ハンクスの実家を陥れたのはもちろんこの目の前にいるお父様だった。

 元子爵家の領地の農作物が不作で食糧難になり困っていることを知り、快く支援して食糧を安い値段で売ったのがお父様だった。

 初めは良好な関係を築いて侯爵である父を信頼していたハンクスの父親。金銭的に余裕がなかった子爵は一応何か担保をと言うことになりハンクスのところで唯一お金になる鉱山を担保にした。

 お父様はその鉱山を狙っていた。

 食糧の値段を少しずつ値上げしていきもうこれ以上支払いはできないところまで追い詰めて最後は鉱山を手に入れた。

 子爵家は全ての財産をお父様に吸い取られ平民になり一家離散。

 子爵家の領地は侯爵家のものになってしまった。

 子爵は今も行方不明。夫人は精神的にも肉体的にも病んでしまいご実家の田舎に引き取られ今も療養中。年老いた平民の両親は娘を引き取るのが精一杯だったらしい。

 娘は行くところがなく孤児院に入れられた。
 そして息子のハンクスは13歳で平民になり、苦労しながら色んなところを渡り歩きなんとか仕事をしながら生きてきた。

 わたしとハンクスが出会ったのは偶然であり必然だった。
 復讐を狙いコックス侯爵の周辺を探っていたハンクスといつかコックス侯爵から逃げ出そうと試行錯誤していたわたし。

 アリス商団を作るきっかけになったのもハンクスの商才を目にしたからだった。

 祖父母の屋敷で使用人として働いていたハンクスは祖父母に頼まれパトロンになっていた画家や芸術家の世話をしていた。わたしもまた彼らの作品に触れ、これらを輩出するための場所を作り出そうと祖父母と動いていた。

 商団を作ること、売り出し方、一人一人の魅力をどうやって売り手に伝えるか、素人のわたし達にアドバイスしてくれたのがハンクス。お金を出したのはもちろん祖父母。
 そしてそのオーナーとして代表になったのがわたし。

 わたしは商才はないけどお金の管理は得意だった。そして芸術家に触れていたおかげで見極めるのが得意だった。
 作品の素晴らしさや目利きだけなら負けない自負がある。自分で創り出せないのだけど。

 こうしてハンクスと共にアリス商団を作り上げて大きくしてきた。

 祖父母と伯母様の嫁ぎ先の公爵家が後ろ盾になってくれたおかげで。

 わたしとハンクスの想いは一つ。

 この侯爵家を潰すこと。そして平民になるであろうこの人達がもう二度とわたし達の前に現れないように徹底的に潰すこと。

 そのためにこのお店を作った。

 今置いてあるものは名もない作品ばかり。

 わたしの大切な芸術家の作品は一つもない。

 この人たちのためにわたしの大切な人達が汚されるなんて絶対に嫌。だから昨日のうちに入れ替えた。

 ここにあるのはサンプル作品。わたしがこんなものが欲しいとわたしが試作品として作ったもので、とてもではないが売り物にはならない物ばかり。

 本物は全てアリス商団の印がどこかに押されている。
 ここにあるのは偽物。

 お父様達にはこのお店のオーナーになってもらい偽物を売ってもらい犯罪者になってもらう。

 ふふふっ。

 平民落ちくらいではまた何をするかわからない。わたしや祖父母にたかってくるかもしれない。

 しっかり犯罪者になってもらって罪を償ってもらわなければ。

 ハンクスの実家や他の低位貴族達にした仕打ちも、表面的には犯罪ではない。きちんと正式な書類を交わし合意のもと契約して、騙して奪っている。

 罪に問えない。

 ならば今度はきちんと罪に問わなければ。

 金銭的に追い込まれた侯爵家にチラつかせたお金になりそうな美術品達。(見た目だけは)

 わたしから奪うのは当たり前だと思っているこの人達にわたしは抵抗しつつも悲しげに奪われる。

「ここの売り上げはわたしが管理しよう」
 お父様がさも当たり前のように言い出した。

「ここはわたしのお店です」
 抵抗するわたしに威圧的な態度を取るお父様。

「お前は父親の言うことを聞けないのか?」

 ーーわたし、籍を抜かれてあなた達とは戸籍上他人ですよね?


「ですが………」

「ええい!うるさい!退け!」

 わたしが何か言い返そうとしたらわたしの腕を掴み椅子から引き摺り、床に叩きつけられた。

「あっ……」
 ーー痛っ。

 ハンクスが怒りでお父様に掴みかかろうとしたのを見て、首を横に振った。

 ーー何があっても手は出さないで!

 わたしはハンクスに目で訴えた。ここで手を出されればハンクスが捕まる。

 いくら落ちぶれて借金まみれでもまだ侯爵なのだ。こんな人達のために捕まるなんて絶対に嫌!

 わたしはこの人達の暴力に慣れている。死ぬことはない。痛みも数日我慢すればいいだけ。

 ハンクスには証人になってもらわなければ。

 耐えて!わたしが目で訴えると唇を噛み締めて悔しそうに耐えてくれている。

 ハンクスには事前に伝えておいた。あの人達はわたしに暴力を振るうだろうけど助けないで欲しいと、死ぬことはないからと。

 だけどハンクスはわたしが本当に暴力を振るわれるところを見たことがなかった。だから目の前で叩かれたりする姿にやはり耐えられなかった。


「やめてください!」

 お父様がわたしを蹴っているのを見て、わたしに覆い被さった。

「蹴るならわたしにしてください」

「ほう、アリスティアの代わりにお前が蹴られたいのか?いいだろう、思う存分蹴ってやる」

 お父様はハンクスを蹴り出した。

 それを座って見ていたキャサリンは愉しそうに笑う。

「やめて!ハンクスを蹴らないで!」

 わたしが泣きながら懇願するのにお父様はやめてくれない。

 借金で首が回らなくなりイライラしていたお父様は、そのストレスをわたしやハンクスを痛めつけることで発散しようとしていた。

 わたしが苦しめば苦しむほど喜ぶ。

 カランカラン。

 玄関の扉についた鈴の音が聞こえた。

 お父様は蹴るのをやめた。

「いらっしゃいませ」

 お客様にやわらかい声を出して迎えた。

「いらっしゃいませ、何をお求めですかぁ?」
 甘ったるい声でキャサリンも接客を始める。

 わたしとハンクスはお客様には見えない場所に横たわっていた。

「ハンクス………ごめんなさい。……大丈夫?」
 泣きそうな顔でわたしが聞くとハンクスは痛いのを我慢してにこりと笑った。

「よかった、こんな痛い思いをアリスティアがしなくて……」
 わたしの頬にそっと手が触れた。

 ーー涙?

 ハンクスはわたしの涙を優しく拭いてくれた。

 もう泣くことなんてないと思っていたのに。まだ涙は枯れていなかった。








しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

妹を叩いた?事実ですがなにか?

基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。 冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。 婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。 そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。 頬を押えて。 誰が!一体何が!? 口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。 あの女…! ※えろなし ※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

欲に負けた婚約者は代償を払う

京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。 そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。 「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」 気が付くと私はゼン先生の前にいた。 起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。 「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

処理中です...