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後編
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「キャ……サ……リ………ン………?」
「ふふっ。やっとわたしのことを普通に呼んでくれたわ。どうしてわたしを見てくれないの?
いつも諦めた顔をしていつもわたしの顔を見てくれない。わたしがあなたに物を強請った時だけわたしを見てくれるの。
ケリーのことだってすぐ諦めてわたしに譲るし、大切な物だってすぐにわたしに譲って……
いつも諦めた顔をして、どんなに苦しめてもわたしのことを見てくれない!わたしは全ての人に愛されるために生きているのに!
どうしてお姉様はわたしを愛してくれないの?」
キャサリンの手は真っ赤に染まっていた。
わたしの血がナイフを握るキャサリンの手に流れている。
キャサリンはナイフを離そうとしない。
ナイフを抜けばわたしはかなりの出血でこのまま死んでしまうかもしれない。
ーーああ、わたしの命も……妹にあげないといけないのかしら?
やっと……自由になれると思ったのに……
この人達からやっと離れられると思ったのに……
ーーあっ……でも………そうしたら……永遠に離れられるわよね?
わたし……は……
愛してしまったハンクス。
彼とももう離れないといけないのね……
復讐したいコックス家の娘だもの。
それでも彼のためにもこの人達を排除したかった……
「アリスティア?アリスティア?」
ハンクスの声が聞こえる。
店に入ってきたフランソア夫人の叫び声が遠くで聞こえてくる。
「きゃあああー、アリスティア!誰か早く馬車!馬車でお医者様のところに!」
キャサリンの体を押し除けてハンクスがわたしを抱きかかえた。
「きゃっ!何するのよ!もうっ!!」
キャサリンは押されて怒りを露わにした。
キャサリンは自分がしたことをなんとも思っていない。押し除けられて不機嫌に喚き散らしていた。
不思議なくらいこの光景を客観的に見れるわたしがいる。
まさかキャサリンがわたしの命まで欲しがるなんて……
「アリスティア?」
お父様が初めてわたしの顔をちゃんと見た。
心配そうにしている?ううん、この顔は違うわ。
多分………とんでもないことが起きて、どうしていいのかわからないと言った感じだわ。
それとも………金蔓が死にそうなので自分のこれからが心配なのかしら?
「早く運んで!」
フランソア夫人の話し声が聞こえる。ハンクスがわたしをふわっと抱きかかえてどこかへ連れて行ってくれる。
「ハンク……ス………あ…いし………」
◆ ◆ ◆
「この人達を捕えなさい!」
フランソア夫人が護衛騎士達に命令してキャサリンと侯爵を捕らえた。
キャサリンの手や顔、ドレスは真っ赤に染まっていた。キャサリンはその手を見ると興奮して目を見開いた。
「お姉様の血………なんて綺麗なの」
周りにいた人達に顔を向けた。
「ほら見てご覧なさい。この真っ赤な色……ふふっ」
手についた血をペロペロと舐め始めた。
騎士達はたじろぎながらも取り押さえた。
「触らないで!そんな汚い手で!」
騎士達はキャサリンの言葉を無視して床に体を押し付け手首を捻り上げた。
「ああああ~、痛いわ!お姉様はどこに行ったの?わたしもっと血が欲しいわ。なんて綺麗なの、宝石よりもドレスよりもお姉様の血は美しいわ」
取り押さえられてもなおキャサリンは恍惚としてその血に見とれていた。
「静かにしろ!」
「おい連れていくぞ」
「わ、わたしは何もしていない。なんでわたしまで連れて行かれなければならないんだ!」
侯爵は腕を掴まれ振り払おうと暴れた。
「あなたは平民であるアリスティアさんとハンクスさんに暴力を奮いました。そしてこのお店を無理やり奪おうとしました。さらに我がご主人を騙し絵画を売りつけました」
「絵、絵は……アリスティアが、そ、そう、アリスティアが売ったんだ!わたしじゃない!ここのオーナーはアリスティアだ!」
「確かに彼女がここのオーナーだと思うわ。でも実際にわたしに売りつけたのはあなただわ。
お金を支払い受け取ってポケットにしまうのを見たわ。それも一度ではなく何度も。
ねぇ、あなた達護衛もそれを見ているわよね?」
「はい」
護衛騎士が頷くと、二人を連れて警備隊のところへ向かった。
「すぐにアリスティアのところへ連れて行って」
フランソア夫人は、二人を捕まえるよりも本当は早くアリスティアのところへ向かいたかった。
だけどアリスティアと約束した。
『フランソア夫人、お願いがあります。平民のわたしではあの二人を捕まえることは難しいのです。わたしがあの二人の犯罪を誘導しますからどうか捕らえて欲しいのです。
あの人達に酷い目にあった人達のためにも絶対に逃したくないのです。あの人達はこの国の貴族と強い繋がりがあります、この国の人達だけでは簡単に言い逃れをして犯罪はなかったものになります。
祖父母や伯母達もお父様のずる賢さに手こずっております。どうかあなたのお力をお貸しください、お願い致します』
コックス侯爵は金に物を言わせて今まで犯罪紛いの事も全て無かったことにしてきた。
いくらお金がなくてもまだまだずる賢い知恵がある。何をしでかすかわからない。
だからこそ祖父母も伯母の公爵家も中まで踏み込めないでいた。そこに多少の情もあったのかもしれないけど。
フランソア夫人は隣国の国王の弟の娘で姪になる。彼女の証言は簡単には覆せない。
これからこの国の汚い膿が出てくるだろう。
◆ ◆ ◆
「アリスティア……いいの?」
「はい、この助かった命、これからはフランソア夫人のために尽くしていきたいと思います」
わたしは一命を取り留めた。
たくさんの出血で一時はもうダメだろうと言われたのに、ハンクスは商団の力をフル活用して他国から有名な医師を連れてきていた。ーーー偶然、母親のために。
意識不明で数日間生死を彷徨っているわたしにハンクスは国内にちょうどいたその医師を連れてきて、わたしの治療を頼んでくれた。
『運』って大事だわ。
まさか助かるなんて。わたしはもう死ぬだろうとあの血を見て覚悟した。
キャサリンの『お姉様の命をちょうだい』の言葉にわたしは『あなたにあげるわ』と言いそうになっていた。たまたま言葉にはならなかったけど。
もしその言葉を発していたら……
もしかしたらもうこの世にはいなかったかも……生きることを諦めていたかもしれない。
薄れゆく意識……ハンクスの腕の中で『生きろ』『死ぬな』『愛しているんだ』と何度もハンクスは言ってくれた。
なのにハンクスは一度も病室にいるわたしの前に顔を出さなかった。
そしてわたしもハンクスを探さない。
終わったのだ。
ハンクスは復讐を。
わたしはあの家族からの自由を取り戻した。
アリス商団はハンクスの名義に変えてもらった。
わたしはこれから隣国へ行く。
フランソア夫人の侍女として生きていくために。
祖父母と伯母様は一緒に暮らそうと言ってくださったけどわたしはこの国を出ることを選んだ。
ただの『アリスティア』として生きていく。
フランソア夫人のそばで働き始め、風の噂で二人がどうなったか耳にした。
キャサリンは殺人未遂の容疑で処刑された。もちろん他にも余罪があった。
たくさんの男を拐かして、何人者令嬢を不幸に陥れていた。その中には自殺した令嬢もいた。
侯爵の名を使い自由奔放に生きた罪は自らの命で償うことになった。
お父様は侯爵位を剥奪され平民となり罪を問われることになった。
たくさんの詐欺や横領などの犯罪が明るみに出たがまだまだ関係者が出てくるであろうことを考え、処刑はされていない。
お父様の元でたくさんの貴族達が甘い汁を吸って生きてきた。その人達もこれから犯罪者として捕まっていくだろう。
祖父母や伯母様達は縁を切っていたため、罪に問われることはない。
それだけでも良かったと胸を撫で下ろした。全く無関係の人たちが巻き込まれなかったのだから。
娘であるわたしも何も罪を問われなかったことに多少の罪悪感を感じていた。わたしが悪いことをしたわけではないけど、あの屋敷で暮らしていたのは確かだし……
だけどフランソア夫人に言われた。
「あなたが何をしたと言うの?あの人達と家族だったことが一度でもあるの?違うわよね?」
そう、わたしは一度も認められていない。
だけど………あとで聞いた話では、キャサリンは姉であるわたしに歪んだ愛情を求めていたと聞いた。
ーーわたしは一度も家族として認められなかった。だけどわたしも彼らを家族として認めることはなかったのかもしれない。
どんなにキャサリンに優しくしてもそれは仕方なくで本当に妹だからとなんでもあげたわけではない。
仕方なく諦めてあげていたのよね。
命まであげようとしたなんて……
ーーーー馬鹿よね。
「フランソア様………わたしの罪はあの家族の元に生まれてしまったことです。これからは静かに罪を償いながら生きていくつもりです」
ーーわたしにできることは……あまりないけど、最近は余暇の時間を孤児院に訪問したりして過ごしている。
ダニエルやマールス、リチャードやリズとの約束は守れなかった。必ずあなた達の元へ帰ると言ったのに……嘘つきでごめんなさい。
だけど…………わたしあなた達を守るって言う約束だけは……守れたかしら?
みんなは今も商団の仕事をしてくれている。
時折りフランソア様と仕事の打ち合わせで会いにきてくれる。
「アリスティア様!」
マールスは今もわたしをお嬢様のように扱う。
「マールス、わたしはもうただの侍女なのよ?『様』はいらないわ。アリスティアと呼んでちょうだい」
「ダメです。僕の中ではあなたはずっとお嬢様なんです。そろそろ戻ってきませんか?ハンクス様も待っています」
わたしは首を横に振る。
ハンクスは商団のオーナーになり、今はお父様に奪われた子爵の地位を取り戻している。
行方不明になっていた父親も炭鉱で細々と働いていたらしい。
今は家族四人、幸せに暮らしている。
だからこそ………
「わたしはこのままでいいの。ハンクスの前に顔を出せないわ。ご両親だって憎い男の娘の顔なんて見たくないと思うもの」
意地になっているわけではないの。
『愛してる』
彼の言葉だけをそっと胸の奥にしまってわたしはこれからも生きていくの。
「アリスティア………」
孤児院の帰り、懐かしい声が聞こえた……
ーーーー気がした。
振り向くと………
わたしは今幸せに暮らしています。
終
◇ ◇ ◇
ショートショートなのに短編?かなぁ。。。
短いお話のつもりが少し長めになってすみませんでした。
いつも予定より長めになる悪い癖……
明日からは
【母になります】を投稿予定です。
アリスティアとハンクスのその後は次の作品でこそっと出てきます。どこかで出てくるので探してみてくださいね。
いつも読んでいただきありがとうございます。
いいね、エール、感想、皆様本当に感謝しております!
「ふふっ。やっとわたしのことを普通に呼んでくれたわ。どうしてわたしを見てくれないの?
いつも諦めた顔をしていつもわたしの顔を見てくれない。わたしがあなたに物を強請った時だけわたしを見てくれるの。
ケリーのことだってすぐ諦めてわたしに譲るし、大切な物だってすぐにわたしに譲って……
いつも諦めた顔をして、どんなに苦しめてもわたしのことを見てくれない!わたしは全ての人に愛されるために生きているのに!
どうしてお姉様はわたしを愛してくれないの?」
キャサリンの手は真っ赤に染まっていた。
わたしの血がナイフを握るキャサリンの手に流れている。
キャサリンはナイフを離そうとしない。
ナイフを抜けばわたしはかなりの出血でこのまま死んでしまうかもしれない。
ーーああ、わたしの命も……妹にあげないといけないのかしら?
やっと……自由になれると思ったのに……
この人達からやっと離れられると思ったのに……
ーーあっ……でも………そうしたら……永遠に離れられるわよね?
わたし……は……
愛してしまったハンクス。
彼とももう離れないといけないのね……
復讐したいコックス家の娘だもの。
それでも彼のためにもこの人達を排除したかった……
「アリスティア?アリスティア?」
ハンクスの声が聞こえる。
店に入ってきたフランソア夫人の叫び声が遠くで聞こえてくる。
「きゃあああー、アリスティア!誰か早く馬車!馬車でお医者様のところに!」
キャサリンの体を押し除けてハンクスがわたしを抱きかかえた。
「きゃっ!何するのよ!もうっ!!」
キャサリンは押されて怒りを露わにした。
キャサリンは自分がしたことをなんとも思っていない。押し除けられて不機嫌に喚き散らしていた。
不思議なくらいこの光景を客観的に見れるわたしがいる。
まさかキャサリンがわたしの命まで欲しがるなんて……
「アリスティア?」
お父様が初めてわたしの顔をちゃんと見た。
心配そうにしている?ううん、この顔は違うわ。
多分………とんでもないことが起きて、どうしていいのかわからないと言った感じだわ。
それとも………金蔓が死にそうなので自分のこれからが心配なのかしら?
「早く運んで!」
フランソア夫人の話し声が聞こえる。ハンクスがわたしをふわっと抱きかかえてどこかへ連れて行ってくれる。
「ハンク……ス………あ…いし………」
◆ ◆ ◆
「この人達を捕えなさい!」
フランソア夫人が護衛騎士達に命令してキャサリンと侯爵を捕らえた。
キャサリンの手や顔、ドレスは真っ赤に染まっていた。キャサリンはその手を見ると興奮して目を見開いた。
「お姉様の血………なんて綺麗なの」
周りにいた人達に顔を向けた。
「ほら見てご覧なさい。この真っ赤な色……ふふっ」
手についた血をペロペロと舐め始めた。
騎士達はたじろぎながらも取り押さえた。
「触らないで!そんな汚い手で!」
騎士達はキャサリンの言葉を無視して床に体を押し付け手首を捻り上げた。
「ああああ~、痛いわ!お姉様はどこに行ったの?わたしもっと血が欲しいわ。なんて綺麗なの、宝石よりもドレスよりもお姉様の血は美しいわ」
取り押さえられてもなおキャサリンは恍惚としてその血に見とれていた。
「静かにしろ!」
「おい連れていくぞ」
「わ、わたしは何もしていない。なんでわたしまで連れて行かれなければならないんだ!」
侯爵は腕を掴まれ振り払おうと暴れた。
「あなたは平民であるアリスティアさんとハンクスさんに暴力を奮いました。そしてこのお店を無理やり奪おうとしました。さらに我がご主人を騙し絵画を売りつけました」
「絵、絵は……アリスティアが、そ、そう、アリスティアが売ったんだ!わたしじゃない!ここのオーナーはアリスティアだ!」
「確かに彼女がここのオーナーだと思うわ。でも実際にわたしに売りつけたのはあなただわ。
お金を支払い受け取ってポケットにしまうのを見たわ。それも一度ではなく何度も。
ねぇ、あなた達護衛もそれを見ているわよね?」
「はい」
護衛騎士が頷くと、二人を連れて警備隊のところへ向かった。
「すぐにアリスティアのところへ連れて行って」
フランソア夫人は、二人を捕まえるよりも本当は早くアリスティアのところへ向かいたかった。
だけどアリスティアと約束した。
『フランソア夫人、お願いがあります。平民のわたしではあの二人を捕まえることは難しいのです。わたしがあの二人の犯罪を誘導しますからどうか捕らえて欲しいのです。
あの人達に酷い目にあった人達のためにも絶対に逃したくないのです。あの人達はこの国の貴族と強い繋がりがあります、この国の人達だけでは簡単に言い逃れをして犯罪はなかったものになります。
祖父母や伯母達もお父様のずる賢さに手こずっております。どうかあなたのお力をお貸しください、お願い致します』
コックス侯爵は金に物を言わせて今まで犯罪紛いの事も全て無かったことにしてきた。
いくらお金がなくてもまだまだずる賢い知恵がある。何をしでかすかわからない。
だからこそ祖父母も伯母の公爵家も中まで踏み込めないでいた。そこに多少の情もあったのかもしれないけど。
フランソア夫人は隣国の国王の弟の娘で姪になる。彼女の証言は簡単には覆せない。
これからこの国の汚い膿が出てくるだろう。
◆ ◆ ◆
「アリスティア……いいの?」
「はい、この助かった命、これからはフランソア夫人のために尽くしていきたいと思います」
わたしは一命を取り留めた。
たくさんの出血で一時はもうダメだろうと言われたのに、ハンクスは商団の力をフル活用して他国から有名な医師を連れてきていた。ーーー偶然、母親のために。
意識不明で数日間生死を彷徨っているわたしにハンクスは国内にちょうどいたその医師を連れてきて、わたしの治療を頼んでくれた。
『運』って大事だわ。
まさか助かるなんて。わたしはもう死ぬだろうとあの血を見て覚悟した。
キャサリンの『お姉様の命をちょうだい』の言葉にわたしは『あなたにあげるわ』と言いそうになっていた。たまたま言葉にはならなかったけど。
もしその言葉を発していたら……
もしかしたらもうこの世にはいなかったかも……生きることを諦めていたかもしれない。
薄れゆく意識……ハンクスの腕の中で『生きろ』『死ぬな』『愛しているんだ』と何度もハンクスは言ってくれた。
なのにハンクスは一度も病室にいるわたしの前に顔を出さなかった。
そしてわたしもハンクスを探さない。
終わったのだ。
ハンクスは復讐を。
わたしはあの家族からの自由を取り戻した。
アリス商団はハンクスの名義に変えてもらった。
わたしはこれから隣国へ行く。
フランソア夫人の侍女として生きていくために。
祖父母と伯母様は一緒に暮らそうと言ってくださったけどわたしはこの国を出ることを選んだ。
ただの『アリスティア』として生きていく。
フランソア夫人のそばで働き始め、風の噂で二人がどうなったか耳にした。
キャサリンは殺人未遂の容疑で処刑された。もちろん他にも余罪があった。
たくさんの男を拐かして、何人者令嬢を不幸に陥れていた。その中には自殺した令嬢もいた。
侯爵の名を使い自由奔放に生きた罪は自らの命で償うことになった。
お父様は侯爵位を剥奪され平民となり罪を問われることになった。
たくさんの詐欺や横領などの犯罪が明るみに出たがまだまだ関係者が出てくるであろうことを考え、処刑はされていない。
お父様の元でたくさんの貴族達が甘い汁を吸って生きてきた。その人達もこれから犯罪者として捕まっていくだろう。
祖父母や伯母様達は縁を切っていたため、罪に問われることはない。
それだけでも良かったと胸を撫で下ろした。全く無関係の人たちが巻き込まれなかったのだから。
娘であるわたしも何も罪を問われなかったことに多少の罪悪感を感じていた。わたしが悪いことをしたわけではないけど、あの屋敷で暮らしていたのは確かだし……
だけどフランソア夫人に言われた。
「あなたが何をしたと言うの?あの人達と家族だったことが一度でもあるの?違うわよね?」
そう、わたしは一度も認められていない。
だけど………あとで聞いた話では、キャサリンは姉であるわたしに歪んだ愛情を求めていたと聞いた。
ーーわたしは一度も家族として認められなかった。だけどわたしも彼らを家族として認めることはなかったのかもしれない。
どんなにキャサリンに優しくしてもそれは仕方なくで本当に妹だからとなんでもあげたわけではない。
仕方なく諦めてあげていたのよね。
命まであげようとしたなんて……
ーーーー馬鹿よね。
「フランソア様………わたしの罪はあの家族の元に生まれてしまったことです。これからは静かに罪を償いながら生きていくつもりです」
ーーわたしにできることは……あまりないけど、最近は余暇の時間を孤児院に訪問したりして過ごしている。
ダニエルやマールス、リチャードやリズとの約束は守れなかった。必ずあなた達の元へ帰ると言ったのに……嘘つきでごめんなさい。
だけど…………わたしあなた達を守るって言う約束だけは……守れたかしら?
みんなは今も商団の仕事をしてくれている。
時折りフランソア様と仕事の打ち合わせで会いにきてくれる。
「アリスティア様!」
マールスは今もわたしをお嬢様のように扱う。
「マールス、わたしはもうただの侍女なのよ?『様』はいらないわ。アリスティアと呼んでちょうだい」
「ダメです。僕の中ではあなたはずっとお嬢様なんです。そろそろ戻ってきませんか?ハンクス様も待っています」
わたしは首を横に振る。
ハンクスは商団のオーナーになり、今はお父様に奪われた子爵の地位を取り戻している。
行方不明になっていた父親も炭鉱で細々と働いていたらしい。
今は家族四人、幸せに暮らしている。
だからこそ………
「わたしはこのままでいいの。ハンクスの前に顔を出せないわ。ご両親だって憎い男の娘の顔なんて見たくないと思うもの」
意地になっているわけではないの。
『愛してる』
彼の言葉だけをそっと胸の奥にしまってわたしはこれからも生きていくの。
「アリスティア………」
孤児院の帰り、懐かしい声が聞こえた……
ーーーー気がした。
振り向くと………
わたしは今幸せに暮らしています。
終
◇ ◇ ◇
ショートショートなのに短編?かなぁ。。。
短いお話のつもりが少し長めになってすみませんでした。
いつも予定より長めになる悪い癖……
明日からは
【母になります】を投稿予定です。
アリスティアとハンクスのその後は次の作品でこそっと出てきます。どこかで出てくるので探してみてくださいね。
いつも読んでいただきありがとうございます。
いいね、エール、感想、皆様本当に感謝しております!
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感想ありがとうございました。
それも考えたのですが、もう二度とアリスティアに会わせないのはこれが一番かなと思ってしまいました。