3 / 45
第一部: 終わりと始まりの日 - 第一章: 地方都市郊外の学園にて
第一話: とある学舎、恋に落ちた男
しおりを挟む
恋は素晴らしい。
人類が言語という能力を得て以来、どれだけ同様の言葉が発せられてきたのだろうか。
現実だけに留まらず創作の中でも月並みな、それでもなお流行り廃りの影響を受けることなく依然として使われ続けている不朽のフレーズ……。
もちろん、誰しもが無邪気に恋愛というものを賛美するわけではなかろう。
ときに人を狂わせ、風紀を乱すなどとして忌避する向きもあるはずだ。
対象を選ばない愛こそが純粋であり、恋は肉欲に過ぎないとする高尚な論説さえ耳にする。
しかし、それらでさえ恋が無視できないほど強い感情であることを否定しない。
ならば、やはり多くの人々にとって、とりわけ恋の只中にいる人々にとって、それはまさしく素晴らしいものと言ってしまってよいのかも知れない。
とは言え、僕はまさか自分がそれを実感することになるとは想像だにしていなかった。
ひょっとすると、物心もつかぬ幼少期になら淡い憧れを懐いたことくらいはあったやも?
だが、記憶にある限りでは、気になる女子への拙いアプローチや、似合わないオシャレで街に繰り出すというような思春期の男子にありがちな行動へ走ったりはせず、結果として、さしたる縁も得られなかった僕の胸にその感情が宿ることはなかった。
残念ながら、見知らぬ誰かから愛の告白を受けるようなイケてる人種でもないし……くっ。
そもそも僕は人間が苦手だ。
本質的に、いわゆるコミュ障というやつなのだろう。
人間嫌いや孤独好きを気取るわけではなく、表面上の人付き合い自体はさほど苦にならないが、一定のラインを越えて積極的に、頻繁に、深く誰かと係わりたいかと問われれば、角を立てずに断れる理由がないかと探し始めてしまうし、そうすべき必要もなく自分から踏み込めもしない。
いわんや、その相手が異性であれば尚更のこと。
性別を問わず友人知人は多くても、親友と呼べる相手はごく僅か、恋人ができたことはない。
きっと自分は一生このまま行くのだろうな……と、特に悲観するでもなく思っていた。
彼女に出逢うまでは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本日より皆さんと同じ学舎にてご一緒することとなりました、美須磨月子と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
手続きや転入試験に訪れた姿を目撃でもされたのか、数日も前から噂となり、今日に至っては朝から生徒・教師の別なく全校中の話題をさらっていた転校生の少女は、クラスメイトたち――呼吸することすら忘れたかのように丸く口を開け、まばたきもせず両の眼を見開いたまま一様に固まっているその一人一人をゆっくり見渡した後、短くそう挨拶した。
背に長くまっすぐ垂らされた繊細優美な黒髪。
細い三つ編みでハーフアップにまとめられているが、その後ろ髪の先端と額にかかった前髪はキッチリ水平に切り揃えられ、俗に言うお姫様カットとなっている。
化粧っけはまるで感じさせず、学生としては正しい姿なれど、今時の女子校生を基準にすれば、たとえ校内であっても地味と評されかねないファッションに思えてしまう。
手違いで用意が間に合わなかったのか、有名な私立進学校のブレザーをそのまま着用しており、一流デザイナーの手による本校の制服と比べれば、これも少々やぼったい印象を与えるはずだ。
尤も、それはあくまで通常であればの話。
朝礼の開始と共に、扉を静かに開いて教室へ入ってきた彼女を目にしたクラス一同は、そんな装飾の貧弱さを意識する間もなく、皆一斉に息を呑んだ。
『絶世の美貌』という言葉を視覚化させたらこうなったと言わんばかりの理想的造形。
黒目がちの大きな目は、やや吊り上がっているにも拘わらずキツさや威圧感など受けない。
小さい割りに意外と高い鼻は、それでも顔全体のバランスを崩さず、むしろ整えているようだ。
極めつけ、自然な微笑みを形作る、薄い薔薇色の唇に心が惹きつけられる。
いや、顔だけではなかった。
背は低からず高からず、すらりと細いスレンダーな体付き。……が、まぁ、なんだ。けっこうメリハリはある様子。しかし、洗練された立ち居振る舞いと相まってエロスなどよりも先にただひたすら『綺麗』という印象だけが残される。
柔らかそうな、淡い黄白色の艶やかな肌には、指の先まで黒子ひとつ染みひとつ無い。
そして発せられる、空気を震わさず直接頭の中に響いてくるかの如き玲瓏たるクリアボイス。
そろそろ衝撃から立ち直り、質問や歓声の一つでも上がるのではないかという間が置かれても、僕を含めたクラス全員、まだ呆然と彼女に見惚れており、誰ひとり新たな反応を起こさずにいた。
「あー、それじゃ、みんな親切にしてあげるように。美須磨、そこの空いている席に着いてくれ」
「はい、先生」
『止まった時間の中、たった一人だけ自由に動くことを許された妖精の女王か何かかな?』
昔の詩人でも詠わなそうなことを大袈裟とすら思わず、何となし思い浮かべてしまう。
が、まさしくそんな感じ、彼女は周りの雰囲気を訝しむ様子も見せずマイペースに指定された席へと向かい、机の上に鞄を置くと、片手でスカートを整えながら静かに腰を下ろす。
音も立てず引かれた椅子が、最後に軽くことんと脚を鳴らした瞬間、ようやく空気が弛んだ。
それでもなお固唾を呑むような緊張感に包まれ、そのまま始まったホームルームの伝達事項をちゃんと聞いているのかいないのか、皆が皆、そわそわとして落ち着かない。
私語をする者こそいないが、比較的大胆な幾人かは繰り返し、そうでない者も控えめながら、先ほど埋められたばかりの席の方へちらっちらっと視線を向けていく。
やがてホームルームを終え、誰が最初に動くのか牽制し合ってでもいそうな物々しさが漂う中、面倒見の良い学級委員長が席を立ち、転校生に声を掛けたのを確認したところで僕は教室を出た。
いつも通り、落ち着きのある態度は取れていたと思うが、挙動不審ではなかったろうか?
内側から胸が破裂してしまいそうなほど激しく鼓動を打ち続ける心の臓……。
朝、彼女に挨拶されてからずっとこうだ。
気を抜けば、目は絶えずその姿を追おうとし、口は益体もないことを吐き出しかける。
柄でもなく踊り出しそうなほど高いテンションを抑えつけるために、過去に覚えがないほどの労力を掛けられていた。
自分自身の心と体だというのに、まるで制御できそうにない。
何事に対しても淡泊なつもりでいた僕が、生まれて初めて強い情動に支配されている。
『あぁ、これが噂に聞くアレか? アレなのか?』
その方面の経験がまったくない僕でも、流石にここまでくれば自覚する他ない。
これは恋だ。
どうやら僕は、恋に落ちた……らしい。
おいおい、何考えてるんだ。高嶺の花にも程があるだろう。身の程をわきまえろ。って言うか、僕は面食いだったのだろうか。一目惚れって……お前……。しかも女子高生とか……、いろいろありえなさすぎて自分で自分に呆れる。は? 恋? アホか、そんなこと他人に知られるだけで身の破滅だぞ。ちゃんと分かってるんだろうな?
そう、もちろん分かっている。この感情は何があろうと絶対に表に出してはならない、と。
これといった取り得はなく、性格は悪人ではないが善人というほどでもない普通、容姿なんて特徴的な団子鼻のお蔭でどう贔屓目に言っても中の下といったところ。家柄や生まれに至っては自己紹介で述べることすら些か以上の勇気がいる。
いや、そうじゃないだろう。僕と彼女の釣り合いだとか、恋が成就する可能性がゼロだとか、そんなことさえ極めて些細な問題でしかないのだ。
何故ならば、僕こと白埜松悟は、この名門私立女学園高等部の男性教師(三十代独身)であり、年甲斐もなく惚れてしまった相手はあろうことか担任クラスの生徒なのだから。
これでもご父兄の皆様方や学園内外の関係各所すべての信頼を背負い雇用されている立場だ。
生徒をそのような対象として見て良いはずがないし、密かに内心で想うだけであったとしてもうっかり特別扱いすることに繋がりかねない。
うん、考えれば考えるほどありえないな。
そもそも、あまりにも綺麗な少女を目にした感動を、恋などと勘違いしている可能性はないか?
たとえば、もしも国民的アイドルが突然目の前に現れたりしたら、誰であっても今の僕と似た精神状態に陥るんじゃなかろうか。その人物の老若男女を問わず。
そうだ、しばらく時間が経ち、その存在に慣れていけば次第に落ち着いていくはず。
良くも悪くも目立ってしまい、何かと特別扱いされがちな転校生というレッテルが剥がされる頃になれば、僕も教師として彼女のことを等しく可愛い大勢の教え子たちの中の一人だと正常に認識し、妙な意識をせず振る舞えるようになるに違いない。
この時期――二年生の二学期初めに転校してきた美須磨月子と接する時間は、残り一年半程度。
これまで問題なく三十年以上生きてきて、既に人生折り返しに入った僕にとっては、それこそあっという間に過ぎていく時間のはずである。
教師生活も十年超。裕福な家庭の子女ばかりが通う本校は、名家として知られる家のご令嬢も少なくなく、家柄と容姿のレベルが必ず正比例するとは限らないにしても、見目麗しい美少女はそれなりの割合で在籍し、そんな環境で一度たりとも心乱されず教師を勤め上げてきたのだ。
……て言うか、僕はロリコンじゃない。信じてほしい。僕はロリコンじゃない。
誰に対して、何に対してなのかも定かでなくなってきた弁明を頭の中でしつつ、一向に治まる気配のない激しい動悸を僕は持て余すのだった。
************************************************
美須磨の発音は“何時か”や“静か”と一緒です。
“み\すま”の“み”にアクセントですね。
あ、白埜はどうでも良いです。お好きなように呼んでやってください。
人類が言語という能力を得て以来、どれだけ同様の言葉が発せられてきたのだろうか。
現実だけに留まらず創作の中でも月並みな、それでもなお流行り廃りの影響を受けることなく依然として使われ続けている不朽のフレーズ……。
もちろん、誰しもが無邪気に恋愛というものを賛美するわけではなかろう。
ときに人を狂わせ、風紀を乱すなどとして忌避する向きもあるはずだ。
対象を選ばない愛こそが純粋であり、恋は肉欲に過ぎないとする高尚な論説さえ耳にする。
しかし、それらでさえ恋が無視できないほど強い感情であることを否定しない。
ならば、やはり多くの人々にとって、とりわけ恋の只中にいる人々にとって、それはまさしく素晴らしいものと言ってしまってよいのかも知れない。
とは言え、僕はまさか自分がそれを実感することになるとは想像だにしていなかった。
ひょっとすると、物心もつかぬ幼少期になら淡い憧れを懐いたことくらいはあったやも?
だが、記憶にある限りでは、気になる女子への拙いアプローチや、似合わないオシャレで街に繰り出すというような思春期の男子にありがちな行動へ走ったりはせず、結果として、さしたる縁も得られなかった僕の胸にその感情が宿ることはなかった。
残念ながら、見知らぬ誰かから愛の告白を受けるようなイケてる人種でもないし……くっ。
そもそも僕は人間が苦手だ。
本質的に、いわゆるコミュ障というやつなのだろう。
人間嫌いや孤独好きを気取るわけではなく、表面上の人付き合い自体はさほど苦にならないが、一定のラインを越えて積極的に、頻繁に、深く誰かと係わりたいかと問われれば、角を立てずに断れる理由がないかと探し始めてしまうし、そうすべき必要もなく自分から踏み込めもしない。
いわんや、その相手が異性であれば尚更のこと。
性別を問わず友人知人は多くても、親友と呼べる相手はごく僅か、恋人ができたことはない。
きっと自分は一生このまま行くのだろうな……と、特に悲観するでもなく思っていた。
彼女に出逢うまでは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本日より皆さんと同じ学舎にてご一緒することとなりました、美須磨月子と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
手続きや転入試験に訪れた姿を目撃でもされたのか、数日も前から噂となり、今日に至っては朝から生徒・教師の別なく全校中の話題をさらっていた転校生の少女は、クラスメイトたち――呼吸することすら忘れたかのように丸く口を開け、まばたきもせず両の眼を見開いたまま一様に固まっているその一人一人をゆっくり見渡した後、短くそう挨拶した。
背に長くまっすぐ垂らされた繊細優美な黒髪。
細い三つ編みでハーフアップにまとめられているが、その後ろ髪の先端と額にかかった前髪はキッチリ水平に切り揃えられ、俗に言うお姫様カットとなっている。
化粧っけはまるで感じさせず、学生としては正しい姿なれど、今時の女子校生を基準にすれば、たとえ校内であっても地味と評されかねないファッションに思えてしまう。
手違いで用意が間に合わなかったのか、有名な私立進学校のブレザーをそのまま着用しており、一流デザイナーの手による本校の制服と比べれば、これも少々やぼったい印象を与えるはずだ。
尤も、それはあくまで通常であればの話。
朝礼の開始と共に、扉を静かに開いて教室へ入ってきた彼女を目にしたクラス一同は、そんな装飾の貧弱さを意識する間もなく、皆一斉に息を呑んだ。
『絶世の美貌』という言葉を視覚化させたらこうなったと言わんばかりの理想的造形。
黒目がちの大きな目は、やや吊り上がっているにも拘わらずキツさや威圧感など受けない。
小さい割りに意外と高い鼻は、それでも顔全体のバランスを崩さず、むしろ整えているようだ。
極めつけ、自然な微笑みを形作る、薄い薔薇色の唇に心が惹きつけられる。
いや、顔だけではなかった。
背は低からず高からず、すらりと細いスレンダーな体付き。……が、まぁ、なんだ。けっこうメリハリはある様子。しかし、洗練された立ち居振る舞いと相まってエロスなどよりも先にただひたすら『綺麗』という印象だけが残される。
柔らかそうな、淡い黄白色の艶やかな肌には、指の先まで黒子ひとつ染みひとつ無い。
そして発せられる、空気を震わさず直接頭の中に響いてくるかの如き玲瓏たるクリアボイス。
そろそろ衝撃から立ち直り、質問や歓声の一つでも上がるのではないかという間が置かれても、僕を含めたクラス全員、まだ呆然と彼女に見惚れており、誰ひとり新たな反応を起こさずにいた。
「あー、それじゃ、みんな親切にしてあげるように。美須磨、そこの空いている席に着いてくれ」
「はい、先生」
『止まった時間の中、たった一人だけ自由に動くことを許された妖精の女王か何かかな?』
昔の詩人でも詠わなそうなことを大袈裟とすら思わず、何となし思い浮かべてしまう。
が、まさしくそんな感じ、彼女は周りの雰囲気を訝しむ様子も見せずマイペースに指定された席へと向かい、机の上に鞄を置くと、片手でスカートを整えながら静かに腰を下ろす。
音も立てず引かれた椅子が、最後に軽くことんと脚を鳴らした瞬間、ようやく空気が弛んだ。
それでもなお固唾を呑むような緊張感に包まれ、そのまま始まったホームルームの伝達事項をちゃんと聞いているのかいないのか、皆が皆、そわそわとして落ち着かない。
私語をする者こそいないが、比較的大胆な幾人かは繰り返し、そうでない者も控えめながら、先ほど埋められたばかりの席の方へちらっちらっと視線を向けていく。
やがてホームルームを終え、誰が最初に動くのか牽制し合ってでもいそうな物々しさが漂う中、面倒見の良い学級委員長が席を立ち、転校生に声を掛けたのを確認したところで僕は教室を出た。
いつも通り、落ち着きのある態度は取れていたと思うが、挙動不審ではなかったろうか?
内側から胸が破裂してしまいそうなほど激しく鼓動を打ち続ける心の臓……。
朝、彼女に挨拶されてからずっとこうだ。
気を抜けば、目は絶えずその姿を追おうとし、口は益体もないことを吐き出しかける。
柄でもなく踊り出しそうなほど高いテンションを抑えつけるために、過去に覚えがないほどの労力を掛けられていた。
自分自身の心と体だというのに、まるで制御できそうにない。
何事に対しても淡泊なつもりでいた僕が、生まれて初めて強い情動に支配されている。
『あぁ、これが噂に聞くアレか? アレなのか?』
その方面の経験がまったくない僕でも、流石にここまでくれば自覚する他ない。
これは恋だ。
どうやら僕は、恋に落ちた……らしい。
おいおい、何考えてるんだ。高嶺の花にも程があるだろう。身の程をわきまえろ。って言うか、僕は面食いだったのだろうか。一目惚れって……お前……。しかも女子高生とか……、いろいろありえなさすぎて自分で自分に呆れる。は? 恋? アホか、そんなこと他人に知られるだけで身の破滅だぞ。ちゃんと分かってるんだろうな?
そう、もちろん分かっている。この感情は何があろうと絶対に表に出してはならない、と。
これといった取り得はなく、性格は悪人ではないが善人というほどでもない普通、容姿なんて特徴的な団子鼻のお蔭でどう贔屓目に言っても中の下といったところ。家柄や生まれに至っては自己紹介で述べることすら些か以上の勇気がいる。
いや、そうじゃないだろう。僕と彼女の釣り合いだとか、恋が成就する可能性がゼロだとか、そんなことさえ極めて些細な問題でしかないのだ。
何故ならば、僕こと白埜松悟は、この名門私立女学園高等部の男性教師(三十代独身)であり、年甲斐もなく惚れてしまった相手はあろうことか担任クラスの生徒なのだから。
これでもご父兄の皆様方や学園内外の関係各所すべての信頼を背負い雇用されている立場だ。
生徒をそのような対象として見て良いはずがないし、密かに内心で想うだけであったとしてもうっかり特別扱いすることに繋がりかねない。
うん、考えれば考えるほどありえないな。
そもそも、あまりにも綺麗な少女を目にした感動を、恋などと勘違いしている可能性はないか?
たとえば、もしも国民的アイドルが突然目の前に現れたりしたら、誰であっても今の僕と似た精神状態に陥るんじゃなかろうか。その人物の老若男女を問わず。
そうだ、しばらく時間が経ち、その存在に慣れていけば次第に落ち着いていくはず。
良くも悪くも目立ってしまい、何かと特別扱いされがちな転校生というレッテルが剥がされる頃になれば、僕も教師として彼女のことを等しく可愛い大勢の教え子たちの中の一人だと正常に認識し、妙な意識をせず振る舞えるようになるに違いない。
この時期――二年生の二学期初めに転校してきた美須磨月子と接する時間は、残り一年半程度。
これまで問題なく三十年以上生きてきて、既に人生折り返しに入った僕にとっては、それこそあっという間に過ぎていく時間のはずである。
教師生活も十年超。裕福な家庭の子女ばかりが通う本校は、名家として知られる家のご令嬢も少なくなく、家柄と容姿のレベルが必ず正比例するとは限らないにしても、見目麗しい美少女はそれなりの割合で在籍し、そんな環境で一度たりとも心乱されず教師を勤め上げてきたのだ。
……て言うか、僕はロリコンじゃない。信じてほしい。僕はロリコンじゃない。
誰に対して、何に対してなのかも定かでなくなってきた弁明を頭の中でしつつ、一向に治まる気配のない激しい動悸を僕は持て余すのだった。
************************************************
美須磨の発音は“何時か”や“静か”と一緒です。
“み\すま”の“み”にアクセントですね。
あ、白埜はどうでも良いです。お好きなように呼んでやってください。
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる