シールディザイアー ~双世の精霊術師、遙か高嶺に手を伸ばし~

プロエトス

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第一部: 終わりと始まりの日 - 第一章: 地方都市郊外の学園にて

第十一話: 二人の路地裏逃走劇

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 謎の少女に手を引かれ、狭い路地からメイン通りへと出た途端。

――ガツっ! ガツっ!

 いささか軽く響くそんな音と共に、近くにあった立て看板がドッ! ドッ!と音を鳴らして揺れる。

 最初に音が鳴った左手方向に目を向ければ、こちらへモデルガンを向ける姿があった。
 先の二人と比べれば特徴が薄い、普通の恰好かっこうをしていれば不良とも思われなそうなヤンキーC。
 その後ろにはまた新たな三人のヤンキーが控えている。

 ちなみに、向かって右前方の道路中央辺りでは、先ほど倒したヤンキーAが今なお倒れたまま雪にうずもれ、脚を押さえ小さくうめき声を上げていた。まぁ、彼に対する警戒の必要はなかろう。

「まったく、次から次へと!」
「私の方では二十三人まで確認しています」
「……思っていたよりも多いなぁ。あまり嬉しくない情報をありがとう」

 目の前のメイン通りは左右へ伸びており、右手が彼らヤンキーの入ってきた方向となる。
 いたるはシャッター街の南側入り口、今のところ行く手をふさがれてはいないが、おそらく各所に彼らの見張りが立てられていると思われ、僕に土地勘もないため危険度は高そうだ、

 逆に、左へ行くなら僕が探索してきた通りを経てシャッター街の北側入り口に抜けられる。
 追っ手をけそうな複雑な裏路地、別の大通りへ抜けられそうな広めの庭がある廃屋……など、詳細な脳内マップを把握はあくしている。ただし、既に臨戦態勢にあるヤンキー四人が道を塞ぎ――。

――ガツっ! ガツっ! ガツっ!

 こちらに考える暇も与えず、降りしきる雪を切り裂いてヤンキーCによる銃撃が降り注ぐ。

 彼が持つモデルガン――と言っても、弾を撃つ機構を持たない玩具おもちゃではなく、圧縮ガスによりプラスチック弾を撃ち出すエアソフトガン、しかも違法改造した高威力なそれと思われる。
 法的には『準空気銃』とカテゴライズされ、所持しているだけで銃刀法違反の対象だ。

 発せられる音はコミカルながら、たとえプラスチック製の小さな弾でもバカにはできない。
 撃たれれば服越しであろうと相当痛く、もし顔にでも当たれば大怪我おおけが必至の危険な代物しろものである。

 僕らは、路地へと一旦引っ込み、銃撃から身を隠しながら素早く思案する。

『なんにせよ、このままではジリ貧だろう。さて、どうするか?』

「右へ走ります。遅れずに付いてきてください。撃たれても止まらないで」

 僕の心の声にこたえたわけではなかろうが、少女はそれだけ言い、勢いよく路地を飛び出した。
 ワンテンポ遅れ、その後に続く。

「止まれや!! 逃げらんねーぞ!」
「おら、オッサン! 女よこしゃテメーは見逃してやる! チッ! 待てってんだコラ!」
「――おう、見つけた。今追ってる、男と女の二人組。おう、おう、他の奴らも回せ、アアん!? ちっげーよ! そっちじゃねぇボケ! おう、そう、通りの方――」

――ガツっ! ガツっ!

「ヲイ、コラ、さっきからどんだけ外してんだよ! どヘタクソが!!」
「るっせぇ! くれえんだ! んな簡単に動いてるまと当てられっか!」

『うん、仲がくて大変結構。その調子でわめき散らしながら体力どんどん使ってくれたまえ』

 そんな調子で後ろから追いかけてくるヤンキーとの距離は徐々に開いていく。
 通りの周囲で待ち構えているらしい彼らの仲間のことを考えなければ、このまま引き離せそうではあるのだが。

「はっ、はっ……君、どうする気なんだ!? ……強引に囲みを抜けるのか?」
「荒っぽいことをしなくとも、二人いれば逃げきれると思います。協力してください」

 さっきは危ないところを助けてもらったことだし、元より僕にはこっち側の土地勘がないのだ。
 ひとまずは彼女に従ってみようか。

「あぁ、分かった。僕にできることがあれば言ってくれ」

     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 少女の後を付いて薄暗い脇道に駆け込み、路地から路地へとぐねぐね移動しているうち、気が付けば追っ手であるヤンキーたちの声は聞こえなくなっていた。

 とは言え、この複雑な細い路地裏は、かろうじて行き止まりの袋小路にこそいたらないものの、どうやら他の通りへと続く抜け道などではなさそうだ。
 このままでは、いずれ多人数で追ってくる彼らに追い詰められてしまうのは確実と思える。

『ほんの一時的であるにせよ、剣呑けんのんな連中をけたことに多少の気は安まるけれども』

 やがて、そこから更にいくつかの路地を抜けたところで少女が足を止めた。

此処ここです。このへいを乗り越えたいんです」

 細い路地で視線を上に向けたりせず走っていたため、他と変わらぬ建物の壁だと思っていたが、どうやらこの一画いっかくだけ道の片側が塀になっているようだ。

 しかし、その高さはざっと見てバスケットボールのゴール位置――三メートル以上はあろうか。
 助走を付けて跳んでも上面に手が届きそうになく、登れそうな電柱や足場になりそうなものも見当たらない。

『越える? この高い壁をか……』
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