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1.ムカつくクラスメイト
8月下旬③
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こいつほんまうるさい。かまへんけど、声かけられたら嫌やっていう微妙な気持ち、察せよ。遥大は答えずに、さっさと自販機に向かった。嶋田は追いついてきて、しつこくレイクサイドの話を続けようとする。
「でももう、8月いっぱいで辞めるんやったっけ?」
「……いや、金曜だけもうちょっと手伝うかも」
最終出勤日になるはずだった4日前、宮間に泣きつかれた。7月から遥大は新人の高1の男子に仕事の引き継ぎをしているのだが、彼は金曜に塾に行っており、今年度は出勤が難しいようなのだ。さしあたり9月に入ったら、ライブの無い金曜は金澤が残ってフォローし、第2と第4金曜は遥大が出勤することになった。
家族にもバイト先の話はあまりしないのに、ついレイクサイドの内情を嶋田にぺらぺらと話してしまい、後悔した。そんな遥大の気も知らず、嶋田は明るく言った。
「俺あそこ何か好きやわ……ブラックストーンさんも気に入ってはるみたいやし、平池がバイト続けてる間にもう1回行けたらええな」
あんな狭い店がいいなんて物好きだと思う反面、長く勤めてきた店を気に入ってもらえる気持ちよさのようなものがあった。遥大だってあの店が好きだから、2年半アルバイトを続けてきたのだ。
遥大は財布から千円札を抜き出した。自販機の投入口に挿し入れて、頼まれたもののボタンを順番に押していく。すると嶋田が、今度は感心したように言った。
「平池すごいな、大道具のみんなの飲み物全部覚えてるんか」
それ、すごいんか? 遥大は取り出し口から缶コーヒーやコーラを出しながら、雑に答えた。
「6人分くらい覚えられるやろ」
「自慢ちゃうけど、俺は確実に無理やで」
今度は嶋田が、メモを見ながら1本ずつ飲み物を買う。彼はズボンのポケットから出した水色のエコバッグを広げ、その中に缶やペットボトルを入れていった。
「平池もここ入れろ」
その用意の良さがやや意味不明だったが、自分の分を合わせて7本の飲み物を抱えているのが少々辛かったので、遥大は嶋田の好意に甘えることにした。エコバッグの中に、汗をかき始めた飲み物がごろごろと積まれる。それを見ながらセミの声を聞くと、だしぬけに夏だなと思う。
重そうで申し訳ないので、遥大はぱんぱんになったエコバッグの持ち手に手を伸ばした。
「あんまり意味無いかもやけど、片っぽ持つわ」
「ありがと、こっち持ってくれたら嬉しい」
嶋田が右手でバッグの持ち手を持とうとするのを見て、フィドルの弦を押さえる左手を守っているのだと遥大は察した。バッグを挟んで並んで校舎に戻ると、入り口でやはり買い出しに来たらしい、隣のクラスの女子3人とすれ違う。彼女らが遥大と嶋田をちらっと見比べ、一様に値踏みする目になった。
それに気づいた遥大は、面倒くさいと思った。遥大などは、理数科クラスのリーダーで常時成績が上位3位以内だから、学年内で一目置かれているが、それが無ければただの陰キャだ。それに対し、知られていないだけで、嶋田は見かけが平均以上で人当たりもいいし、音楽をやっていてたまに授業に来ないといった行動も、良く言えばミステリアスさを演出している感がある。
「でももう、8月いっぱいで辞めるんやったっけ?」
「……いや、金曜だけもうちょっと手伝うかも」
最終出勤日になるはずだった4日前、宮間に泣きつかれた。7月から遥大は新人の高1の男子に仕事の引き継ぎをしているのだが、彼は金曜に塾に行っており、今年度は出勤が難しいようなのだ。さしあたり9月に入ったら、ライブの無い金曜は金澤が残ってフォローし、第2と第4金曜は遥大が出勤することになった。
家族にもバイト先の話はあまりしないのに、ついレイクサイドの内情を嶋田にぺらぺらと話してしまい、後悔した。そんな遥大の気も知らず、嶋田は明るく言った。
「俺あそこ何か好きやわ……ブラックストーンさんも気に入ってはるみたいやし、平池がバイト続けてる間にもう1回行けたらええな」
あんな狭い店がいいなんて物好きだと思う反面、長く勤めてきた店を気に入ってもらえる気持ちよさのようなものがあった。遥大だってあの店が好きだから、2年半アルバイトを続けてきたのだ。
遥大は財布から千円札を抜き出した。自販機の投入口に挿し入れて、頼まれたもののボタンを順番に押していく。すると嶋田が、今度は感心したように言った。
「平池すごいな、大道具のみんなの飲み物全部覚えてるんか」
それ、すごいんか? 遥大は取り出し口から缶コーヒーやコーラを出しながら、雑に答えた。
「6人分くらい覚えられるやろ」
「自慢ちゃうけど、俺は確実に無理やで」
今度は嶋田が、メモを見ながら1本ずつ飲み物を買う。彼はズボンのポケットから出した水色のエコバッグを広げ、その中に缶やペットボトルを入れていった。
「平池もここ入れろ」
その用意の良さがやや意味不明だったが、自分の分を合わせて7本の飲み物を抱えているのが少々辛かったので、遥大は嶋田の好意に甘えることにした。エコバッグの中に、汗をかき始めた飲み物がごろごろと積まれる。それを見ながらセミの声を聞くと、だしぬけに夏だなと思う。
重そうで申し訳ないので、遥大はぱんぱんになったエコバッグの持ち手に手を伸ばした。
「あんまり意味無いかもやけど、片っぽ持つわ」
「ありがと、こっち持ってくれたら嬉しい」
嶋田が右手でバッグの持ち手を持とうとするのを見て、フィドルの弦を押さえる左手を守っているのだと遥大は察した。バッグを挟んで並んで校舎に戻ると、入り口でやはり買い出しに来たらしい、隣のクラスの女子3人とすれ違う。彼女らが遥大と嶋田をちらっと見比べ、一様に値踏みする目になった。
それに気づいた遥大は、面倒くさいと思った。遥大などは、理数科クラスのリーダーで常時成績が上位3位以内だから、学年内で一目置かれているが、それが無ければただの陰キャだ。それに対し、知られていないだけで、嶋田は見かけが平均以上で人当たりもいいし、音楽をやっていてたまに授業に来ないといった行動も、良く言えばミステリアスさを演出している感がある。
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