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3.ドレスリハーサル
9月第1週 木曜日⑧
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「嘘っ、平池くんほんまにかわいいやん」
木野の小さな叫びに、遥大はもがくのを止めた。嶋田の声が頭上から降ってくる。
「やろ? コンタクトにして前髪上げて、つけ毛したらドレス似合いそうちゃう?」
2人の会話に、頭がくらくらした。遥大の混乱も慮らず、木野は手渡された眼鏡のつるを両手に持ったまま、わくわくした口調になる。
「うんうん、肌も白いし、あのドレス絶対似合うわ……平池くんが着たら全然違う魅力が出そう!」
何でそうなんねん! 周りの人間もこちらに注目し始めて、いたたまれないことこのかたない。顔に熱がどんどん集まってくる。
遥大はようやく、嶋田に外堀を埋められ始めていることに気づいた。クラスの連中だって、冴えない容姿の男子がヒロイン役をすることに、仕方が無くてもどこか納得いかないに違いない。まず周囲のその気持ちを極力晴らし、代役を今にも断りそうな遥大の逃げ場を失くそうとしているのだ。
「だから! 見かけの問題だけと違うやろが!」
遥大は姿がぼんやりしている2人に向かって半ば叫んだが、その様子を見ていた長谷部まで、ふうん、と感心するような素振りを見せる。
「いや、この作品においてジュリエットの見かけは大事やで? ロミオは宿敵の家の女やのに一目惚れして、嫁にしたいって必死になるんやから」
ロレンス神父役の原山が茶を飲みながらやってきて、おっ、と声を裏返した。
「平池の新たな魅力が開拓されるんか? いやぁ平池、みんな芝居下手くそやから、こうやって見かけと衣装でごまかしてるんやん」
そうそう、と嶋田が肩を揺らして応じ、原山は黒くて長い上着の裾と首からぶら下げたロザリオを揺らして、1回転してみせる。そしておどけて遥大を指差した。
「3-A史上最高のクラスリーダーの呼び声が高いおまえが、それを察してへんとはがっかりやなぁ」
原山の動きがツボにはまったのか、木野がげらげら笑った。しかし遥大は笑う気にもなれず、勝手にがっかりしとけと言いたくなる。そんな風に原山は言うが、舞台組は練習の甲斐あって、演劇らしい仕上がりを見せ始めているのだ。嶋田も見かけ倒しかと思いきや、あの夜のフィドルの音のように、落ち着きと明るさを兼ね備えたロミオ像を作り上げている。
高村が休憩時間の終わりを告げたので、やっと遥大は拘束を解かれ、眼鏡を返してもらえた。頬が熱いのに困惑しながら前髪を慌てて直していると、ごめんな、と小さく嶋田は言った。
「あとでちょっと話できる? 俺も平池を追い詰めたい訳やないんやけど」
そう言うロミオは、かなり申し訳無さそうだった。少なくとも彼は、自分をいじるつもりではない。それは遥大も感じるのだが、わかった、とあっさり答えたくない強情が顔を出す。
「……早よ行けや、みんな待ってるやろ」
むすっとしたまま口にすると、嶋田はしかたなく教室の前方に向かった。彼に八つ当たりしたようで、その背中を見送りながら、遥大は軽く自己嫌悪に陥った。
木野の小さな叫びに、遥大はもがくのを止めた。嶋田の声が頭上から降ってくる。
「やろ? コンタクトにして前髪上げて、つけ毛したらドレス似合いそうちゃう?」
2人の会話に、頭がくらくらした。遥大の混乱も慮らず、木野は手渡された眼鏡のつるを両手に持ったまま、わくわくした口調になる。
「うんうん、肌も白いし、あのドレス絶対似合うわ……平池くんが着たら全然違う魅力が出そう!」
何でそうなんねん! 周りの人間もこちらに注目し始めて、いたたまれないことこのかたない。顔に熱がどんどん集まってくる。
遥大はようやく、嶋田に外堀を埋められ始めていることに気づいた。クラスの連中だって、冴えない容姿の男子がヒロイン役をすることに、仕方が無くてもどこか納得いかないに違いない。まず周囲のその気持ちを極力晴らし、代役を今にも断りそうな遥大の逃げ場を失くそうとしているのだ。
「だから! 見かけの問題だけと違うやろが!」
遥大は姿がぼんやりしている2人に向かって半ば叫んだが、その様子を見ていた長谷部まで、ふうん、と感心するような素振りを見せる。
「いや、この作品においてジュリエットの見かけは大事やで? ロミオは宿敵の家の女やのに一目惚れして、嫁にしたいって必死になるんやから」
ロレンス神父役の原山が茶を飲みながらやってきて、おっ、と声を裏返した。
「平池の新たな魅力が開拓されるんか? いやぁ平池、みんな芝居下手くそやから、こうやって見かけと衣装でごまかしてるんやん」
そうそう、と嶋田が肩を揺らして応じ、原山は黒くて長い上着の裾と首からぶら下げたロザリオを揺らして、1回転してみせる。そしておどけて遥大を指差した。
「3-A史上最高のクラスリーダーの呼び声が高いおまえが、それを察してへんとはがっかりやなぁ」
原山の動きがツボにはまったのか、木野がげらげら笑った。しかし遥大は笑う気にもなれず、勝手にがっかりしとけと言いたくなる。そんな風に原山は言うが、舞台組は練習の甲斐あって、演劇らしい仕上がりを見せ始めているのだ。嶋田も見かけ倒しかと思いきや、あの夜のフィドルの音のように、落ち着きと明るさを兼ね備えたロミオ像を作り上げている。
高村が休憩時間の終わりを告げたので、やっと遥大は拘束を解かれ、眼鏡を返してもらえた。頬が熱いのに困惑しながら前髪を慌てて直していると、ごめんな、と小さく嶋田は言った。
「あとでちょっと話できる? 俺も平池を追い詰めたい訳やないんやけど」
そう言うロミオは、かなり申し訳無さそうだった。少なくとも彼は、自分をいじるつもりではない。それは遥大も感じるのだが、わかった、とあっさり答えたくない強情が顔を出す。
「……早よ行けや、みんな待ってるやろ」
むすっとしたまま口にすると、嶋田はしかたなく教室の前方に向かった。彼に八つ当たりしたようで、その背中を見送りながら、遥大は軽く自己嫌悪に陥った。
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