48 / 66
7.本番前
9月第2週 水曜日①
しおりを挟む
湖南高校の歴史ある文化祭は、地元のお祭りでもあるので、いくつかの新聞の地方面に今年も予定通り開催する旨の記事が載った。学校のホームページにも、「湖南祭」の別ページへのリンクが貼られていて、各部活動の発表や学年のイベントの詳細な案内が全て出揃った。
例年、文化祭において3年生の演劇は注目度が高いが、総監督の高村が書き、脚本の松井が校正した3-A「ロミオとジュリエット」の紹介文は、学校中をざわめかせ、遥大をぶすったれさせた。
『この物語の本質に迫り、シェイクスピアの普遍的かつ色褪せないメッセージを、本格的な舞台ヴィジュアルと共に、A組が総力をあげて贈ります。隠れ過ぎていた逸材・嶋田奏汰と、童貞ピュアな魅力を発揮するクラスリーダー・平池遥大が、悲劇の恋人たちに挑みます。乞うご期待』
こんな名誉棄損レベルの紹介文を通した長谷部や、文化祭実行委員会もおかしいし、せめて提出前にちらっと見せてほしかった。おかげで遥大は朝から、トイレに行ったり教室移動したりするたびに、他のクラスの者からの視線を感じて仕方がない。
落ち着かない気分で昼休みを迎えると、B組の写真部部長の梶原真尋がA組の教室を覗きにきた。
「平池、ちらほら噂は出てたけどガチンコでジュリエットするんや」
まあな、と遥大はぼやき気味に答えた。梶原はA組の男女逆転ロミジュリで、「ロミオを推す令嬢その2」を演じるらしい。A組のキャストの情報はあらかた入ってきていたが、原作に無い何者だかわからない役が散見され、演出が混乱しても仕方なさそうだ。
梶原は軽くしなを作った。
「つうことは、平池は俺のライバルやん……」
「やめてくれ、最初っから最後まで意味がわからん」
遥大は思わず眼鏡に手をやった。梶原はやっと本題に入る。
「写真部の展示、明日の放課後に1年と2年が作ってくれんねん、練習大変やと思うけどちらっと見に行ったって」
正直なところ、部活の発表のことをすっかり忘れていた。遥大は梶原に確認する。
「C棟の1階やったよな?」
「うん、平池の写真3枚綴りやし、展示の仕方にこだわりあるんやったら」
「了解、ありがとう」
梶原はやはり遥大に向かってしなを作りつつ、顔の横で小さく手を振って隣の教室に戻った。遥大より身体が大きく、建造物や大きな動物などをダイナミックに撮るのが得意な梶原には、かなり似合わない仕草だった。
国公立文系志望者が集うB組は、男女比はほぼ半分ずつだが、女子のほうが勢力が強い。梶原を含む女装男子たちが、女子たちにぎゃあぎゃあ言われながら練習する光景が目に浮かんだ。
遥大が食事をするべく教室に入ろうとすると、徳永が階段の踊り場から出て、こちらに向かい廊下を進んでくるのが見えた。気づかなかったふりをしたくなった遥大だったが、その場で徳永を待った。
「平池くん、おはよう」
午前中病院に行っていたらしい徳永は、いつもと変わらない口調で挨拶したが、いつも白い瞼がやや腫れていた。家に帰ってからも、泣いていたに違いなかった。遥大の胸に同情が湧く。
「……大丈夫?」
「うん、長谷部先生も電話くれたし……昨日はほんまにごめん」
徳永は潔かった。遥大は黙ってうなずいた。
昼食を手に入れるために購買に行っていた嶋田と倉崎が、教室に戻ってくる。彼女は2人にも謝る。
「嶋田くんの言う通りやってやっと納得できた、倉崎くんもはらはらさせてごめん」
いやいや、と倉崎は言い、嶋田は両手にパンと牛乳を持ったまま、徳永に応じた。
「うん、ちょっと言葉きつかったんは俺も悪かった」
嶋田が徳永に謝ることなど何も無いような気もするのだが、彼はジェントルマンなのだ。嶋田は昨日、帰りの電車で別れて以降も、メッセージを2度くれた。遥大もだいぶ気持ちが晴れて、芝居の難しい場面にどうアプローチしたらいいのか、前向きに考える気になれた。
例年、文化祭において3年生の演劇は注目度が高いが、総監督の高村が書き、脚本の松井が校正した3-A「ロミオとジュリエット」の紹介文は、学校中をざわめかせ、遥大をぶすったれさせた。
『この物語の本質に迫り、シェイクスピアの普遍的かつ色褪せないメッセージを、本格的な舞台ヴィジュアルと共に、A組が総力をあげて贈ります。隠れ過ぎていた逸材・嶋田奏汰と、童貞ピュアな魅力を発揮するクラスリーダー・平池遥大が、悲劇の恋人たちに挑みます。乞うご期待』
こんな名誉棄損レベルの紹介文を通した長谷部や、文化祭実行委員会もおかしいし、せめて提出前にちらっと見せてほしかった。おかげで遥大は朝から、トイレに行ったり教室移動したりするたびに、他のクラスの者からの視線を感じて仕方がない。
落ち着かない気分で昼休みを迎えると、B組の写真部部長の梶原真尋がA組の教室を覗きにきた。
「平池、ちらほら噂は出てたけどガチンコでジュリエットするんや」
まあな、と遥大はぼやき気味に答えた。梶原はA組の男女逆転ロミジュリで、「ロミオを推す令嬢その2」を演じるらしい。A組のキャストの情報はあらかた入ってきていたが、原作に無い何者だかわからない役が散見され、演出が混乱しても仕方なさそうだ。
梶原は軽くしなを作った。
「つうことは、平池は俺のライバルやん……」
「やめてくれ、最初っから最後まで意味がわからん」
遥大は思わず眼鏡に手をやった。梶原はやっと本題に入る。
「写真部の展示、明日の放課後に1年と2年が作ってくれんねん、練習大変やと思うけどちらっと見に行ったって」
正直なところ、部活の発表のことをすっかり忘れていた。遥大は梶原に確認する。
「C棟の1階やったよな?」
「うん、平池の写真3枚綴りやし、展示の仕方にこだわりあるんやったら」
「了解、ありがとう」
梶原はやはり遥大に向かってしなを作りつつ、顔の横で小さく手を振って隣の教室に戻った。遥大より身体が大きく、建造物や大きな動物などをダイナミックに撮るのが得意な梶原には、かなり似合わない仕草だった。
国公立文系志望者が集うB組は、男女比はほぼ半分ずつだが、女子のほうが勢力が強い。梶原を含む女装男子たちが、女子たちにぎゃあぎゃあ言われながら練習する光景が目に浮かんだ。
遥大が食事をするべく教室に入ろうとすると、徳永が階段の踊り場から出て、こちらに向かい廊下を進んでくるのが見えた。気づかなかったふりをしたくなった遥大だったが、その場で徳永を待った。
「平池くん、おはよう」
午前中病院に行っていたらしい徳永は、いつもと変わらない口調で挨拶したが、いつも白い瞼がやや腫れていた。家に帰ってからも、泣いていたに違いなかった。遥大の胸に同情が湧く。
「……大丈夫?」
「うん、長谷部先生も電話くれたし……昨日はほんまにごめん」
徳永は潔かった。遥大は黙ってうなずいた。
昼食を手に入れるために購買に行っていた嶋田と倉崎が、教室に戻ってくる。彼女は2人にも謝る。
「嶋田くんの言う通りやってやっと納得できた、倉崎くんもはらはらさせてごめん」
いやいや、と倉崎は言い、嶋田は両手にパンと牛乳を持ったまま、徳永に応じた。
「うん、ちょっと言葉きつかったんは俺も悪かった」
嶋田が徳永に謝ることなど何も無いような気もするのだが、彼はジェントルマンなのだ。嶋田は昨日、帰りの電車で別れて以降も、メッセージを2度くれた。遥大もだいぶ気持ちが晴れて、芝居の難しい場面にどうアプローチしたらいいのか、前向きに考える気になれた。
11
あなたにおすすめの小説
真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉
小池 月
BL
☆ファッティ高校生男子<酒井俊>×几帳面しっかり者高校男子<風見凛太朗>のダイエットBL☆
晴青高校二年五組の風見凛太朗は、初めて任された学級委員の仕事を責任を持ってこなすために日々頑張っている。
そんなある日、ホームルームで「若者のメタボ」を注意喚起するプリントが配られた。するとクラス内に「これって酒井の事じゃん」と嘲笑が起きる。
クラスで一番のメタボ男子(ファッティ男子)である酒井俊は気にした風でもないが、これがイジメに発展するのではないかと心配する凛太朗は、彼のダイエットを手伝う決意をする。だが、どうやら酒井が太っているのには事情がありーー。
高校生活の貴重なひと時の中に、自分を変える出会いがある。輝く高校青春BL☆
青春BLカップ参加作品です!ぜひお読みくださいませ(^^♪
お気に入り登録・感想・イイネ・投票(BETボタンをポチ)などの応援をいただけると大変嬉しいです。
9/7番外編完結しました☆
隣のチャラ男くん
木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。
お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。
第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
猫と王子と恋ちぐら
真霜ナオ
BL
高校一年生の橙(かぶち)は、とある理由から過呼吸になることを防ぐために、無音のヘッドホンを装着して過ごしていた。
ある時、電車内で音漏れ警察と呼ばれる中年男性に絡まれた橙は、過呼吸を起こしてしまう。
パニック状態の橙を助けてくれたのは、クラスで王子と呼ばれている千蔵(ちくら)だった。
『そうやっておまえが俺を甘やかしたりするから』
小さな秘密を持つ黒髪王子×過呼吸持ち金髪の高校生BLです。
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる