夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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8 作興

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「皆さん、ありがとうございました!」

 ユウヤがマイクを持って言うと、拍手がまたうねりを作る。

「本当にありがとうございます、今から私ども御礼におひとりずつにお酌して回りますので、お時間のあるかたは是非お待ちください」

 ユウヤの説明の間に、スパークリングワインの瓶が舞台に回され、5人全員が瓶を持ち舞台の奥に下がった。

「せーのっ、メリー・クリスマス!」

 ユウヤの掛け声に合わせて、しゅぽんという音が次々と響き、ダンサーたちのワインの栓が飛んだ。その時一斉にパン! と高い音があちこちで鳴り、クラッカーを持った店員たちも拍手をした。わっと声が上がる。

「凄かったなあ、ちょっとこれはなかなか観れないよ」

 美智生はスパークリングワインを振る舞われるというのに、ビールをオーダーする。喉が渇いたので晴也も便乗した。

「興奮して今夜寝られないかもです」
「ショウに慰めてもらえ」
「それは微妙」

 やってきたビールを二人して一気に喉に流し込み、笑った。たぶん晴也にとっては、子どもであることを卒業して以来、最も楽しいクリスマスだ。今週はめぎつねでも何かと楽しかったし、今日は最高の舞台を観ることができた。
 晴也は一応コンパクトを取り出して、涙で化粧が剥げていないかをチェックした。ダンサーたちはようやく美智生と晴也のところにやって来て、タケルが差し出したグラスに、ユウヤとショウが黄金色の液体を注いだ。

「今夜も……といいますか今年一年ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しませていただきましたぁ」

 グラスを受け取った美智生はユウヤに満面の笑顔を向ける。晴也は、サトルが自分たちをぽかんと見つめているのに気づいた。

「あれっ、女装して来るの初めてじゃないですよ」
「あ、その時あまりお話ししなかったので」

 ユウヤがサトルをからかう。

「恐ろしいだろう? 二つ隣のビルにこの性別不詳の方々は棲息してる」
「化け物じゃないぞ……次はPerfumeはミニドレスとハイヒールで演るんだよな? 俺たち女装の指導するわ」

 いやいや、と5人は一斉に美智生の提案をやんわり否定する。

「あれ凄いですね、タケルさんが全部アレンジしたんですか? あと、シング・シング・シングも……」

 晴也の質問にタケルは少し得意げに語る。

「元の振り付けが完全に3人用なので、5人でそれらしく見えるようにしました……シング・シング・シングはソロパートは個人で振りを付けてます、終盤はほぼアドリブだよな」

 ユウヤとショウが頷く。

「曲がベニー・グッドマンのバージョンだからプレイヤーもアドリブなんですよ、その雰囲気を出したくて」

 ショウが補足した。彼はふわっと笑ったが、晴也の顔を見て笑いを消した。美智生はショウの表情の変化を見逃さなかった。

「ハルちゃんは感動のあまり涙が勝手に出てたみたいだよ」

 晴也は恥ずかしくなり下を向いた。皆がおおっ、と声を上げる。

「ダンサー冥利に尽きますね」
「そうそう、サトルはもう泣かなくていいから」

 笑いが起きた。晴也が顔を上げると、ショウが目を細めてこちらを見ていた。伝えたいことが沢山あったが、上手く言葉を選べない気がしたので、晴也はお疲れさまでした、としか言えなかった。

「今日は女の子だから帰りほんとに気をつけて」

 ショウは他のメンバーを先に行かせてから、小さく言った。すぐに言葉が出ない晴也に代わって、美智生が答える。

「新宿駅までは一緒に行くよ、その後が気になるならおまえが来い」
「あ、大丈夫だよ、ショウさんこれから打ち上げとかあるだろ?」
「いや、特に予定は……後でまた」

 ショウは小走りで舞台の上に戻る。そして最後の喝采に応えた。

「何だ、つき合ってるようなものじゃないか」

 ダンサーたちに拍手を送りながら、美智生は晴也ににやにやした顔を向けた。

「つき合ってませんっ」
「ハルちゃんがそうでもショウは違うだろ」
「だとしたらあっちの勝手です」

 ハルちゃんひどい、と美智生は笑う。晴也はやはり、「つき合う」というのがどういう状態を指すのかがよくわからない。まあでも、ぼちぼち流れに任せよう。舞台の上で観客に手を振る「彼氏」を見て思う。ぷちぷち口の中で弾ける金色の水のせいか、晴也はいつになく気持ちが大きくなっていた。
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